幸福度総合ランキング1位の福井県
私の出身地・福井県はここ数年、北陸新幹線に関連した話題で持ちきりです。つい先日、開通日の発表がありました。いよいよ2024年3月16日(土)、石川県・金沢駅から福井県・敦賀駅までの延伸で、東京と福井が新幹線一本で繋がります。
福井県は一般財団法人日本総合研究所が隔年で実施する「全47都道府県幸福度ランキング」で、直近5回、1位を取り続けています。唯一、第1回の2012年のみ長野県、東京都に次ぐ3位でした。実はトップ5常連の残り2県は石川県と富山県で、両県はいずれも2位に入ったこともあります。こう見ると、東京・長野・北陸と続く北陸新幹線は、まさに幸福度最高ルートと呼ぶにふさわしい路線です。
幸福度で測るもの
日本総合研究所のランキングでは様々な指標を用いて各都道府県の幸福度を算出しています。指標の数は毎回増えており、最新2022年は80でした。代表的なものを列挙すると、基本指標では人口増加率、食料自給率や一人あたり県民所得など、健康指標では生活習慣病受療者数や健康寿命、文化指標では教養・娯楽支出額や外国人宿泊者数、仕事指標では若者完全失業率や障碍者雇用率、生活指標では持ち家比率や汚水処理人口普及率、教育指標では学力や社会教育費、追加指標ではコロナ患者受入病床数や遠隔教育実施率、といった具合です。既存の、いわゆる定量データの積み上げで度数を計測しており、より、幸福「度」の名称に沿う調査であると感じます。
似たようなランキング調査は他にもあります。例えば、ブランド総合研究所が実施しダイヤモンド社が発表する、毎年実施の「都道府県『幸福度』ランキング」がその一つです。ただ、そこでは福井県が上位に来ることはなく、毎回20位前後の中位に留まっています。「幸福度」の定義や、それに基づいてなされる質問が異なるからです。
幸福「感」での計測
ブランド総合研究所の調査には次の説明が掲載されています。
=====
「幸福度」は、「あなたは幸せですか」という問いに対し、「とても幸せ」「少し幸せ」「どちらともいえない」「あまり幸せではない」「全く幸せではない」の5段階で評価してもらい、それぞれ100点、75点、50点、25点、0点で加重平均した。47都道府県の平均は68.3点。
=====
どちらかというと、こちらの調査の幸福度は、むしろ幸福「感」という印象を受けます。各住民の個人的な感覚・感想を集計した結果だからです。
World Happiness Report 2023
他には北欧の国々が上位に並ぶことで知られる「世界幸福度ランキング」があり、World Happiness Reportを元に、国連の持続可能開発ネットワーク(SDSN)が毎年これを発表しています。各国約1000人が生活評価(生活に関する幸福度の評価)を0~10までの11段階で行う形式で過去3年間の生活評価の平均をもとにランキングを決定します。2023年のランキング算定は2020年から2022年の3年間が対象で、日本は47位でした。こちらも主観的な幸福感が反映されています。
【参照】 WHR +23
幸福度と幸福感の関係は
日本総合研究所の幸福度については、まどろっこしい言い方をすれば「幸福感に繋がるはずのサービスの行き届き度」と言い換えられるでしょうか。実際の幸福感に繋がっているかどうかは別問題です。それぞれの幸福感は、その人の幸福観(どんなことに幸せを感じるか)によります。程度の差も含め、その街が考える幸福の条件と、個人の好み・期待が合わないこともあるでしょう。また、暮らしにはまわりの人との関わりが必須のはずです。とはいえ、幸福度指標で、どのような性格、資質、経歴等を持つ住民がそこに暮らしているかを表すことは難しそうです。
また、人間は、良いと言われることに対しては過大に期待しがちだともされます。次々に便利なモノやサービスが生まれる中で、いわば「快適中毒」になっているかもしれません。加えて、「こんなに色々と揃っているのだから恵まれているのよ」とアピールされればされるほど、私たちは、「実感が伴わない話だ」と天の邪鬼に返しがちではないでしょうか。少なくとも私にはその傾向があります。そのような人が相当数いるなら、幸福度が高いとされる県民の幸福感は低くなりがちではないでしょうか。
