「部活命」の高校生こそ

クラブ活動がその高校への入学動機

添付の、廃校が今後も増えそうなことを予感させる記事の中で、今の公立高校に通う生徒の中に部活やクラブ活動を意識して進学先高校を選んだ人が一定数いることが紹介されています。そのまま引用すると「公立高校においては、現役学生世代が親世代より『進学率・進学実績』を18.0ポイント、『クラブ活動』を16.3ポイント重視する結果となった」ということですから、これを見ると、その割合がむしろ年々増えているという印象を受けます。

【参照】 高校選び、公立は「進学実績・部活」私立は「校舎・設備」重視

部活が理由の越境入学

私が高校を卒業してから少し後のことだったと記憶していますが、ある部活(=当時の典型的な例は甲子園を目指す高校野球)の強い高校へ「越境入学」する学生がいることが話題になったことがあります。今もこのような高校生はいます。そして、野球一辺倒のようだった高校スポーツの花形種目が増えたこともあって、対象の部活もサッカーやバスケットボール等々へと広がっていっているようです。

私立の学校の中には、学校名を全国的に売り出すため、特定の選手をスカウトしようと、いわば「後付け」で設備を充実させるようなところも出てきました。団体スポーツの場合にはそう易々とは強くなりませんが、個人競技であれば、中学時代のチャンピオンに入学してもらえれば、その選手が優勝するたびに学校名が全国に轟くのですから、マーケティング戦略としては一つの正解でしょう。その代表例にはゴルフが挙げられます。

部活を目的とした越境入学は、中学では原則として認められていません。子どもたちの安全確保のため、住民登録地に居住の上、学校が指示する通学方法で通学することが望ましく、住民登録地によって通学指定校を定めているという事情があるからです。一方、義務教育ではない高校の部活への越境入学については、各都道府県の裁量によるところが大きく、結果として現状、実際によく見かける現象となっています。

その子ども達にこそ大切な人生設計

かつてスポーツニュースでも取り上げられたプロ野球選手の「12球団合同トライアウト」とその後の各選手のドラマですが、それが昨年秋で終了となったようです。「形骸化の一途で一定の役割は終えた」の文字がスポーツ紙のタイトルに踊りました。元々、トライアウトを勝ち残れる選手は数多くありません。トライアウトに進むことなく引退を受け入れる選手の方が遥かに多いことでしょう。少し前にはこんな話題が雑誌の記事にもなりました。

【参照】 プロ野球を辞めた男たちを待つ「甘くない現実」

現役最盛期は十数年?

スポーツの種類にも寄るでしょうが、サラリーマンが65歳で引退するのと同じような歳月をそのスポーツで現役のままやり続けられる種目はそう多くはないでしょう。馬と一体となって行う馬術で、総合馬術の日本団体チームが銅メダルを獲得した昨年のパリ・オリンピックでは「初老ジャパン」の愛称が話題となりました。彼らの年齢は、メダル獲得時38歳から48歳でプロ野球ではその年齢で現役の選手は何人もいます。ちなみに、初老は、かつては40歳を指していましたが、現在は50歳から60歳前後を指すことが多いといわれています。彼らも、現代の感覚では、実際は初老に達してはいません。本当に初老まで現役最盛期が続くなら、それだけに打ち込むのもよいでしょう。しかし、現実的には、早いうちから第二・第三の人生を意識した行動を取っておくべきです。大谷選手の人生計画の中でも、引退試合を40歳時点に置いています。もっとも、ノーヒットノーランを達成しての引退を予定しているので、引退の理由は「体力の限界」ではありません。確固たる人生設計のもとに40歳での引退を設定しています。高校生の自己探究を手伝う大人の役割は、まさに、そこに気づかせることだといっても過言ではないでしょう。

冷静に・客観的に自分の位置を俯瞰する

子どもが「将来はプロ野球選手になる」という夢を、公然と言い続けられるのはいつ頃まででしょうか。「体育推薦で何々高校に入るのだから、自分は勉強が得意でなくても大丈夫」という時、周りの大人はどのように対処するのが正解なのでしょうか。もちろん、野球の練習は続けさせてあげるべきです。と同時に、何か一つでも別の関心事が出てくるとよいと感じます。私であれば、野球に対する見方が広がるような材料を提供するかもしれません。根性論に対する科学的トレーニングという具合です。好きな対象に対しては子どもも広い心で向かいます。こんなのもあるみたいだよ、と伝えると、「へぇー、そうなんだ」とその本にかぶりついてしまうこともあるでしょう。ただし、その際、誰かの例をあたかも失敗例のように提示し、「こうならないようにするんだよ」と言葉を添えるのはうまくないと私は思います。それは、単純に自分の母親がそうだったからで、そう言われただけでナイーブな私は心を閉ざしてしまい、それに目を向けようとしなかったからです。もちろん、反応はその子の性格によるでしょう。うまくいかなかった例を直視できる子にはそれも効果的なのだろうとは思います。

最近、嬉しかったこと

高校生とのオンライン面談で、最近、安心することが続きました。まさにそれは将来設計に悩んでいることについての相談だったのですが、プロのサッカー選手として活躍したいが、選手寿命が長くないことはわかっているので、選手生命を終えた後の人生設計を予め考えておきたいという内容でした。引退したら何かの会社を自分で経営したいので、大学では経営学部で学びたいというところまではっきりしていました。

私がアドバイスしたのは、「サッカーのスタイルが自分と合う監督がいる大学に、ちゃんと経営学部があり、そこに自分が研究したいテーマに関連する内容を専門とする教授がいるかどうかを早めに見つけておくこと」というようなことでした。異なる二方面からのベクトルが交差する大学を見つけ、さらには、その大学に入学するための受験方法にはどんなものがあるかを知り、それにパスするための準備を早めにスタートできれば、それだけ多くの時間を高校でもサッカーに打ち込むことができるのです。素直に聞いてくれ、理解して行動に移してくれた様子を見て、とても嬉しく感じました。

10歳からわかる「まとめ」

・「越境入学」してまで、高校で何かのスポーツに取り組む生徒は、そのプロ選手になれるよう努力するのは当たり前。しかし、大抵は選手寿命が短い。その後の人生設計にまで早いうちから目を向けることが大切

・大学に進んだ後にプロを目指すなら、大学時代は、プロ引退後の生計を何で立てていくかを意識して、大学で学ぶことを決める

・目標の大学・学部が早く決まれば、そこに進むための入試方法にはどのようなものがあるか、そのうち自分に最も合っているのはどれかまで、調べる時間の余裕が出て来る

・そして何より、着実に成功に近づいていっていることを意識しながら、大学入試対策を進められる