総合・探究は説得

計画における迷い

総合や探究に関して、現場の先生からの相談事に耳を傾けていると、こんな声に出くわすことがあります。「(あるテーマに関して)調べ学習をしているところで、この後どう進めようかを、今、考え中」「先日、体験学習をしてきたが、まとめをどうしたらいいかが悩みどころ」等々。先生に迷いが生まれるのは、クラス全体がまとまって何か一つの方向に進んでいくようにしたいという思いがあるからのように感じます。また、児童の反応を見て進む方向を決めたいという気持ちがあるため、事前に全てを予定してしまうことにはためらいが生じるのでしょう。

進むべき「次の方向」は、調べ学習や体験学習を通しての発見内容に依存します。子ども達の発見が様々にあるなら、「次の方向」を一つに定めようとすることは、児童の主体性の養いに反してしまうことにもなりかねません。「主体性・自主性の尊重」と「コントロール」はなかなか両立が難しいですが、総合や探究の時間が学校カリキュラムに設けられていることの狙いを改めて振り返ってみるなら、可能な限り、子ども一人ひとりが自分で取り組みたいと思うことをやらせてあげたいものです。

次のステップと次のフェーズ

ところで、「次の方向」をクラスで一つにまとめることはしないと決めると、全ての準備は「出たトコ勝負」になってしまうのでしょうか。そんなことはありません。「次のステップ」であれば、事前に定めておくことができます。

探究の過程は、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の順にステップを定めています。これを順に追っていきましょう。ただし、探究の過程では、このスパイラルを何周も回転させようとしていることに注意が必要です。現場の先生からは、一年間ではせいぜい一周しか回せないとの声も聞こえてきますが、一周目と二周目ではフェーズが異なります。本来は、周回(フェーズ)ごとに名称を付け、最終的に何周すべきかを予め明確にしておくべきです。例えば、一周目が調べ学習や体験学習にあたるなら、そこに「問題の発見」や「問題の理解・究明」などのフェーズタイトルを付けます。

全体で何周するかを考えるにあたり、何のために探究するかを見直します。「問題解決」のためとすれば、それに焦点を当てたフェーズ分解は、問題の発見から解決までを全体と捉えて、「問題の発見/選定」「問題の原因の突き止め」「問題の原因の解消/解決案の策定」「解消/解決案の実行と効果検証」とすることができます。

「問題の発見/選定」のフェーズで体験学習に出かけるなら、その体験学習の目的を課題にします。「何々を発見してくる」などのことです。体験学習中にその目的に沿った情報収集を行い、教室に戻って、整理・分析、まとめ・表現を行います。問題が複数発見された場合に、どの問題に取り組むかを決めるという意味で、ここを「発見/選定」としていますので、まとめ・表現では、選定したものを明確にします。続いて「問題の原因の突き止め」フェーズに移ります。このフェーズの課題は問題の原因を突き止めることで、その目的に沿った情報収集を行います。一つ前のフェーズの体験学習において関連の情報収集ができているなら、整理やまとめに進んで構いません。次の「問題の原因の解消/解決案の策定」フェーズは、案や策を出すことが課題であり目的ですから、候補となる案・策をひたすら考えます。考える途中で新たに何かを調べる必要が出れば、情報を集め整理します。次の「解消/解決案の実行と効果検証」フェーズでは、効果が見込めそうという観点で絞り込んだ案・策について、実験等で効果検証を行います。それには、情報収集も整理分析、まとめも必要となります。

プレゼンテーション

今回のタイトルを「総合・探究は説得」としたのは、探究の過程の「まとめ・表現」の一様式として提示されているプレゼンテーションを意識したからです。プレゼンテーションは相手を説得するために行うものです。提案に共感してもらい、こちらが促す行動を相手に取ってもらうために行うのがプレゼンテーションです。

