小学校での総合・探究
探究学習アドバイザーとしての私の活動において、昨年までと今年・2024年の大きな違いは、今年から小学校が活動範囲に加わったことです。とはいえ、小学生に対して直接、何か話をしたわけではありません。小学校の先生を対象とする研修をさせてもらったり、先生の相談に乗らせてもらったり、ということをやってきました。小中各校の代表の先生に向けた第一回目の集合研修では高校の探究についての紹介を行いました。中学校の先生だけでなく小学校の先生も、高校に進むと子ども達はどのような「総探」を行うのか、また、日本史探究、古典探究といった科目探究の様子なども知っておいて損はありません。むしろ、子ども達が体験する数年先の高校での活動を知った上で、そこからの逆算で小学校の総合の計画を考えるのは有意義だろうと思います。学校の先生は皆、目の前の物事に時間を取られ先のことに目を配るのが困難な状況に置かれていると感じます。そこで、教育委員会と相談し、上記の研修を行なってみました。とはいえ、実際は、小学校では既に20年以上の「総合」の実施実績があります。高校の「総探」よりも、先生は余裕を持って子ども達の活動を見守っています。
先生同士の相談の機会
ただし、人口減少に伴い学校の小規模化が進んでいます。私が委嘱を受けている福井県坂井市では、全校の学級数が12に満たない( = 1クラスしかない学年が確実にある)小学校が19校のうち10校に登ります。12クラス以上の学校でも、ある学年が3クラスで別の学年は1クラスということも起こり得ます。学年にクラスが1つしかなければ、クラス担任の先生には、学年の行事や授業のカリキュラムを決めるにあたって相談できる同じ学年の担任の先生がいません。一人の先生の肩にのしかかるプレッシャーは相当なものでしょう。他の学年の先生も状況が同じなら、先輩教師にも後輩教師の相談に乗っている余裕はありません。ましてや今は「働き方改革」の号令の下、先生もできるだけ早く家路に着かなくてはならないという雰囲気があります。相談をしたり愚痴を吐き出したりする相手を見つけられないのでは、先生はストレスを溜める一方になります。
そこで、一箇所に集まってくるための労力が必要な集合研修より、その時間の節約にもなる、オンラインでの先生同士の結びつきを考えてはどうか、と教育委員会に提案をしていました。つい先日、その実験を行ってみたばかりです。会の名前には、SOE(坂井 オリジナル エデュケーション)の標語をもじらせてもらい、「先生達の オンライン 縁側」を提案しました。最終的にはオンラインはオンラインコミュニティに変更になりましたが、オンライン上に「縁側」を設けるという思いは残りました。
縁側は、室内と外をつなぐスペースで、家族や友人とのコミュニケーションの場や団らんの場として利用されます。
縁側は、自然に開かれたつくりです。
縁側は、日当たりや風通しがよく、四季折々の風景を楽しむことができます。
縁側には、雨よけの機能があります。
というようなことを、ChatGPTの縁側の説明を元に作らせてもらいましたが、実は、これにはアイデアの大元があります。岡壇氏の有名な研究、すなわち、日本で最も自殺の少ない町とされる徳島県旧海部町の研究において、その町の特徴に「路地とベンチがあること」というのを以前にある記事で読んでいたのです。友人と路地を自分達のペースで歩いて、疲れたらベンチに座って話をする、憂さ晴らしをする、人の心配をする。口が疲れたらまた歩き出す―なんだか町の人のそんな様子が目に浮かんできたのを覚えています。
【参照】 第25回「幸福度と幸福感は違う」
思春期の子ども達に対するには
小学生にも様々な子がいるでしょうが、総じていえば、まだまだ素直です。先生のいうことを聞いて指示にも従ってくれます。故に、小学校での活動においては、先生をバックアップすることに全力を尽くすことは全体の良い回転につながります。しかし、児童が生徒になり、段々と年齢が上がるにつれ、子ども達は反抗期に入っていきます。学校の先生のいうことを聞かなくなります。とはいえ、これは必要な成長のプロセスですから無理やり躾をしようとしても仕方がありません。生徒と学校がなんだかしっくりきていないような様子を見て、役所はついつい学校を手助けしようとし、学校の意見を聞き取り、取り入れようとしがちです。しかし、しっくりきていないのですから、学校は生徒の真の気持ちがわかっていません。となると、本当に聞くべきは生徒側の意見です。生徒の要望を吸い上げて、それを学校と調整し、学校と生徒の関係改善につながる施策を講ずることが、まわりの大人に求められていることといえます。そういうわけで、社会と学校の関わりは上に上がれば上がるほど大切になってきます。
探究プロセスの時間配分について
「整理・分析」から「まとめ・表現」の間にやらなくてはならないのは「アイデア出し」です。解決したいと取り組んだ課題の解決方法の捻出です。しかし、現状、そこが軽視されていると感じざるを得ません。「調べてみて、社会の認知が低いことが原因だとわかりました。なので、SNSを活用してどんどん知らせていきます」―これは、よく耳にする探究プロジェクトのまとめコメントです。SNS活用を否定するのではありません。しかし、具体的にどう活用するかによって効果・効用の程度に差が現れます。本来は、そこを細かく考えさせ、生徒なりのオリジナルのアイデア・一工夫・ひとひねりを引き出すべきですが、なかなかそこまで辿り着きません。そんな時間が取れないまま先に進んでしまうのです。有効なアイデアはそんなに簡単に降りては来ませんから、降りて来させるための詰め作業が必要です。しかし、そこをしっかりと伝えているとはどうも思えません。
アイデアを出すにはやり方があります。広告界の重鎮達が伝えている方法は、教育界から見たらどこか「胡散臭い」のかもしれませんが、現実に社会に出て先輩・上司から、毎日のようにいわれるようになることは「何か良いアイデアはないか」「君らは若くて頭が柔軟なんだから、何か出してよ」というようなことです。私はこれを「出せハラ」と呼びたいと思っています。そんな目にあっても平気で対応できるようになるためにも、アイデアを出す練習を学校にいるうちから早めに始めておくのが良いと感じます。探究プロジェクトは、そのきっかけを与える上でもってこいなのです。
10歳からわかる「まとめ」
・学校の小規模化に伴い1学年に1クラスしかない小学校が増えている。先生にとっては、同じ学年の隣のクラスの担任と相談して何かを決めるということができない状態で、それが今後も続くことになる
・働き方改革の影響で、遠慮から先輩教員にも相談しづらい状態であるなら、近隣の学校の同じ学年を担当する先生同士をオンラインで繋ぎ、いつでも相談し合える体制を作るのは効果的だと感じる
・集めた情報を踏まえての、児童・生徒からのアイデア出しに、現状は充分な時間がかけられていない。アイデアに一工夫加えるための時間の確保と適切な声がけに、まわりの大人がもっと気を配れるとよい
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。