エビデンス対話とは
自身の主張と他者の主張を双方向に交換することが対話です。両者の主張が、各々同じように確固とした証拠・論拠に基づいている場合を特に「エビデンス対話」と呼びます。あたかも、お互いの証拠・論拠同士が対話をしているイメージです。
目標は、必要に応じて両者を統合し、より納得のいく優れた解決策を導き出すことです。統合の方法は様々です。両者から少しずつ、より良い点を抜き出し、それらを合わせる方法や、両者とも独立のアイデアのまま共に採用し、どちらに先に取り組むと波及効果・相乗効果がより大きくなるかを判断、1 + 1を2にとどめない形で統合する方法、等々です。
エビデンスを得るための市場調査
高校生が探究活動の中で取り組むテーマには地元を盛り上げたいという思いから生まれるものも多いものです。
例えば、「地元の特産品を宣伝し、全国からより多くの注文が来るようにするにはどうしたら良いか」「地元の伝統行事を存続させるために、大勢の人に見に来てもらうにはどうしたら良いか」「地元の観光地にもっと人を呼び込むにはどうしたら良いか」のようなものが挙げられます。
実はこのような課題に普段から仕事の一環として取り組んでいる大人が身近に存在します。地元の自治体、産業や観光関連の企業や業界団体の人々です。彼らはマーケティング活動を通してこれらの課題解決に当たります。
高校生からすれば、それらのマーケティング活動を参考にすると色々なやり方が学べるわけですが、市場調査などは比較的容易に目にできるものの一つでしょう。社会人が仕事で何か企画を通そうとする場合、必ず裏付けを求められるからです。
組織によって何か施策が実行されている場合、多くは市場調査のファインディングス(findings)を受けた判断の元に実施を了承されたものであると考えられます。
現状把握をすれば無理な目標にはならない
市場調査が得意とすることにはいくつかあります。
上述の特産品の例で考えましょう。うまく宣伝して全国からより多くの注文を取ることが目標です。
まずは現状を把握したいとなれば、昨年一年間の販売数や金額、購入してくれた人の県別割合を知りたくなるでしょう。その場合、店舗で購入した人も含めて全てを把握したいとなると、「どこからの来店かを一人ひとり確認していなかった」という声がすぐ上がりそうです。
出来ることからやるなら、注文が店舗でもインターネット経由でも、とにかく発送したものだけに絞り配送伝票を元に数えてみるなど現実的なやり方を探すでしょう。
あるいは、店舗買い上げが大事なのだとなれば、ある一定期間を定め、これからの購入についてレジで必ず購入者に聞いてもらおうなどの代替案を考えます。
このような現状把握は市場調査が最も得意とする分野です。これが1つ目の調査です。
現状が正確に把握できればできるほど具体的な目標が立てやすくなります。例えば、関東の特産品が東北方面へは満遍なく届いているが、西は大阪までがやっとで、それ以西の中国・四国・九州への配送はほとんどないということがわかったとすると、それら三地方への対策が第一だということになるでしょうか。
重点地域が判明すると同時に売上個数の目標値もおよそ見えてきます。
昨年実績が全国20の都道府県からの注文で構成されていて残り27の県にはほとんど届いていないことがわかったなら、今年の目標を「それら残りの県をカバーすることで昨年比2倍」としても無謀な計画とは言えません。一方、現状の把握・分析を何も伴わずにただ2倍と言えば、スタッフからは「そんなの無理」「何を根拠に?」と文句が出ます。
広告手段を決めるにも市場調査が役立つ
重点目標地域が決まれば、いよいよ宣伝強化を図っていこうとなります。
この段階でそれぞれ当地に合った宣伝方法が必要だと判断すれば、それを探る市場調査を2つ目として行う場合があります。テレビ・ラジオ、新聞・雑誌、はたまたチラシでも、広告案を何案か作成し、そのうちのどれが最も効果的かを「事前に」探るインタビューやアンケートによる市場調査が代表的です。
インターネット広告やSNSについては、反応を見ながら途中で宣伝告知の文言や画像に変更を加えることが可能なため、事前調査の感覚とは異なります。もちろん、従来型のメディア用と同様に、調査は調査としてきちんと事前に実施することもできますので、目的に応じて計画します。
3つ目の調査は効果測定になるでしょう。計画通り対象地域の方々への発送が実際増えたかどうかの検証です。ただ、それをわざわざ別途調査として行うのは非効率です。販売行為の中に予め「仕込んで」おきます。
このケースの場合は配送伝票が手元に残るのでそれをまた数えればよいのですが、もし追加情報が何か欲しいとなればそこを考えます。
例えば、購入者の年齢と購入物品の関係などです。宅配便の配送伝票にそれらの記録を残そうとするなら、それを手配する社内スタッフへの事前通達を徹底し、品目欄への書き方を統一しておきます。「商品名をきちんと書く」、併せて「(見た目の判断で構わないので)10代刻みで年齢がわかる記号を付け足す」などです。後者の年齢チェックについては、コンビニエンスストアのPOSレジなどでは従前より行われていることで有名ですね。
公開されている調査データを活用する
生徒たちが行う探究では、自分たちが使える市場調査の結果や分析にどのようなものがあるのかをまず「調査」してもらいたいと思います。自分たちが必要としているものが、わざわざ自ら取り組まなくても、それこそタダで見つかり手に入ることがあります。
企業が実施している調査データは非公開でしょうが、公的な機関や団体が産業振興・観光振興を目的に実施するものは大抵公開されています。企業実施の調査結果でも、中には公開されているものもあります。あたかも「調査は共有財産。大切なのはそれをどう解釈してどんな施策を考えるかで、そこは当社独自ですから」との自負の表れとも受け取れる堂々とした態度です。実は、高校生に探究して欲しいのもまさにその部分なのです。
エビデンスももちろん大切ですが、その先の考察や発想がより大切だということです。
ただし、いかに画期的な発想でもそれを裏付けるエビデンスがしっかりしていなければまわりの人を説得することは難しいのが大抵で、結果、アイデアの実現が困難になります。ゆえにエビデンスが重要なのです。エビデンスは、あなたの案実現への突破口を切り開く鍵となるツールなのです。
10歳からわかる「まとめ」
・エビデンスを集める方法には調査がある
・自分で調査をしても、他の人がやってくれた調査を利用してもよい
・調査で見つけたことからあなたが何を読み取るかが大切。読み取りの違いが、問題解決のためのアイデアの違いとなってあらわれる
・問題解決実現のためにはエビデンスを活用し、あなたの解決案が信用できることをまずまわりに示さなくてはならない
【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年4月26日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】
ジャートム株式会社 代表取締役
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