話が通じない上司とうまく対話する方法

第二回読者交流会で挙がった声

4月に開催した第二回読者交流会にご参加くださった皆さまありがとうございました。今回は10歳の女の子と対話しながら進めました。協力してくれてありがとう!

大人の参加者から挙がった対話の悩み・質問は、相手との「すれ違い」についてでした。

  1. 質問しても、相手から期待した答えが返ってこない。ポイントがズレている
  2. その話も面白いからついつい聞いてしまうが、聞かなければいけない話に戻せない
  3. ちゃんと聞き理解しているのに、それが相手に伝わらない。何度も同じ話をされる

「一般化」して考えない

この相談を受けた時、これは、ある特定の人との間でだけよく起こる現象だろうと想像しました。確認したところ、案の定、相手は上司でした。だとすれば、悩みを一般化してしまうのではなく、その N = 1 の対策を徹底的に練るべきです。

一番目の「期待した答えが返ってこない」原因は、上司があなたの話をきちんと聞いていないからです。付き合いが長いので、あなたのことを「こういう人だ」と決めつけています。
「質問したいのは、いつものあれのことだろう?」が上司の頭にあるので、あなたの話をちゃんと聞かないうちに、先回りした回答を勝手に喋り始めるのです。

対策は、上司のあなたに対する「決めつけ」や、極端な場合の「見下し」を排除することです。「違います」を都度、はっきり言いましょう。上司があなたに一目置くようにすることが当面の目標です。

そのために、上司とは仕事以外の話題でも色々と話をする機会を設けてください。あなたの特技や他人とはちょっと異なる経験などをアピールする機会とします。一目置かせるのは難しくても「覚えよろしく」なるよう、記憶に残るような印象付けを意識してください。

日本の職場は一般に、まだまだフラットな関係を形成しづらい雰囲気にあります。そこには、日本語の特徴も影響していると私は考えています。
これについては、本稿の最後、「カワイイ」について書くところで触れます。

「項目リスト」を事前に渡す

二番目の「聞かなければいけない話に戻せない」のは準備不足だからです。準備をしっかりした後に上司との面談に臨むようにしましょう。

用意するものは二つです。一つは、面談時に二人の間の、両者からよく見える位置に置く「項目リスト」です。今日はこれについて話をさせてくださいと見せるためのものですが、これはできれば前日までに上司に渡すようにします。何についての話し合いかが事前にわかれば上司にとっても気が楽でしょうから、事前の受け取りを拒否されることは普通ならないはずです。

もし、そのような態度を取る上司の場合は、一度、後悔させましょう。上司側が準備不足で臨んだために「消化不良感」を味わうようなことです。話し合う項目についてのあなたの準備が完璧ならそのようなことは起こり得ます。ただし、騙し討ちで追い込みをすることは禁忌です。項目リストに載っていないことを話題にして相手を追い込んではいけません。

ところで、項目リストを用意する、それを事前に相手に渡すなら、ミーティングそのものをやらなくて済むのではないかと考えるでしょうか。確かに、そういう場合もあるでしょう。事務連絡的なことが主題なら、ほぼそうなります。項目一つひとつにメールで返せばよいわけですから。

一方、何かのインスピレーションが芽生えることを期待し、ミーティングをやりたがる上司もいます。あなたが、そういうミーティングに上司から頻繁に呼ばれるようになった暁には、先の一番目の問題はとうに解決しています。

準備の二つ目は「ディスカッション・ガイド」

何かしらのインスパイアが起こることを期待してのミーティングですから、話があちこち飛びそうなのは、ある意味、宿命です。それが目的でミーティングをわざわざ持っているとも言えるわけですから。

とはいえ、跳び過ぎも困りものです。ある程度のところで、想定した軌道に議論を戻す必要が出てきます。その際に役立つのがディスカッション・ガイドです。
議論の進行を事前にある程度予測し、「この展開になった場合にはこうしよう」「そっちに話が飛んだ際にはじっくり理由を聞いておこう」「あっちに行きそうな場合は、即、別の話題を振る」など、対話の流れをコントロールするために用いられます。

