ユーザーとは繋がりやすいが
あなたが提供している製品やサービスについて、それらのユーザーから意見や感想を聞きたいと思った時、今や、それを行うのは、さほど難しいことではありません。
1990年代前半には既に汎用コンピュータを利用して顧客管理に取り組んでいた企業もあるでしょう。さらに、90年代後半にパソコンが一般に普及し始めると、その動きが加速します。ただ、当時の顧客コンタクト手段は、まだ郵送や電話が中心でした。2000年を過ぎてインターネットの普及が追い付いてきて、メールでの顧客コンタクトが容易になります。
そこからもう20年は経過しています。途中に、スマホの普及や各種SNSの登場もありました。今は専用アプリ等を活用して顧客情報の電子登録を顧客自らに行ってもらうことも出来ます。現状、企業側から一般顧客にインターネット経由でコンタクトする手段が全くないという方が珍しいはずです。すべての顧客とは繋がっていなくても、いわゆる付き合いの長い、あるいは厚い顧客とは連絡が取れることでしょう。例えば、企業や店舗で運営するLINEでお友達になっていれば、これに該当するわけですから。
コンタクト先をただ増やしても
このように、手軽に使える連絡手段が登場してくると、コンタクトできる相手をとにかく増やしたいと考えがちになるものです。先ほどのLINEのお友達登録については、店舗でのキャンペーンによく出くわします。「その場でのお友達登録で、その日の購入代金がいくらか割引になる」という類のものです。この場合、少なくともお友達登録とお店の利用・購入とは結びついています。一度利用したお客に、その後、定期的な情報配信をして、再度の来店を促そうというのは確率の悪い作戦ではありません。たまたま通りかかった人でも誰でも構わないので登録だけをしてもらおうというのとは異なります。そのように、利用意向があるか、利用の可能性があるか、見込み客かどうかもわからないまま「数打ちゃ当たる」式に何かノベルティと引き換えに登録だけを促しても、その後の情報配信に反応してくれる確率は高くはありません。お客にとってはお得な情報を受け取るだけですから特に損はないのですが、似たような配信が山のように届くようになると、中身を見ずにメールを消すようなことが起きても不思議はないでしょう。
負担をかけるアンケートなら尚更
では、それがお客に回答を求めるアンケートの送信となればどうでしょうか。アンケート回答の謝礼として購入割引券などを付ければ、それが来店を促すことになるだろう、お客にとっても得だろうと、こちらは勝手に想像します。しかし、アンケートの依頼が「煩わしい」と受け取られると、それをきっかけに関係が切れてしまうこともあり得ます。中身を見ずに、「いつもの情報メールか」と誤解されれば、ただ消されるだけで済むかもしれませんが、何かを依頼するメールは登録削除につながってしまう可能性すらありえます。依頼に対する謝礼が思いもよらぬ素晴らしいものである場合は、目に留まって協力してもらえることもあるかもしれません。しかし、謝礼に「釣られた」のだとすると、それが本来望んでいた「良い関係」に結びつくかどうかは疑問です。
アンケートは信頼関係
お客が喜んでアンケートに協力してくれるのは、「自分の声が活きる」とわかっている場合です。自分の声を聞いて試作品を改良してもらえるとわかっているような場合、お客は積極的に意見を述べよう、伝え忘れをしないよう真剣に考えて評価しよう、としてくれます。かつて、現在の製品やサービスを長年愛用している人に、ちょうど買い替えを検討しているタイミングで、「新作」を事前評価してもらう調査を企画・実施したことがありました。お客側の人たちの目がキラキラ輝いていたことをよく覚えています。
アンケートに協力することの最大のモチベーションは、「共創」に加われることといえます。お願いする側には、お客の意見を是非聞きたいという気持ちがあります。お客の側は意見を聞いてもらえることへの誇りや感謝があるでしょう。信頼関係のバランスが良く取れていると、アンケートは大変うまくいきます。
ノンユーザーへのアンケート
