総合・探究はアウトプット

Towards/At/Beyond

教科の授業計画を立てる場合、各単元の学習のねらいは「何々を理解している」「何々が身に付いている」などと書かれることが多いでしょう。それに対し児童・生徒の達成度を評価するなら、「到達: 期待通りのレベルにある(Working At Expected Level)」や、「努力中: 理解・体得の途上にある(Working Towards Expected Level)」のように表現できます。中には、既に「期待値を超えたレベルにある (Working Beyond Expected Level)」と評価されるグループも出てくるでしょう。このグループは、狙いとされた理解・体得を達成してその先の知識等まで得ようと先に進んでいるか、あるいは、得た知識等を発揮・活用するアウトプットの段階にいるか、もしくはその両方でしょう。

Beyond層の育成を「総合」で

そのような「期待値を超えたレベル」にある子ども達が生まれやすい環境を学校で設けるなら、学んだことをアウトプットするための時間や機会を意識的に計画することが肝要です。小中学校での「総合的な学習の時間」を、そのためにあると捉えてみるのはどうでしょうか。

ところで、学習に利用した教材に書かれた通りに質問され、それに正解するというのはアウトプットではありません。そのようなクイズはゴールに向かうTowardsの段階で確認のために行う反復練習(Drill)に過ぎません。

真のアウトプットは応用・実践です。学習したことを元に、「そうであれば、こういうことができるのではないか?」のような気付きからスタートする「自主展開」を基本とした「探究」の始まりです。もちろん、アウトプットしようとして不足に気付けば、その不足をインプットしつつアウトプットにつなげます。この場合のインプットは与えられるものではなく、自分から「取りに行き引き入れるもの」です。これには、必要なものに自分で気づいて、それを探し出してくるという「合わせ技」が必要となります。

OECD PISAで、日本の生徒の読解力が低いことが2018年の結果で大きな議論を呼びました。次の2022年に改善が見られたため、現在、議論はトーンダウンしていますが、当時、問題になったのは、必要な情報を探し出す力が日本の子ども達は弱いということでした。書かれていることから必要な部分を読み取る力が弱いとされたわけです。現実の世界の問題解決では、ヒントや答えがどこにありそうかというところから考え、実際にそれを見つけ出してくることが求められるわけですから、あるとわかっているところから正しく取り出すだけより更に難易度が増します。この訓練を、総合的な学習の時間を通して、幼い頃から積み始めたいところです。

総合的な学習のテーマ

総合的な学習の時間に取り組むテーマは、各学校でどのように決めているでしょうか。

「今年は(今学期は)、福祉について取り組みます」「環境問題を取り上げます」のような声を先生から聞くことがあります。なんだか、テーマが突然、どこかから降ってきた印象です。子ども達はそのように感じていなければよいなと思います。

たまたま子ども用の検索サイト「Yahoo!きっず」の学習ページを見ていたところ、学習内容の分類が学年毎の「教科」(国語、算数、理科、社会)と、その他の科目としての「共通」(英語、家庭科、体育)と、「総合」の3大分類になっていることに気付きました。更に、「総合」は、環境、福祉、お仕事、プログラミング、情報、防災等々に分類されていました。環境や福祉といったテーマが口を突いて出てくるのは、こういう括りがあることとも関連があるのかと想像します。

【参照】Yahoo!きっず

総合、統合、インテグレーション

総合ですから、「合わせて考える」「結びつけて考える」が先に来るべきだと感じます。

理科で生き物の生態について学び、社会科で農業について学んだ後、両者を結びつけて、例えば、ミツバチの花粉交配が果物をはじめとした農作物の生産にとても重要であることを知れば、自ずと興味・関心を向けるのではないでしょうか。その後、気候変動等の影響でミツバチが減っていると知れば、環境問題にも目が向くでしょう。また、ハチに代わる人工授粉でなんとかしようと試行錯誤する中、ハチの動きをAIで解析してロボットの開発に役立てているというニュースを知れば、プログラミング、ロボットと興味・関心が展開し、ロボットから介助ロボット、福祉へとつながるかもしれません。

【参照】ハチ x AI 〜生き物に学ぶ新時代の農業〜

先生が投げかけるべきは、「それとあれは、こんなことでつながっているって、みんな知っている?」という問いかけではないかと感じます。子ども達が「えっ、そんな秘密があるの?」と反応してきたら、秘密シリーズを様々に展開するよう促せばよいのです。

総合の年度一回目にやることは

各年度の総合の時間の第一回目にやることとして、「前年度に各教科で学んだことの教科書目次での振り返り」を検討してみてはどうでしょうか。教科を跨いで関連しそうな題目同士を結びつけて総合し、スタートのテーマを一つ決めます。その後は、興味・関心が向くまま展開を続け、必要に応じて、途中から進む方向が分かれるグループが生まれることも容認します。

各年度の第一回目と書きましたが、二年目以降も一年目からの継続でそのまま行けてしまうこともあるかもしれません。昨今、一学年一から二クラスという小規模校が増えているようですから、複数年継続も考えてみましょう。

ちなみに、前述の「ハチと農業」の例は、「総合」初年度となる3年生が1・2年生の「生活」で学んだことを振り返る際にも出てくる組み合わせかもしれません。

10歳からわかる「まとめ」

・「総合的な学習の時間」を、別々の教科で学んだこと(インプット)を総合し、アウトプットする時間と捉えよう

・それには、各年度始めに前年度に学んだことを各教科書の目次で振り返り、教科を跨いで関連しそうな題目をつなげて考えてみるのがよいだろう

・児童への、「それとあれがこんなことでつながっているのを知っている?」という問いかけを、数多く準備しよう

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