ペアワークでの振り返り

探究で大切な「振り返り」

探究では振り返り(reflection)が大切であるとは、よく聞く話です。やってやりっぱなしではなく、何かアクションを取った後に都度しっかりと振り返り作業を行い、今回の体験を通して何を学んだか、結果は予想通りだったのか違ったのか、違ったなら原因は何だと思うか等を確認しましょう、というわけです。次のアクションを計画する上で振り返りは必須です。

しかし、有意義な振り返りを皆が出来ているかと問われれば、そうではなさそうです。そのためのフレームワークを提供している教育系企業もあるようですが、そもそも慣れていないことなのに、それを紙やシステムを相手に一人で取り組ませてうまくいくとは思えません。可能性があるのは生成AIとの対話式でしょう。私もChatGPTで一つ提供しています。有料版をお使いであれば試すことができます。

【参照】 ジャートム探究サポーター

ペアワークでの振り返り

ただし、せっかくの振り返りなのですから何かで一石二鳥を狙いたいところです。私のお勧めはペアワークでの振り返りです。一人が質問を出し、それを元にもう一人が自身の活動について振り返ります。聞き手は、振り返り者の応えを受けて次に聞くべき質問を臨機応変に考えます。それによって、フレームワークの型通りで、かつ、時には応える側の気持ちを無視した順序での質問からの脱却が図れます。そして、質問を出す側は、有効な対話とはどういうものか、タイムリーで良い質問と、反対に思考の邪魔をしてしまう悪い質問の違いを肌で知ることができます。

スタート前の振り返り

ところで、振り返りを「何か一つ済んだ後に行うもの」と思っているとすれば、それは間違いです。良いスタートを切るために行うべき「振り返り」があります。スタートを切る前に「前提」を振り返っておくことが、実はとても重要です。

丸岡LOVERSを例に

福井県坂井市立丸岡中学校は、地元の丸岡町を舞台とした「丸岡LOVERS」という探究プロジェクトに取り組んでいます。2025年度は3シーズン目に入りますが、そのキックオフが来週実施されます。今年度、区内の小中学校の午後の時間をすべて探究学習に充てるということで話題になった東京都渋谷区の「探究シブヤ未来科」に倣って、丸岡LOVERSを定義すると、このようになります。

「丸岡LOVERSは、各教科で学んだ知識を総合的に生かして、問題解決力や創造力を育む取り組みです。地域や企業・専門家の協力も得ながら丸岡の町全体を学びのフィールドとして子ども主体の学びを実現します」

学びのフィールドとなる丸岡の町の広さは107.36㎢です。対する渋谷区は15.11㎢ですから7.1倍です。一方で、人口は渋谷区の約23万人に対して丸岡町は約3万人です。渋谷区の人口が丸岡町の7.6倍ほどある計算です。両者を掛け合わせて、渋谷区の人口密度は丸岡町の54倍です。丸岡町の人々はオリンピックやワールドカップで使用される縦105m x 横68mのサッカー場に2人の割合で点在する計算になりました。丸岡町での街角インタビューには、より計画性が求められそうです。

(ところで、数字は住民票が区内・町内にある人の数です。渋谷の昼間人口は一日50万人とも60万人ともいわれ、有名な渋谷スクランブル交差点を一回の青信号で行き来する人は約1,000人、多い時は3,000人とのこと。青信号は120秒で切り替わります。1時間に2分は30回ありますが、その半分の15回に各回1,000人が集まるなら、2時間そこに立っていれば、丸岡の人口分の30,000人に出会えてしまえる計算です。ちなみに対角線の横断歩道の長さは36m。その狭い面積に、瞬間的とはいえ何百人も入るところから「世界で最も混雑している交差点」と呼ばれています。)

さて、フィールドの広さがイメージできたところで学びの旅に出かける前の「振り返り」を行いましょう。私が提案する第一の質問は「今あなたは『自分は丸岡LOVERだ』と思っていますか」です。答えは、⑤はい、とても ④はい ③どちらでもない ②いいえ ①いいえ、まったく の中から選んでもらいます。

良い答え・悪い答えはない

ところで、この質問への答えに良いも悪いもありません。目的はプロジェクトをスタートするにあたり自身の立場を再確認することです。「スタート前の振り返り」です。自身の気持ちと正直に対峙し、理由や背景、そうなったきっかけなどを省察・想起してみることが、各個人が丸岡LOVERSを成功裡に進められるかどうかの一つの鍵となります。

質問は5W1Hで考える

さて、「⑤はい、とても」という人には、例えば、こんな質問を一つひとつ返してみることが考えられます。「なぜ?どこが?」「他の人も一緒? − 違うの?どうして?」

同様に、「④はい」には、「なぜ『とても』ではないの?」「どこが具体的に好きではないの?」「その部分は、今後どうしたい?どうにかなりそう?」

「②いいえ」には、「好きなところはどこ?」「嫌いなところはどこ?」「嫌いが勝ってしまうのはなぜなの?」

「①いいえ、まったく」には、「学校を卒業したらどうする?他の町に行く?」「好きになる可能性はあると思う?」「好きになりたい?なりたくない?どうしてだろう?」

「③どちらでもない」には、「『丸岡、別に』ってことだよね?」「どうでもよくなくない?」「どうでもいいと思うのはなぜ?」「いつからそんなに冷めたの?きっかけは?」

質問する側の生徒の手元には、5W1Hの疑問詞が一つずつ書かれたカードがあります。必要と思えば、そこに「Whom(誰に・誰を)」「Whose(誰の)」「Which(どちらの)」や、「How much(いくらの)」「How many(いくつの)」、更には「If you(もしあなたが)」「with(何々と)」のカードがあってもいいでしょう。相手の「Wants(欲求)」を引き出したい・つまびらかにしたい・相手に自分で気づかせたいというつもりで、この作業を実施します。

聞き手は、皆、徐々に質問上手になっていくでしょう。一つコツを伝えるなら、質問を通して相手に微細な差に注目してもらうことを目指しましょう。「とても好き」でも100%完璧に好きという人はなかなかいないはずです。反対に、95%好きという人の中には、それを「とても好き」と表現する人もいれば、厳しく判断して「好き」に分類する人もいます。認識は人それぞれです。違って構いませんが、故に相対評価は役に立ちません。自身の絶対軸がどこにあるかに気づいてもらうこと、気づかせてあげることが聞き手の役割です。答える側は面倒臭がらずに、自分の気持ちに丁寧に向き合い正直に答えます。

【参照】 第95回「シーン分析からアイデアを出す」

10歳からわかる「まとめ」

・探究において「振り返り」は大切。振り返りを「スタート前」にも行い、プロジェクトに対する自身の立ち位置を事前に確認しておこう

・一人で振り返りを行うことは容易ではない。ペアワークで実施することを考えてみよう

・聞き手は、相手の答えに応じて、適切な「次の質問」をその場で臨機応変に考え出さねばならない。そのため、「質問力」が鍛えられることが期待できる

・微細な違いを見逃さず、そこを明らかにすることを目指して、よい質問を考えよう

・答える側は、自分の気持ちに丁寧に向き合い、正直に答えよう

第97回「情報収集はいつまで・どこまで」を読む