では、ノンユーザーの場合はどうでしょうか。アンケートを依頼する側には、お客になって欲しいという気持ちがありますが、相手は必ずしもお客になりたいとは思っていないでしょう。なりたい気持ちがあれば、既にお客になっていてもおかしくないからです。ノンユーザーと呼ばれる人の中には、あなたが提供している製品やサービスとの関係において、様々な状況の人がいます。一言で定義するのは無理です。ノンユーザーにアンケートに協力したいと思ってもらうには、ノンユーザーの中から「誰」を選び、どんな目的で協力してもらおうとするかが大切になります。もちろん、将来、ユーザーになってもらえる確率が高そうな人を選ぶべきです。
ユーザーになってもらえそうな人
ユーザーになってもらえそうな人は、あなたの製品やサービスに何らかの興味を持ってくれている人です。興味があれば、アンケートに記入してもらえる回答からも有意義な気付きが期待出来ます。興味がありそうな人を探し出すにはどのような方法が取れそうかを考えてみましょう。例えば、
1. 入店はしてくれたが、その日は買わずに帰った人(のうちの何人か)
2. 以前、利用してくれていたが現在は関係が途切れている人(のうちの何人か)
3. 誰か知り合いが利用していて、製品やサービスの良さをある程度知っている人
4. 自社(グループ)の別の製品やサービスを利用している人
1と2については、「ご縁がなかった人」が含まれていることは間違いありませんが、商品やサービスが合わなかったからという以外の理由で、関係が始まっていなかったり、現在は関係が途切れていたりという人が一定数はいます。かつて、ある論文で「最近来店がないお客に電話をかけたところ、35%のお客が来店してくれた」というのを読んだことがあります。この数値自体は、商品や業界によって変わるでしょうから当てには出来ません。しかし、特に理由もなく間が空いてしまうと、何らかのきっかけがないとまた顔を出しにくいということはあるものです。最近来なくなったお客を「離反した」と決めつけず、恐れずにコンタクトしてみる価値はありそうです。3については「お友達紹介キャンペーン」がうまく機能しそうです。4については、例えば、頻度は高くないが定期的に来店してくれているお客に宅配部門のサービスがあることを伝えたところ、それは助かると喜ばれることもあるでしょう。組織横断の発想さえあれば簡単なことなのかもしれません。
一見、「何も情報を持たないまっさらな人」は、有望な新規顧客候補のようにも感じられるでしょう。しかし、その人に該当の製品やサービスについて一定程度の知識を持ってもらうには、実は大変な労力を必要とします。生半可な知識と印象だけでアンケートに答えてもらってもその情報をそのまま活用することは出来ません。何らか「繋がりがある人」を探すことを考えてみましょう。
アンケート協力への「正しい」謝礼は
ユーザーになってもらえそうな人にコンタクトしたいのは、その人たちは前向きにアンケートに協力してくれますし、回答にも有用な情報が多いからです。書かれた要望を満たせば、すぐお客になってくれそうであれば、こちらも、そのことの実現を真剣に検討したくもなります。アンケートへの謝礼は、まさに、この「要望の実現」であるべきです。
10歳からわかる「まとめ」
・インターネットのおかげで、今や、ユーザーとつながり、情報を配信したり反対に意見を聞かせてもらったりすることは、とても簡単に実行できる
・だからと言って、誰にでもアンケートを依頼しようとすると「逆効果」になることもある
・その延長で、ノンユーザーにアンケートしたいと考える場合には、特に注意が必要
・声を寄せてくれた人の要望を実現することこそ、正しい「アンケート謝礼」
・あなたが真剣に声を聞きたいと思う相手にコンタクトすること、相手には真剣に回答してもらうこと、この両立がアンケート成功の鍵
以下、余談です。
CRO: チーフ・レピュテーション・オフィサー
レピュテーション(評判)を良く保つための努力は、どんな商売にも大切なことでしょう。それを専門に担当するCROというポジションを置くことを勧める研究者もいるほどです。ある商品にあなたが興味を持った時、名前だけでなく、ユーザーからの好評価も同時に伝わってくれば、関心はさらに高まるでしょう。そのユーザーがあなたのよく知る人である場合は尚更です。製品やサービスの提供者側には、ユーザーに対して、発信の場を数多く多彩に提供することが求められているともいえるでしょう。
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。