プレゼンの決め手も論拠にある
仕事で自身の意見や主張を通すと聞くと、プレゼンテーションの場面を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。まさにプレゼンはとても大切です。
ただし、プレゼンの事前練習で「言葉につっかえずに流暢に説明できるようにすること」「身振り手振りを大きく使いながらアピールすること」等を中心に行なっている場合は要注意です。
もちろん、原稿が完璧ならそれで構いません。完璧とは、話の筋がきちんと論理立てられており、論拠を示す材料が漏れなく揃っている状態を指します。
外資系の会社に勤務していた当時、演出の効いたプレゼンテーションの場に居合わせる機会は数多くありました。欧米人は総じてプレゼンで注目を集めることが得意です。効果的な身振りや手振り、気の利いたジョーク等で上手に場を盛り上げます。聴衆も、場の盛り上げには快く応じ協力します。
ただ、聴衆が本当に見ていたポイントはそこではありませんでした。いくつかの提案の中からどれか一つを選ぶような場合、それぞれの論拠に注目してどちらを選ぶべきかの判断を行ないます。論拠や裏付けを持たない話を聞かされた時は、それらをいつも anecdote(アネクドート、おとぎ話)と一蹴(いっしゅう)しました。
論拠は evidence(エビデンス)ですが、裏付けは proof(プルーフ)と呼ばれ、提案の信憑性を証明するものとしてエビデンス同様に重視されます。
意見を通すには前提の共有から
ビジネスの場で自身の意見を通すには、どのように進めたら良いでしょうか。まずは前提を相手と共有することです。もし今、相手に現状打破に向けての提案をしようとしているのなら、その前提となる現状の把握・理解が相手と正しく共有されていなくてはなりません。自分の理解を相手に提示し、その内容で齟齬(そご)がないかを確認します。例えばこうです。
【当社の現状の問題】
当社製品の長年の愛用者は今や50歳代になった。その顧客イメージゆえ20歳・30歳代の若い層からは敬遠され、当社の売上全体が伸びていない。
この時、最低限、数字の確認がきちんとできていれば、相手からまさか「売上が伸びていないというのは事実ではない」といった指摘はないはずです。しかし、「売上が伸びていない主な原因は顧客の高齢化ではない」という反論はあり得ます。相手は、エリア別の販売実績を見て、「地理的なばらつきの問題が未だ解決されていないからだ」と分析しているかもしれません。
また、「若い層を開拓できていないのは、ユーザーイメージの問題というより、徐々に価格を引き上げてきたことで、品質を理解している長年の愛用者は納得して買うが、初めて使ってみようとするトライアルユーザーには気軽に手が出しにくくなっているからだ」と解釈しているかもしれません。
問題の共有は解釈が決め手
「ソラ」「アメ」「カサ」と呼ばれる考え方があります。空を見て曇ってきた事実を確認し、雨が降ってきそうだと思って(解釈して)、打ち手として傘を用意することを意味します。ここで雨について降雨の程度の解釈が人によって違っているとどうなるでしょう。
屋外の作業だが、「小雨が通り過ぎる程度だろうから、念のため傘を用意しておけば大丈夫だ」とするAさん。
「風も吹きそうだから傘では無理。雨ガッパを着て出ないといけない」とするBさん。
一方、Cさんは「暴風雨になるから外での作業は危険。通り過ぎるまで屋内で待機だ」と主張します。
3人の意見がこのようにバラバラでは、チームでまとまっての協力的な作業は期待できません。
大切なのは分析・解釈の一致です。目に見えている事実は同じでも、その原因に対する認識がお互いズレていると、対策のための共同戦線を張ることはできないのです。「あの人とは意見が合わないから一緒に仕事ができない」と思われている状態では、提案を聞いてもらうのはとても無理といえるでしょう。
現状の把握と、現状に至った原因の理解を両方とも正確に共有するには、齟齬のある部分について一つひとつお互いに確認することが必要です。「これについては相手の言う通りだな」「こちらについてはお互い一理ありそうだ」と確認しつつ、改めるべきところを改めます。これで前提(問題の理解)の共有ができます。つまり、相手は「提案を聞いてみよう」という気持ちになります。
