共通テーマ探究は事業開発でまとめる

共通テーマで探究を実施する場合

探究学習・活動に対しては、本来、自身の興味関心に沿ったテーマを選んで取り組むべきです。とはいえ、まだまだ知識の獲得や経験の充足が求められているのが子ども達です。特に小中学校など探究学習・活動の導入当初においては、学校が、全児童生徒に対して共通した一つのテーマに沿った取り組みを促すことがあります。そうすることで、全員が共通に知っておくべきこと、いわゆる勉強の要素を、しっかり学んで理解を深め合う効果が狙えます。子ども達を何班かに分けて班ごとに調べ学習を行い、どこかの段階で発表し合って学びをクラス全体に共有します。調べ学習の内容を1班はAパート、2班はBパートのように担当範囲を班ごとに分ける場合は、調べたことの共有が非常に大切になります。全てが揃わないと全体を把握することが出来ないからです。全ての班が同じ範囲を調べる場合は、お互いの発表を比較しながら、自班の作業におけるヌケモレや、他班の進め方や視点の良いところ等に気付くことができます。

「まとめ・表現」における一工夫

文科省が示す「探究における生徒の学習の姿」に則るなら、上記は「課題の設定」から「情報の収集」「整理・分析」までの作業にあたります。「課題の設定」では、「何々についてよく理解する」のようなことが児童生徒に提示され、それに沿った情報の収集と整理・分析までが行われたと考えられます。

さて、次の「まとめ・表現」はどのようにするのがよいでしょうか。「何々についてよく理解する」が課題であったなら、当然、よく理解できたからこそ為せる「まとめ・表現」であるべきです。小学校など初期の段階でよく見られるまとめは、「何々について、こういうことがわかりました」というものです。それでよいとすると、「整理・分析」との違いがあまりはっきりしません。むしろ、整理しただけともいえます。分析の要素があまり入っていません。中学・高校と進んでくる段階では、「まとめ・表現」は、整理したものから「何かが生まれる、何かを生み出す」ところまで進めて欲しいと感じます。そうすると、独自の分析も必要になりますから、最終ステップを「分析・まとめ・表現」のように捉えて作業をするのがよいでしょう。

私がここでやってもらいたいと感じるのは、情報を収集し整理して、その社会問題について学んだことを元に、その問題を解決するための方策を捻り出すことです。問題をよく理解していなければ効果を発揮する解決案は考え付きません。裏を返せば、解決に役立つ新製品や新サービスが提案されたなら、真に問題を理解していることの証明にもなります。最後のまとめは、自分達でアイデアを出し合って、独自の事業を何か開発することで締め括って欲しいと願います。

防災について学んだなら

「防災」について時間をかけて学び、自分達でも積極的に動いて情報収集などを行ってきた生徒達を例に、どのように事業開発までまとめあげるかを考えてみましょう。

防災について集中的に情報に触れてきた生徒は、次のような体験をしています。

・地域の消防署の方を学校に招き、防災についての講演を聞く

・地域の防災センターなどを訪れ、体験ツアーに参加する

・修学旅行などで、東日本大震災の伝承館や、今年の能登半島地震など被災地を訪れる

この他にも、近所のホームセンターなどに出かけ、防災グッズコーナーを見るでしょう。授業でも、地理の時間にハザードマップを確認したり、地学の時間に火山・地震・気象について学んだりするでしょう。また、中には、防災士資格認定試験に挑戦する生徒も出てきているかもしれません。

このように精力的に情報収集活動を行っていると、カクテルパーティー効果が発生する状態に身が置かれています。何気なく家で過ごしていても、防災関連のニュース音声などが自然と耳に入ってくるようになっているのです。「何々県では、普段から地震への備えをしていると応えた人は何%しかいない」などと偶然耳にすると、それを今度のプレゼンの冒頭に使おうと思うこともあるでしょう。

さて、そのプレゼンは「誰々にこうして欲しい」という思いを説得によって実現しようとして実施されるものです。防災についてよく学び理解したところ、例えば、現状では何々が足りない、あるいは、将来何々が足りなくなる恐れがあるということに気付き、不足を満たすための方策を早急に取る必要があると訴える目的でプレゼンを実施します。方策の実現が一人では無理だとすれば、協力者に対して協力して欲しいと訴えることもあります。そして、その方策が、開発すべき事業となります。

事業開発の中身

どんな事業を開発したいと思うかは、生徒の気付き次第です。新製品のこともあれば、新サービスのこともあります。心構えや備えの必要を訴える生徒もいるでしょうが、人間の心は弱いものです。備えを欠かさないための補助を何か機械的に提供出来れば、それも製品や事業になり得ます。

気付きはあらゆる「場所」について起こるでしょう。災害が起こり得る家、家の周りの生活のための設備、災害が起こった後に避難する避難所、等々。避難所の中では、個人のスペース、共用部分にあるお風呂やトイレ、そこで過ごすのに食べる食事や飲み物、それら一つひとつを丁寧に見つめれば、改善したい・しなければならないと感じることがいくつも目に付くはずです。

気付きはあらゆる「人」に対しても起こるでしょう。被災者になった場合の自分向けの何か、お年寄り向けの何か、子供向けの何か、妊婦向けの何か、等々。あるいは、被災者支援をしてくれているボランティア向けの何か、自衛隊の隊員向けの何か、必要な物資を定期的に届けに来てくれている人達向けの何か。よく見つめるとその場に出入りしている人には色々な役割を持った人がいます。その人ごとに、必要としていることは異なるはずです。

「7W2H + I」を頼りに、気付きのヌケモレを最大限減らしながら作業をしてもらいたいと思います。

【参照】 第40回「探究対話の進め方」

10歳からわかる「まとめ」

・「何々についてよく理解する」を課題として探究を進める場合、最後の「まとめ・表現」は、自分達でアイデアを出し合い、理解した問題の解決に役立つ独自の事業を何か開発することで締め括って欲しい

・問題について理解するために聞いた話、訪れた場所、(擬似)体験したことなどを整理し、問題発生の現場に足りないもの・ことに気付き、不足を埋める何かを考え出して欲しい

・整理の際は、「7W2H + I」を頼りに、気付きのヌケモレを最大限減らしながら作業をして欲しい

第89回「多様な学校と多様な探究」を読む