そうであれば、探究は、説得力の高い提案で締め括られていなくてはなりません。説得力を高めるための説明の展開は、このような流れです。

1. 私たちが今、関心を寄せている社会問題はこれです

2. 問題の原因について突き止めたところ、原因すなわち解消すべき課題はこれでした

3. 私たちは、課題の解決策をこのように考案・策定しました

4. この解決策を実施すると、これだけの効果が期待できることが実験でわかっています

5. いかがでしょうか。ぜひ、私たちと一緒に取り組んでもらえませんか

これは、先述の四つのフェーズにも合致しています。流れに沿ってプレゼンテーションする中で、各段階で、それぞれ適切なエビデンスを示しながら行います。状況証拠となる写真、現場の声、効果検証を行ったデータなどを、適切な順序、場面、見せ方で提示しながら、話に説得力を持たせます。

五番目が前述では抜けていますが、これは「関係者への提案プレゼン」フェーズとなるものです。提案を通すにはプレゼンの相手のことをしっかり研究しておくことが必要です。相手の期待はどんなことか、自分達の提案はそれに応えているか、誰がキーマンか、キーマンに響く話はどんなことか等々に配慮して、プレゼンの内容や進め方に都度アレンジを加える必要があります。第五フェーズには臨機応変がより求められているのですが、学校の発表会では誰に向けた発表かがほとんど意識されていない現状が見られます。要注意かつ要改善です。

「考える」に最大限の時間を

問題の原因の追求に時間がかかることもあるでしょうが、本来一番時間を割きたいのは、解決案・解決策の練り上げです。これが十分になされていないと、提案が採用されることは難しいからです。第三・第四のフェーズにあたる部分で、立案と効果検証を繰り返しながら、より良い提案になるよう改善・改良を続けなくてはなりません。予め、これくらいの効果が上がれば採用してもらえるという目標がはっきりしていれば、その目標をクリアするまで改良実験を続けることになります。

この試行錯誤は、問題の本質を突き詰めるのにも役立ちます。問題を正しく理解できていないと効果のある解決案は浮かんできません。一つの案がうまくいかなければ、代案を考え、それを新たに試してみます。そうし続けることで問題そのものへの理解が段々に深まり、出てくる解決案が「正解」により近づいていきます。

調べ学習や体験学習の次は

さて、話を最初に戻します。調べ学習や体験学習の直後に行うべきことは、それらを通して児童・生徒一人ひとりが何を発見し、何を感じたかを丁寧に確認することです。納得できたこと、疑問に感じたこと、子ども達の反応はそれぞれ異なるでしょうが、今後、自身はどう行動したいかに焦点が向かうように配慮しつつ、彼らの頭の中の整理を手伝います。

納得したので教えてもらったことを守っていきたいと思う子なら、行動を習慣づけるための工夫を考えたり、仲間集めに動き出したりするかもしれません。現状に疑問を感じた子は、そのおかしな現状を打開すべく動き出すかもしれません。自分一人では実現が難しいことに取り組む際には、当事者以外にも協力者やスポンサーが必要になるでしょう。誰を「巻き込む」のが効果的かを見定め、巻き込みの実現に向けた手段を講じ、その人のところまで提案・説得しに行きます。

まわりの大人は、子ども達が目指す方向に一歩を踏み出せるよう背中を支えます。

10歳からわかる「まとめ」

・探究の過程は、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」の順にステップを定め、このスパイラルを何周も回転させようとしている。ただし、一周目と二周目ではフェーズが異なる

・問題の発見から解決までを全体と捉えると、探究フェーズは「問題の発見/選定」「問題の原因の突き止め」「問題の原因の解消/解決案の策定」「解消/解決案の実行と効果検証」のように分けられる

・プレゼンテーションは、探究フェーズに沿って、都度、適切なエビデンスをわかりやすい形式で提示しつつ行う。その際、相手を意識し、相手に応じた最善の方法を選ぶ

・どのフェーズでも「考える」ことにエネルギーを充分に注ぐ

第79回「総合・探究は思考訓練」を読む