対話シナリオにも該当するディスカッション・ガイドの例は、次回第12回にてご紹介します。

何度も同じ話をされるのは「見せていない」から

三番目の「何度も同じ話をされる」原因は、一つには相手の癖です。繰り返すことを癖にしている人はいます。あなたの理解に関わらず、自分が繰り返したいことを繰り返しているだけですから、その場合はあまり気にする必要はありません。

ただ、聞かされる方は退屈です。そうならないようにするには、話したことを大きく目立つように書き留め、それを見ながら対話を進めることが有効です。もし、図解が得意なら図や絵にしましょう。これは、あたかも、一番目の対策で触れた「項目リスト」の回答バージョンにあたります。

ひとりへの対策から学習したことを応用する

N = 1 への対策から学習したことの多くは、実は展開が可能です。汎用性があるのです。

対上司でうまくいった対策は、同僚にも、部下にも、クライアントなど外部の人との対話の組み立ての改善にも「効く」部分があります。むしろ、おそらく効果を発揮することの方が多いはずです。ちょっと違うな、この人に対してはうまく当てはまらないな、ということが見つかれば、そこだけをアジャストさせれば良いはずです。

是非、具体的な対象との間の問題を解消するためにできることから、始めてください。

世界で通じるカワイイについて

さて、冒頭で予告した「カワイイ」について触れます。

交流会の中では、最後に、新しい概念の外国語が入ってきた際には、概念ごとそのままその言葉を受け入れ、それを「世界の共通語」として理解し使用してはどうかという話をしました。ツナミやタタミなど名称についてはそのような語は既に存在しますから、さほど難しいことでもないだろうと考えるからです。先日の読者交流会で紹介した equity は、世界中で今後ますます重要となる概念を表す語ですから、そのまま equity として理解しておく方が、かえって便利かもしれません。

その話の中で、概念を示す日本語の中では、カワイイが世界で通用する語だということを挙げてくださった参加者がいました。まさにその通りです。実は、可愛いは日本語の中でも少し面白い部類に入る褒め言葉です。冒頭の、上司相手の対話で苦労することと関連するのですが、日本は対等な人間関係というのがなかなか成立しづらい社会です。これに続けて、​​​​劇作家の平田オリザ氏が『ともに生きるための演劇「対話でゆるやかにつながる」』(NHK出版)の中で興味深い考察を披露していたのでそれを下記に記します。要点として、褒め言葉にも「よくやった」「がんばったな」という上司から部下へ、「いい子だ」「上手ね」は大人から子どもへ、という「評価の意味合い」が入ったり、「さすがですね」「すごいですね」は反対に目下から目上への「気遣い」が入ったりするものが多い。その中にあって「かわいい」は、対等で汎用性のある褒め言葉だ、としています。

カワイイについては、前職の際、ある大学の研究室と一緒に研究したことがあります。この平田氏の考察については、言葉の語源は別として、現代での使われ方としては納得できるところがあります。「哲学する」際には言葉の役割が大変重要ですが、語源に戻るだけではなく、現代の使われ方をよく観察することも大切ですね。

10歳からわかる「まとめ」

・対話における問題は、実際に起こっている事例を具体的に見直すことから、取り組みを考えよう
・考えた対策を具体的に実行し、うまくいくまでやってみよう
・ある特定の人との問題が解消できたら、そのうまくいった方法を他の人とも試してみよう。ほとんどのやり方は、そこでも活きることに気づくはず
・うまくいかなかったところだけ、その人の場合に合うように、また工夫を加えてみよう
・そのように、対策のバリエーションを少しずつ増やしていってみよう

・「カワイイ」という言葉が日本でも世界でも流行したのは、対等な関係で、広い対象に対して使える言葉だったから、というのも理由の一つかもしれない

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