シーン分析からアイデアを出す

注目はシーンでの不満解消欲求

何か新しいモノやサービスを考えようとする際には、自分がよく知っている「シーン」を思い浮かべます。そのシーンに今、無いもの、あったらいいなぁと思うものを考えてみることから新商品等の開発に繋げるためです。通学のシーンであれば、平日の朝、家から駅まで歩いているところなどの様子を具体的に思い浮かべます。

そのシーンを、例の、筆者お得意の「5W1H」で分解すると、

When(いつ): 平日の朝

Where(どこ): 家から駅までの道

Who(誰): 私

How(どのように): 徒歩で

Why(なぜ): 登校するため、となります。そこに

What(何)があれば、平凡な時間がもっと楽しくなりそうか、いつも感じている不都合・不便が解消されそうか、というようなことを考えていきます。もう一つのWすなわち

Wants: 欲求に目を向けるわけです。その際、自分はそのシーンで特に不満はないとなれば、先のWやHを一つずつ順に何か別のものに入れ替えていきます。

ここで、Whoの私を、(女子)高校生から筆者のような60歳現役男性に入れ替えると、様子はがらりと変わります。まず、通学から通勤にシーンが変わりますから、登場人物の持ち物が激変するでしょう。社会人はより身軽で手には何も持っていないかもしれません。ポケットに入る程度の荷物しかない人もよく見かけます。にもかかわらず、歩く様子は高校生のように快活ではありません。出社したくないという気持ちの日ではなくても、まわりの人の目には、どこか沈んだ様子に見えがちでしょう。身体の動きが気持ちに付いていかなくなっているからです。その際、当の筆者が感じている不都合や違和感は、「普通に歩いているつもりなのに、後ろから来た人にどんどん追い抜かれていく。おかしいぞ」というようなことです。若い頃は、むしろ自分が抜いていく側であったものが、いつの間にか状況が逆転してしまっています。「颯爽と歩きたい」という欲求は今も持ち続けているものの、実際の行動との間にはズレがあるわけです。これを解消する何かを提供できれば「売れそう」です。そこで、該当しそうなアイデアをいくつか考えてみます。

次の注目は対立する欲求

数多くのアイデアが浮かんだら、次は、アイデアを篩にかけます。そのアイデアを取り入れるのに我慢や犠牲を伴わないかどうか、という基準でのスクリーニングです。我慢や犠牲を伴うことがわかると「買う」気が失せてしまうことがあるからです。例えば、運動して身体を鍛えればよいという提案はこの歳になっては受け入れ難いという具合です。「今さら無理はしたくない」という対立する欲求があるのですが、それが無視できないほど大きなものだと判断されれば、取るべき道は二つあります。一つは、そのアイデアは取り下げて他のアイデアの判定に取り掛かること。もう一つは、反対に、対立する欲求の程度が大きければ大きいほど、それを解消するアイデアを出せば「より受けるはず」と捉え、むしろ、どうすればその対立欲求を解消できるかに絞って、頭を捻り始めることです。

足取りが軽くなる超軽量の靴、電動ローラーの付いた靴、あるいは、スケーターなども解消策として有効かもしれません。サラリーマンは手荷物が少ないので持ち運びは苦にならないと判断できたり、駅に格安でスケーターを預かる専用ロッカーを設けられたりするなら、そのアイデアは最終検証の段階まできっと生き残ることでしょう。

5W1Hの入れ替え例

冒頭に戻って、5W1Hの入れ替えの例を少し見てみましょう。

When(いつ)が、平日の朝から休日の朝に変化したとしましょう。Who(誰)は60歳の筆者です。休日ですからシーンは通勤ではなくなります。少し想像を膨らませて、よちよち歩きが始まったばかりの孫を含む家族みんなで、どこか行楽地に出かけるために電車に乗ろうと駅まで歩いているシーンが思い浮かんだとします。さて、その時の筆者のWants(欲求)は、どのようなことでしょうか。

孫には歩く練習をさせたいと思っています。のんびりゆっくり孫のペースで歩かせたいので、車や自転車がスピードを出して寄って来ないかに気を張っています。もう一人いる小学生の孫が、楽しさからふざけた様子で歩いたり走ったりしながら、よちよち歩きの孫に近づいて来るのも気に食わず、筆者はだんだんイライラした顔になってきてしまっています。孫達の前で一日笑顔のままいるつもりだったのに、家を出た途端、早速それが叶わない状況が生まれてしまったわけです。

さて、どのようなアイデアであれば、家族皆の機嫌を損ねることなく、楽しい休日を過ごせるでしょうか。駅までの道順を変える、電車で行かずに車で行き目的地で存分に遊ばせる、等々、条件を少し見直すことも含めれば、きっと、アイデアは様々、無限に出てくることでしょう。

「あり得ない」の排除が目的

シーンを5W1Hで規定するのは、アイデア出しを進めている際に、ついつい空想の世界に入り込んでしまいがちになるのを防ぐためです。そんな状況は実際にはまず起こり得ないのに、話の盛り上がりに任せてどんどん過度な連想ゲームを進めてはいけません。空中空想戦を、しっかり地に足を付けた発想作業に落とし込むのに役立つのが、5W1Hに沿った思索です。自分とは違う人格を対象と想定してアイデアを出す際に、この作業は特に有効に働きます。

他人の立場に立って想像を膨らませようとする際、役に立つのは side by side の目線です。

【参照】 第29回「”Face to Face” より “Side by Side”」

アイデアメーションも排除

空想に任せ「あったらいいな」にただ突き進む際、注意を要するのは「それは既に世の中に存在する」ことに気付かずにいることです。当人達は存在を知らないために「凄いアイデアを思い付いたぞ」と突き進むのですが、実はそれは既に存在していて、知っている人にとってはただのインフォメーションだという場合があるのです。今はインターネットで調べることも容易です。良いアイデアが浮かんだと思えば、早めに類似例の存在を確認するようにしましょう。

反対に、それが斬新なアイデアだとわかったなら、特許申請に遅れを取るようなことがあってはなりません。タッチの差で大きな利益を逸してしまうこともあり得ます。

社の命運をかけた新商品開発であるなら、常に確認を怠らずに進めるようにしましょう。

10歳からわかる「まとめ」

・モノやサービスの新しいアイデアを出す際、シーンから頭を整理する方法がある。あるシーンを5W1Hで具体的に思い浮かべ、登場人物の不満欲求を明らかにした上で、それを解消する何かを考え出す

・思い付いたアイデアが、現状世の中にまだ製品として存在しないとしたら、それは、そのままでは「買いたい」と強く思わないからかもしれない。犠牲や我慢を強いられることがわかっているものを、人はなかなか買う気にならない

・反対に、その犠牲や我慢をも解消してしまうような製品であれば、「買いたい」気持ちを最大限に高めることができる。それがヒット商品を生むコツ

誰でも自分のことなら気持ちがわかるが、他人のこととなると想像するしかない。丁寧に具体的に一つひとつ明らかにしながら、その人が必要としているものを言い当てよう

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