情報収集はいつまで・どこまで

新事業開発の流れ

企業が新製品や新サービスを開発しようと計画する際、「教科書通り」の手順は以下のように進みます。1. 情報収集、2. (収集した情報を元に)アイデア出し、3. (思い付いた)アイデアの展開・試作、4. 市場性(ユーザーに受入れられるか)の確認、5. 事業性(事業を続けられるだけの儲けが出そうか)の確認、6. 市場投入、7. 顧客対話(主に改善希望点に関する顧客の声を収集し、その後の製品改良に反映させる)、です。もちろん、その企業が今置かれている状況によっては、必ずしも教科書通りには進みません。例えば、元々何かユニークな技術を有している企業が「これを別の事に活かせないか」と考えて始めるような場合には、焦点をそこに絞った情報収集を行えばよいでしょう。また、この場合、経営資源の別活用が目的ですから、儲けが出るかどうかという事業性については大きな問題にならないかもしれません。

情報収集の終え時

情報収集については、それに全く取り組む必要がないと軽んじる人は、そう多くはいないでしょう。まずは情報収集から取り掛かろうとするのが定石といえます。しかし、どこまで情報収集を続ければいいのかという問いについて、明確な答えを持つ人はどのくらいいるでしょうか。何を集めたらいいのかわからないまま取りかかろうとする人も時々見かけるほどです。これらの問いへの答えを見つけるにあたっては、情報収集の目的を明確にするのが近道です。情報収集の目的は単なる問題の理解ではありません。それを解決するアイデアを得ることです。したがって、何か良い解決案が浮べば、一旦そこで情報収集をやめることができます。解決案が浮かんでくるまでは、考えるための材料がまだまだ足りないというわけですから、情報収集を続けなくてはなりません。

思い付いた解決案を試してみて、全く方向性が違っているなと感じたなら、ここに戻って情報収集を再開することになります。

探究では、ここまでは助走

上記の「教科書通り」の手順は、企業の新規事業開発だけでなく、高校や中学での探究プロジェクトでも同様です。そして「2. アイデア出し」までが全体の助走にあたります。アイデアは、出すというより降りて来たという方が感覚的には相応しいでしょうか。さて、助走ですからそこで力尽きてしまってはいけないのですが、この「1. 情報収集」から抜け出せず、それに時間が掛かり過ぎてしまう生徒がいます。走り幅跳びや走り高跳びの助走がそうであるように、遠くや高くに跳ぶことを目指すなら、情報収集には集中力を持ってあたり、その後の瞬発力を最大限に高めるように取り組まなくてはなりません。

助走後の飛躍と「失敗」

探究の醍醐味は、思い付いたアイデアを実際に試してみるところにあります。助走の後のジャンプに当たる部分です。この段階で行う作業は、まずは「3. アイデアの展開・試作」です。手を使って試作品を作るなど、浮かんだアイデアを形にして、それをテストにかけ、期待通りに事が運ぶかどうかを確認します。うまくいかないならどこを改良すべきかと考え、改良版ができたらまたテストにかけます。この試行錯誤こそ、探究でやらなくてはならない作業です。これは、テストというより実験に近いものです。その実験結果を最終的に判断するのは自分です。百パーセントの満足を目指せば、「失敗」の数は増えていきます。

探究では、数多く失敗を積むことが勧められます。それは、完璧を目指して繰り返し何度も挑戦しなさいということです。この辺でいいかと途中で妥協することは、失敗を失敗と認めないことと同じですから、経験する失敗の数は少なく済んでしまうことになります。

行う実験の種類

上記実験には2種類あります。「4. 市場性の確認」にあたるものと「5. 事業性の確認」にあたるものです。

前者は、機能面での完璧を目指す上で行う実験です。想定しているユーザー像に合致する実験協力者の人達が充分に使いこなし、便利だと思ってくれるまで、実験結果を見ながら改良を重ねていきます。

後者は、製作の手間をどこまで減らせるかを追求するための実験です。まずは機能の充実を目指して改良を重ねていく試作品ですから、出来上がった後には、別の観点から評価をし直すことが必要になってきます。主には製作費用の観点からです。途中では、あれを足してこれを足してとなりがちですが、完成形から見返す段階では、「この部分は外しても機能上の問題はない」「この部分は後で付け足したので二段階の組み合わせでの作りになっているが、最初から一つにしてしまえば、もっとシンプルに、かつ材料費を削減して作れる」などのことが見えてくることがあるものです。経費を無視したような製作では、いずれ作り続けることができなくなります。製品であれサービスであれ、新事業開発は「ユーザーの期待を裏切らず、末長くそれを提供し続けられるか、後世に残していけるか」を考えなくてはなりません。避けられない経年劣化のために、長年の愛用者の製品にはいずれ修理の必要が出てくるでしょう。その際、プライドを持つメーカーであれば、「部品をもう製造しておらず、直せないのです」とは言いたくないはずです。先を見越した備えのためには余剰資金が必要で、それを捻り出すためにも、改良を続ける意欲が常に求められているのです。

生徒が行う探究活動においては、なかなかこれほどの長期的視点は持ちづらいものです。そこは大人が注意喚起し、考慮を促したいところです。

10歳からわかる「まとめ」

・新事業開発の流れは、情報収集、アイデア出し(降臨)、アイデアの展開・試作、市場性の確認、事業性の確認、市場投入、顧客対話、と続く

・学校での探究プロジェクトも同様の流れで展開される

・情報収集は、問題そのものについて、その解決案が浮かぶまで行う

・問題解決案を試作品に展開できたら、それを実験にかける。実験は2種類で、機能面の改良のための実験と、機能面完成後の、製作経費削減のための実験とに分けられる

・長期的展望の元に実施される製作経費削減努力の継続には、生徒の目はなかなか向かないかもしれない。そこは、大人が考慮を促したいところだ