調査結果は、別の調査の結果に影響を与える
エビデンス対話の文脈で今回のテーマを取り上げたのは、注目度の高い調査結果が世論形成に寄与し、それが人々の実際の行動や、別の調査の結果に影響を与えてしまう可能性に注意を向けてもらいたかったからです。著名な世論調査会社が選挙結果の予想を読み間違えることがありますが、読み間違えたのは自身の影響力の方だったかもしれません。独自調査による途中経過予想の発表が、判官贔屓の感情を呼び起こすことはありえます。
調査は実施時期も大切
重要な施策案について、実施の可否の判断を市民の事前意識調査の結果に委ねようとするなら、調査内容の設計はもとより、実査のタイミングも慎重に選定する必要があります。人間の感情は、関連する事象の影響を容易に受けやすいものだからです。
日本で最も自殺の少ない町から学ぶ都市のデザイン
この原稿を書き上げた後、今週発売のスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版 第5号『コミュニティの声を聞く。』を一足先に読ませてもらえる機会がありました。その中に、岡 檀氏の論文が掲載されています。自殺の少ない町・徳島県の海部町(現 海陽町)を2010年から研究している成果です。歴史を経て町に備わる自殺予防に繋がる知恵について、興味深い分析がなされています。その中に、住民の幸福感に触れた項目があり、海部町には「幸せでも不幸せでもない」と回答した人が最も多いことが紹介されています。
私たちには、一時的で外発的な幸福感よりも持続的で内発的な安定感こそが重要であることを示唆しているとのこと。なるほどと感じました。
探究の姿勢としては、一つの質問に対する直感的な回答を頼りに解釈・分析に力を注ぐよりも、時間をかけてゆっくり生活者とともに暮らしながら、事実や背景の理解に努めようとすることの大切さを改めて強く感じました。
10歳からわかる「まとめ」
・資料を細かくあたって分析する「デスクリサーチ」も立派な調査のひとつ
・まずは、既存の資料にはどんなものがあるかを突き止め、そこからわかることや読み取れそうなことを見定めよう
・無い情報については自分で集める必要があるが、情報収集を安易な計画で進めてはいけない
・特に、人に直接尋ねて意見や感想を聞く場合には、誰に聞くか、何を聞くか、どのように聞くか、いつ聞くかなどをよく吟味しよう
・その際、なぜ聞きたいのかを意識してみると、注意すべき点が見えてくる
・同じように、得られた回答について、なぜそう思うのか、その人の考えの理由を聞き漏らさないことも大切
以下、余談です。
アピールは、相手と、やり方次第
上記幸福度ランキングの結果を受け、福井県は「幸せ度いちばん福井県」を積極的に謳っていたことがあります。この言葉を聞く時、そこで暮らす地元の人と、当時地元を離れていた私とでは、おそらく受け止め方に微妙な差があっただろうと想像します。私はもちろん、どこか誇らしい気持ちでした。私と同じように、あるいは私よりさらに、この言葉に魅力を感じるのはきっと、福井への移住を本気で思案している人でしょう。これ見よがしに言われるのではなく、自分でいろいろ調べているうちにランキング1位の資料に出くわしたとなれば、さらに効果的でしょうか。自分の移住したい思いを後押しする資料の発見に勇気づけられ、家族を説得し決断する様子が目に浮かぶようです。
自信満々のいわゆる「ブランド」は、自信があるからこそ、そのような discreet (控えめ)なやり方を好みます。自ら強くアピールすることはしません。最近の福井県は「地味にすごい、福井」を掲げています。この言葉自体を宣伝するのではなく、その「精神」を大切に、ことに当たれば何事もうまく運ぶように感じます。
加えていうなら、地味(その土地の味、趣き)がすごいことは、地元の皆が認めるところ。焦ったり媚びたり、ましてや自虐などせず、堂々といきましょう。
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。