総合・探究は思考訓練

実験・アウトプット・説得、そして

総合・探究の時間に行うことは、「実験」であり「アプトプット」であり「説得(と、それに向けた準備)」であるということをこれまで書いてきました。総合・探究にはまだまだ様々な側面があり、折を見て今後も取り上げていきますが、「手仕事に使う時間」ということが頭に浮かびます。「手を使って考える」という意味です。今回は「思考訓練」としての総合・探究について書きます。

書き出しと工作

手を使って考えるとは、すなわち、頭の中の考えを目でも追えるように視覚化するということです。紙やボードなどに書き出すことは、地に足を着けるのと似ていて、空想になりがちな思考を現実に引き戻すのに役立ちます。特に子どもの場合は、普段から現実と非現実の世界を行ったり来たりしています。アニメや特撮の世界でしかあり得ないことを適宜除外するためにも、きちんと文字にしてまずは自覚し、次に、考えを誰かの目に触れさせ意見をもらいます。視点を変えてモノを見るのに必要かつ有効な方法です。

また、工作も考える際に有効な手段の一つです。こちらは立体的になるという点で、平面的な文字より更に広がりをもたらします。理屈上では可能と思ったことも、例えば粘土を使って実際に形作ってみようとした際に、不都合に気づくということが起こるものだからです。

マインドマッピング

思考の展開に役立つ書き出しに関して代表的なやり方にマインドマッピングがあります。

まず、紙やノートの真ん中に、これから考えようとしていることのテーマを書き、その言葉を楕円で囲みます。例えば、「Aプロジェクトの計画」とでもしましょう。次に、テーマに関するキーワードを一つずつ、テーマのまわりにぐるっと書き出します。この場合は、スケジュール、予算、メンバー、場所、やること等々の言葉が思い浮かぶことでしょう。それぞれのキーワードを、真ん中に書かれたテーマと線で結び、そのカテゴリーに沿って関連する項目を次々に書き足し、これも線で結んでいきます。スケジュールであれば、開始日、締切日、進捗確認日などが連想されるでしょう。

この際、文字の書き込みを小さな紙片や付箋に行うと、順序や位置の入れ替えを柔軟に行うことができるようになります。動かしている時には線は引きません。配置はこれで完成と思ってから線で結びます。模造紙に付箋を貼る形式だと全体が大き過ぎて持ち運びが大変です。後で何回も見直すことが予想される場合には、形を整えながら、全てをノートに書き写すのもよいでしょう。マインドマップとは異なりますが、言葉と言葉の関係を意識してKJ法A型図解にまとめる方法も考えをまとめるのに有効です。

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クリティカルシンキング

クリティカルシンキングは通常、批判的思考と訳されます。批判という言葉は相手を責めるというニュアンスも有するため、その批判とは異なるという意味で、私が子ども達に説明する際には、これは「鵜呑みにしないための思考法」という側面を強調するようにしています。誰かの意見や話を聞く際には、それが元にしている根拠や理由に目を向け、あやふやなところやごまかしがないかに注意を払います。平たく言えば、これは、自分が他人の話に騙されないための予防法です。

この思考を訓練するには、ニュース等で知った社会の問題に対し、自分の意見や感想はひとまず置き、賛成の立場の人の理由と反対の立場の人の理由を両方同時に必ず考えてみるような癖を付けることが役立ちます。

ソクラテス式対話

ソクラテスは「無知の知」で有名です。あるテーマについて第一人者とされる相手との問答を通して、相手が知っていると思っていたことが実は間違った推測の元に成り立っていたこと、相手が実は、ソクラテス自身と同じように何も知らないことを明らかにしました。

ソクラテスの問答は、相手の答えを受けて「ならば、こうか?」のような質問を返し、相手が「そうだ」と答える中に、前述との矛盾を指摘するというものでした。

これと似たやり方に「なぜなぜ分析」と呼ばれるものがあります。これは何か問題が発生した際に「なぜ?」を繰り返す中で、原因を徹底的に追究・洗い出しして再発の防止や改善策を見つけようとするものです。グループで話し合いをしながらの方が広がりを得やすいでしょうが、これは一人でもできるやり方です。

「なぜなぜ分析」はトヨタが発案した手法です。機械が止まった原因を突き詰める中、最終的に濾過器の取り付けという解決に至ったという有名事例を紹介します。

  1. なぜ機械が止まったか: オーバーロードがかかりヒューズが切れたから
  2. なぜオーバーロードがかかったか: 軸受け部の潤滑が十分でないから
  3. なぜ十分に潤滑しないか: 潤滑ポンプが十分くみ上げていないから
  4. なぜ十分にくみ上げないか: ポンプの軸が摩耗してガタガタになっているから
  5. なぜ摩耗したか: 濾過器がついていないので、切粉が入ったから

通常、このように、なぜを5回繰り返すとされています。

メタ認知と振り返り

近年、目にすることが増えてきたメタ認知という言葉ですが、これは、自身の行動を含めた様子を鳥瞰することを指します。もう一人の自分がいて、その人が全体を眺めるイメージです。これを自身の思考過程を客観的に見つめることに応用するなら、自身が何かの問題解決を果たした際に、そこで終わりとせずに自身の思考の進め方を改めて振り返ることとし、それを習慣にするのがよいでしょう。もちろん、問題解決の途中で、一度最初に戻って考え直そうという場合にも有効です。冒頭で紹介した書く作業はメタ認知に有効です。

子ども達が壁にぶつかった際に

児童・生徒が総合・探究に取り組む時、どう考えを進めたらよいかに迷うことが当然起こります。その際、今の学校・教師の多くは「取り組んでいるテーマの専門家に頼ろう、教わろう」としがちに見えます。それでは、総合・探究を行う意味がありません。少なくともプロジェクトの初期の段階で懇切丁寧に教わってしまっては、これまでの他の科目の授業のやり方と変わらないからです。教師に求められるのは、思考・整理のための時間を子ども達に確保し、求められればその作業を補助することです。先に教えてしまうことを避けるという意味では、時に我慢も必要となります。

10歳からわかる「まとめ」

・思考訓練の場として総合・探究の時間を使うには、まず手を使って考える作業を取り入れたい。書いたり工作したりし、それを目でも確認しながらの進行は、空想ではない現実のものとして考えるのに役に立つ。

・必要に応じて大人は、マインドマッピング、クリティカルシンキング、ソクラテス式対話、なぜなぜ分析等々を使いながら、子ども達の頭の整理を手伝いたい

・まずは、子ども達自身が考えるための時間を彼らに充分に与えなくてはならず、先回りして教えてしまうようなことは避けなくてはならない

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