教科における探究学習
2022年度から高等学校の正式なカリキュラムに導入された「探究」ですが、それは、「総合的な探究の時間(総探)」だけではありません。2002年に「総合的な学習の時間(総合)」が小学校で始まり、それを受ける形で、この「総探」は必修科目として生まれました。加えて、高等学校ではこの他に、選択科目として同時に導入された「教科探究」が6つあります。古典探究、地理探究、日本史探究、世界史探究、理数探究基礎、および理数探究です。各教科の学びにも探究のアプローチを取り入れようということです。いわゆる「暗記科目」的な扱いになっているのだとしたら、それを改め、生徒の主体的な学びを促進しようとするものだといえます。元々、先生は、理科や社会等を、決して暗記科目とは捉えていなかったはずですが、大学受験対策として、どうしても細かな知識を授けて「覚えるように」と指導せざるを得ない面があったかもしれません。したがって、これらの教科探究は学びの本来の姿を取り戻すものですから、教師にとっても嬉しいもの、興味を感じるものに違いありません。
主体的・対話的で深い学び
例えば、日本史探究を例に取って生徒の側から捉えるなら、日本史を先生から教わるのではなく、日本史という教材「を通して」自ら主体的に思考し学ぶのが「日本史探究」のあるべき姿といえるでしょう。日本の歴史上のある事象・事件から、その同じ時代における国の枠を超えた世界との繋がりや互いへの影響を考えたり、現代への影響という意味での過去から今への繋がりを考えたりということを、資料をあたったり生徒同士で議論をしたりしながら対話的に学んでいき、そこに教師はファシリテーターやガイド役のような形で関わっていきます。
注意点があるとすれば
「総探」と「教科探究」には、物事の背景や原因などを深く知ろうとするアプローチにおいて多くの共通点があります。事象を理解するためにやるべきこと・調べることについては、ほぼ同じように取り組めるでしょう。ただ、その前後には違いがあるのではないでしょうか。まず、ある対象について、何故という疑問をもつきっかけです。時には、これを先生が問いかけることによって始まることもあるのが「教科探究」でしょう。次は、疑問を解いて、なるほどそうだったのかと理解した後です。やはり「教科探究」においては、そこで「へぇ、興味深いなぁ」で終わることもあるかもしれません。 もし、この、誰かが提示してくれた疑問について(興味を抱き)理解・納得して終了、というのを探究だと勘違いしてしまうと、「総探」を自ら展開していくのは難しいでしょう。「教科探究」を通して疑問を抱くことの大切さを実感できたなら、「総探」では、自分の身の回りから疑問を感じる対象を自ら探さなくてはなりません。また、その問題の構造が理解できた後、「総探」ではその問題を解決しようと自ら動き出さなくてはなりません。ここに大きな違いがあることを、注意点として意識してもらいたいと思います。
総合的とは
辞書的な意味で「総合的」とは、「別々の物事を一つにまとめるさま」「さまざまな事情を加味し大所高所から判断するさま。全般的。全体として」とあります。また、「総合」の対義語は「分析」「個別」とあります。分析は「物事をいくつかの要素に分け、その要素・成分・構成などを細かい点まではっきりさせること」で、この「分ける」が「わかる」の元だともいわれています。こじつけのようですが、総合と分析が対義語であるなら、わかっただけでは「総合的な探究」にはならないと思ってよいのではないでしょうか。
野外科学
「教科探究」にはなんとなく書斎科学の匂いがし、「総探」にはフィールド(に出ての)ワークが必須という感覚を私は抱きます。アドバイスをくれる専門家も、「総探」の場合は学識者に限らないという気がします。市井の人の場合も大いにありそうです。取り組む動機次第でなんでも探究の対象になり得、誰とどう取り組んでも構わないという自由な雰囲気が「総探」にはあります。
学校のカリキュラムの中に、このような縛りのない自由な時間があることは私には画期的と思えます。この貴重な時間を大いに活かすため、周りの大人は何をすべきで、何はしてもよい、反対に、どんなお節介はしてはならないか、を常に考えアップデートし続けたいと思います。
10歳からわかる「まとめ」
・「探究」には、必修の「総合的な探究の時間(総探)」の他に、選択科目として6つの「教科探究」がある
・「暗記だけ」の学習にならぬよう何故という疑問を持ち、その疑問を解くため探究を進め「なるほどそうだったのか」と深く理解する楽しみを味わうのが「教科探究」の魅力
・「総探」では、わかったところで終わりにせず、そこから問題の解決に向かって動き出すことが大切
・また、そもそもの疑問(問い)を持つことも、「総探」では、誰かから与えられるのではなく自ら行わなくてはならない
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。