学内「参観」のすすめ
学校を訪問して気付くのは、探究の時間割(何曜日の何限目)を学年で同一に固定しているところが多いことです。例えば、水曜日の5限と6限には、高校1年生が一斉に探究に取り組んでいます。高校によっては、同じ時間に2年生も一斉に探究に取り組んでいることもあります。さすがに、同時間に学年を跨いだアドバイザーとしての動きを依頼されることはありませんが、同一学年の各クラスを巡回してくださいといわれることはあります。自走できている生徒も多く、全員・全チームが一斉に助言を求めて相談してくることはありませんので、各クラスに一人ずつ外部アドバイザーを配置しなくてもまずまずうまくまわっていく、効率的なやり方といえます。
アドバイザーがいない日も、各教室には、それぞれ担任(と副担任)の先生が控えていますから、生徒が相談相手に困ることはないように見えます。むしろ、その日の内容によっては、生徒の作業中、あまりすることがなくて手持ち無沙汰の先生を見かけることすらあります。せっかくですから、教師は自分のクラスだけでなく他のクラスも自由に回って、事例収集に当てる時間としてはどうでしょうか。他の教室で時間をじっくり過ごすことは難しいでしょうが、生徒の相談を色々と耳に挟みながら各教室を行き来するだけでも役立ちそうです。それらの声をいくつか覚えておいて、放課後、そのクラスの担当の先生と話をしてみるといいと思います。「先生、あの生徒の疑問は面白かったですね。先生は、どんなアドバイスをしたのですか。私だったらうまく相手ができなかったなぁと思って。ぜひ教えてください」などと教師同士が話をしてみることが有効だと感じます。
唯一の正解がない学びをしようとするのが探究です。教師も固くなる必要はありません。自由な発想で意見を交換しつつ、引き出しを増やす機会とすることが大切です。
統一時間割のメリット・デメリット
統一時間割なら、このような教師の「軽い」交流が実現できそうです。
また、生徒にとっては、共通のテーマを探究するチームを構成する際に、構成員を同じクラスのメンバーだけに絞る必要がなくなります。もちろん、探究を個人で進めることに何ら問題はありませんが、同じ(あるいは、似た)テーマで進めている生徒同士が、一緒に(あるいは、近くで)探究を進められると、生徒同士の相談はしやすくなるでしょう。この時間は教室を移動して構わないというオペレーションが可能であれば、そんなことも実現できます。
一方、デメリットとしては、ある教室での探究学習の様子を他の教師が1時限・2時限じっくり観察することが難しくなることが挙げられます。探究の時間がうまくズレていると、教師が他のクラスの様子をゆっくり観ることが可能になるでしょう。時々意識的に時間をズラして、これを実現する配慮も必要でしょうか。
一昨年・2022年度に正式カリキュラムとなったばかりの高校の探究については、どう進めるかということに関して、教師がまだまだ試行錯誤している様子が見て取れます。今は、他者の進め方・取り組み方から、ヒントや気づきを得ることが非常に重要だと感じます。高校の探究に関しては、若手の教師に限らずベテラン教師であっても馴染みがない状況に大きな差はありません。是非お互いに刺激しあってもらいたいと思います。
状況が異なる小学校の「総合」
これに対して、2002年からスタートしている「総合」については、状況が少し異なるようです。もう既に20年以上の経験を持つ教師もいるからです。ここでは明らかに、若手の教師とベテランの教師で余裕の差があるように見えます。
もちろん、何年も総合を指導してきた経験を有する教師も、「児童主体で進めるので予め用意した授業計画通りに進まず落とし所が難しい」とか、「児童に自分で考えさせるのはいいが、明らかに間違っている場合にどう正したらよいか迷う」とか、悩みはあるようです。
しかし、新人に近い教師が、どう進めていいか迷うと話すのとは全く状況や様子が異なります。経験者の先生は是非とも、その様々な経験談を若手の先生に話してあげてほしいと思います。
「児童に任せてどんどん進めていくと、評価の付け方や、評価を付ける場所・項目などについて迷う」というような声も若手の先生からは聞こえてきます。評価については、きっと決まりがあるでしょうから、この場合はこう、その場合はそう、というように実際の例を使って知らせてあげてほしいと思います。まずは、そのような情報共有を通して不安や負担を少しずつ減らすことをしつつ、児童の疑問や質問や相談に集中して対峙できる余裕を、教師グループ全体の中で作り出したいところです。
教師の駄弁の時間
精神的にも物理的にも教師に余裕ができると、教師は、様々な話のネタの仕入れ等に時間を割けるようにもなるでしょう。
今は、時に地元の人々の力も借りながら探究を進めていますが、私が中学生や高校生の頃、地域との交流が多くあったような記憶はありません。生徒の興味を広げる話は、一重に教科担任の「駄弁力」に頼っていました。無駄なようで決して無駄ではない面白い社会の話。学んだ知識を使えるものに繋げ・高めてくれる応用・実用の話。そんなネタを仕込んだり考えたりするための時間や、ネタはあっても披露する時間が、今の教師には無いのだとすると、とても勿体無いことだと思います。それらの話の中にこそきっと、生徒が探究を広げたり深めたりするのに役立つものがあると思われるからです。場合によっては、外部の人の話を直接生徒・児童に聞かせるより、授業・学習の進展を理解している教師が、話をうまく処理・加工して披露する方が、子ども達にはより有効なこともあるでしょう。教師の「駄弁力」に関して出来ることも、外部アドバイザーにはあるように感じています。
いずれにせよ、教員にとって、学内・学外での情報交換の重要度が益々増してきています。
10歳からわかる「まとめ」
・探究の時間割を、学年で統一している学校が多いようだ
・そのため、教師が、他の教師・教室の取り組みをじっくり観察することが難しいのではないか。時には意識的に時間割をズラし、教師同士がお互いに刺激し合い学び合うことも大切だろう
・高校の「探究」は、正式導入からまだ2年ほど。ベテラン教師も新人教師も同じようにまだまだ慣れていない面があるように見える。教師間の情報共有を進めてほしい
・小学校の「総合」はもう導入から20年以上が経過する。進め方等を熟知したベテランの教師は、新人の教師に様々な経験談を語ってあげてほしい
・私が生徒の頃は、教師の駄弁が楽しみであり、かつまた有効でもあった。効率的な協力により教師に余裕が出ると、教師の「駄弁」が増える・増やせるのではないか
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。