課題の共有から、解決策の吟味へ
さて、ここでは無事、原案通り問題の共有ができたとします。次は課題の共有です。問題の理解が共有できれば、課題の共有で大きくもめることはないはずです。
【当社の現状の課題】50歳以上の顧客が追加購入したくなる新製品Xか、将来を考え20歳代の若い顧客を取り込める新製品Yか、どちらかを先行した開発の成功が至急必要である。
【解決策1】新製品Xの先行開発・販売
【解決策2】新製品Yの先行開発・販売
【解決策3】上記1・2以外の解決策
この場合、意見が異なってくるのは解決策においてでしょう。「年配の顧客向けの新製品」か「若い顧客向けの新製品」か、どちらを先行開発するかいうところは意見(提案)が大きく割れても何ら不思議ではありません。
ベストの解決策を選ぶ決め手はエビデンス
いよいよここからがエビデンスの出番です。仮に「若い顧客向けの新製品開発を先行する」を提案するなら、何故そちらの案の方が有望かを充分な根拠とともに示していくことになります。例えば、このようになるでしょう。
1.候補の新製品Yの早期開発の実現性が高いことを立証する
2.候補の新製品Yがターゲット層から受け入れられる見通しが立つことを立証する
3.若い顧客の開拓を急ぐ方が高い短期的効果を期待できることを立証する
4.候補の新製品Yの導入が従来の年配顧客の離反を招くことがないことを立証する
5.従って純粋な売上追加になり、長期的に見てもこの案が有効であることを結論づける
4については、現状、若い顧客を開拓できていないことの逆の現象を起こしては意味がなくなってしまうため、重要な論点になります。
ところで、【解決策3】が出てくるのは、【解決策1】を推す派と【解決策2】を推す派が十分にエビデンス対話を行なったが故という場合が多いでしょう。どちらも捨て難いことがわかってくるにつれ、何か別の条件に折り合いをつけ(例えばなんとか予算を捻り出して)、いっそのこと両製品を同時に開発しよう。加えて、両チームを競わせ更に開発期間の短縮を図れれば一石二鳥・三鳥ではないか、という具合です。
企画中の新製品に対するターゲット層からの受容度は製品テストによって測ります。やり方の詳細は別途改めてご紹介します。
製品の開発状況は、まだまだアイデアだけだったり、はたまたもう試作品ができていたり、と様々でしょう。テスト自体はこれらどの段階でも行うことが可能です。しかし、実物に近い状態で呈示できればできるほど、現実に近い反応や具体的な改善要望を知ることができます。製品テストはなるべく試作品の完成度を高めて行うようにしましょう。
10歳からわかる「まとめ」
クラスの問題を話し合う学級会では、(1)問題をみんなが知る、(2)問題の原因を考える、(3) 解決策を話し合う、の順番で進める。ほかの人の良い意見はどんどん取り入れ、案をより良いものにする。例えば、以下のような議論ができます。
Aさん: 今、給食の残りを捨てているという問題が起こっています。気づいていた?
Bさん: 気づいていた。
Cさん: 知らなかった。でもそれは確かに問題。なんでそんなことになっているの?
Dさん: ワタシはみんなに好き嫌いがあることが原因だと思う。
Bさん: ボクは、給食時間が短くて食べきれないからだと思っていたけど。
Cさん: なるほど。原因には好き嫌いも時間不足もありそう。どうしたらいいかなぁ?
Aさん: 嫌いなものがある人がそれを好きな人にお願いして食べてもらえば?
Dさん: あー、でもそれ、ワタシちょっと恥ずかしい。
Bさん: 給食準備をみんなで協力して早くやって、量も大中小と色々用意したらどう?
Dさん: それなら恥ずかしくないし、食べる時間も少し長く取れそう。
全 員: そうだね。早速、明日からやってみよう!
【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年3月15日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】
ジャートム株式会社 代表取締役
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