多様な学校と多様な探究

東京都の多様な学校

東京都教育委員会は、生徒一人一人の能力や特性、興味・関心、進路希望等に応じて学ぶことができるよう、既設の学校の特色化や多様なタイプの都立学校の開設を進めてきています。総合学科高校、単位制高校、科学技術高校、産業高校、進学型商業高校、総合芸術高校、昼夜間定時制高校、チャレンジスクール、エンカレッジスクール、中高一貫教育校などです。これらの特徴は一つの高校の中に組み合わさっている場合もあります。このうち、チャレンジスクールとエンカレッジスクールは東京都独自のものと聞いています。チャレンジスクールは、主に小・中学校で不登校の経験があったり、高校で中途退学を経験したりして、これまで能力や適性を十分に生かしきれなかった生徒が、自分の目標を見付け、それに向かってチャレンジする高校です。また、自分のライフスタイルや学習ペースに合わせて各時間帯(午前・午後・夜間の三部)を選んで入学する、昼夜間の定時制・総合学科・単位制の高校です。一方、エンカレッジスクールは小・中学校で十分能力を発揮できなかった生徒のやる気を育て、頑張りを励まし、応援しながら、勉強や学校行事・部活動などを通して学校生活を充実させる全日制の高校です。いずれも体験型の学習を重視している点が共通しています。

自分探究

探究には多かれ少なかれ自分探究の要素が含まれます。何か特定の社会問題等について、その解決法を探るべく探究を進めていく中でも、その過程では、その社会問題等とは直接は関係のない、自分の向き・不向き、得意・不得意、考え方や行動の癖などに否が応でも気付くからです。チャレンジスクールやエンカレッジスクールに通う生徒は、これらの高校に入学するまでの間、自身の能力や適性を十分に生かしたり発揮したり出来なかったと自覚する生徒が多いとされます。そうであれば尚更、自身の能力や適性によりよく気付くような「自分自身についての探究」を行うことが大切です。

そのためには、探究するテーマを決めるにあたって、学校主導で、クラスや学年で全員が同じ一つのことを探究するというやり方は避けたいところです。動き出すまでに大変な時間がかかるでしょうが、一人ひとりが充分納得いくまで丁寧に自身の気持ちと対峙して、本人の真の興味・関心をテーマに選べるような進め方を取るのが理想です。

ここでお勧めしたいのは脳内検索®︎です。多くの子ども達には、「不自由」を感じず、おおらかな気持ちで楽しく過ごしていた時期がどこかにあったのではないかと思います。それを思い出してもらおう、そこから自身の心の内に気づいてもらおうとする作業が、脳内検索®︎です。

【参照】 第13回「内なる問いから『わくわく』『もやもや』を探す」

【参照】 第14回「『自分年表』から本音を探す」

(中には確かに、想像を超える体験をしてきた子ども達がいることも知られています。例えば、里子を預かっている方の体験談として聞いた中には、受け入れ初日にその子に「何が食べたい?」と尋ねたが何も答えが返ってこなかったという話がありました。「ハンバーグ? カレー?」などと聞いても、反応がありません。理由は、それらをまだ一度も食べたことがなかったので知らなかったからだというのです。炊飯ジャーを渡され、いつでもご飯を炊いて食べていいと実の母親から言われていたそうですが、食事はいつもそれだけだったというのです。そんな話を聞くと、その子には振り返って楽しくなる良い思い出などきっと何もないのだろうと想像してしまいます。その場合は、これから共にゼロから創り出していくような伴走が求められるのでしょう。)

マイスター・ハイスクール

マイスター・ハイスクールは、令和3年度から文科省による事業指定が始まった、次世代地域産業人材育成刷新事業を指します。新規指定は令和5年度で終了し、令和3年度から毎年12校、3校、2校と計17校での事業が指定されました。令和6年度からはマイスター・ハイスクール普及促進事業へと移行し、現在、先進的取組型4件と連携体制強化型8件の計12件の事業がマイスター・ハイスクール事業企画評価会議における審査を経て採択されています。数え方が校ではなく件となっているのは、普及促進事業の管理機関が県または県教育委員会で、拠点校は各県1校とは限らないからです。農業、水産、工業、商業などの科を持つそれぞれの高校が拠点校となり、各県の該当する産業分野と連携体制を構築しながら事業を展開します。連携予定の産業界の団体、企業、大学、市などの名が明示され、地域産業における課題に実践的に取り組める体制にあります。

産業課題解決型の探究

マイスター・ハイスクール事業(次世代地域産業人材育成刷新事業)に関わる高校は、地域産業の次代を担う人材育成に一層の力を入れているわけですから、そこの生徒は高校時代から、地域の産業界との密接な連携を体験します。自身が所属する農業科、水産科、工業科、商業科などに直結した地域産業界の大人と日々交流をする機会がある中で、高校生の視点で該当の地域産業をどのように活性化していくかなどについてアイデアを出し、それを実際に試してみることが求められます。

こちらでの「自分探究」は、他の高校生に比べると自身の職業観にもより繋がっている・繋がっていくといえます。具体的な業界の課題を自身で見つけたり、時には、業界の人から直接持ちかけられたりして、その解決策を探ることが探究のテーマになるでしょう。普通は、その職業に就いてから始まるタイプの探究ジャーニーを、一足早く始めることになります。これは、決して悪いことではありません。仕事上で直面する課題の解決に向けて、直面した後に一旦仕事を離れ、その時点から大学等の専門的機関で本格的に学ぶということもできます。

高校時代にしっかりと自分に近づけた業界課題の捉え方ができるためには、地域の人々との交流が最も必要になります。他人事(ひとごと)ではなく自分事(わがこと)として、主体的で対話的な進め方をします。そうして、テーマが真に共有事(ともごと)化されれば、有意義な探究に必ず繋がります。

10歳からわかる「まとめ」

・東京都には多様な高校があり、地方にはマイスター・ハイスクールがある。それぞれの学校の特徴に合った、様々なタイプの探究があってよい。与えられている環境を最大限に活かせる探究をそれぞれで工夫して欲しい

・チャレンジスクールやエンカレッジスクールでは、「自分探究」により時間を割き、自分自身を見つめる時間として探究を活用するのがよいだろう

・マイスター・ハイスクールでは、連携活動する地元の産業界と協力しながら、業界の課題に早くから取り組んでみるのがよいだろう