授業との連動で進める探究

国語で学ぶプレゼンテーション

先週、中学校の国語の教科書を見せてもらう機会がありました。ある中学校での勉強会に参加した際、終了後に、国語担当の教諭が教科書に載っているプレゼンテーションの授業の進め方について話をしに来てくれたからです。ちなみに、その日の勉強会冒頭の私の話は「提案・説得までいく探究」ということで進めていました。これは、ここでも何度も触れている、学習指導要領の解説に示されている「探究における生徒の学習の姿」の螺旋図の一項目「まとめ・表現」で、プレゼンテーションの実施が推奨されていることを受けてのことです。プレゼンテーションをするからには、あるいは、それをプレゼンテーションと呼ぶからには、このような要素が入っていなくてはならないという話をしたのです。それは、見せてもらった教科書のタイトルにもまさに書かれていた「提案」と、その先の「説得」です。

国語の先生に切り込んでもらいたいこと

「探究は課題解決型学習である」という意識で探究に取り組むなら、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」の後、最後にくる「まとめ・表現」には、最低でも課題の解決策の提案がなくてはならないというのが私の主張です。「課題の設定」を「自分が解決したいと思う課題を見つけ、その解決に向けて動き出すこと」の意味に置けば、「まとめ・表現」には、当然、解決策の提案が入ってくるだろうと思うのです。ちなみに、もし、「私が考案した解決策により、問題が難なく解決しました」という報告ができる生徒がいるなら、その先を行っていることになります。一方、最後の「まとめ・表現」を「調べてわかったことの発表」としてしまうと、最初の「課題の設定」が、「何について調べるかを明確にすること」程度の意味に小さく収まってしまい、探究が調べ学習で終了することにつながります。

最後、プレゼンテーションで締め括ると決めている学校なら、そこの国語の先生には、国語のプレゼンテーションの授業で生徒に伝えたことを振り返りながら、探究プロジェクトの始めの段階で、「最後はみんなに何か解決策を提案してもらうよ」「だから、解決策を見つけたいと思うような課題を探してきてね」というような声がけをお願いしたいと思います。

その際、「それならプレゼンテーションについての国語の授業のタイミングを、探究の進度に合わせて柔軟に調整したい」と考えるかもしれません。面倒な組み替えでしょうが、探究で行っていることと授業をそのように連動させることで、それ以前には、導入などで「ダブって必要になっていた時間」の節約が期待できるような気もします。授業で取り上げる順番について検討してみるのはどうでしょうか。

提案先は、後から見えてくる場合も

ところで、ある問題を解決したいという思いで進めた探究でも、提案先がスタート時にはまだ全く見当がつかないということは当然ありえます。問題の本質がよく見えてきて、提案したい内容の詳細が段々と固まってきて初めて、あそこに提案に行こうということが明確になるのは当然の成り行きだからです。場合によっては、提案先が複数見つかることも稀ではありません。同じ内容の提案を複数の相手に対して行おうということもあれば、別々の立場の人に対して、少し角度の違った提案を行いたいということも出てくるはずです。例えば、企業には私達の解決案を採用して欲しい、自治体には提案を広く市民に知ってもらうための広報を手伝って欲しい、というように、それぞれ違った立場や方法で、プロジェクトの成功に向けて関わって欲しいということがあるでしょう。

その意味では、例の螺旋図は、提案・プレゼンに向けて新たにまた一周まわす必要が出てきます。それぞれの立場の人にどのように協力してもらうのが良いかをしっかりと調べて作戦を練ることが重要になるからです。複数の企業に提案を持ち込むなら、それぞれの企業の特徴や現状などについてよく調べることが必要になります。話を聞いてもらう中で、「ホームページにも載せているように、うちはもうそれに取り組んでいますよ」と言われてしまっては恥ずかしい思いをします。調べられる範囲でしっかりとした下調べをした上で、提案の場に臨みたいものです。

教師間で活発な情報交換を

さて、今回の私からの提案は、学校の先生の皆さんにご自身の担当教科で、探究学習推進に関連していそうな単元を、他の先生にもよく共有してもらいたいということです。教科を超えて、教師間で意見・情報交換を活発に行ってもらいたいのです。

中学校に進むと、小学校のようにクラス担任の先生が一人でほとんど全ての教科を教えることはないと思います。授業内容に関する先生間の連携は、同じ教科を教えているのでもない限り、なかなか充分には取れていないのではないでしょうか。既に連絡会議のようなものをしっかり確立していて、その辺りの連携に抜かりはないという学校は別ですが、まだそうではないという学校は、探究に関連し役立ちそうなテーマや、探究を進めるに当たって必要となるスキルなどを教師全員で列挙し合うということを一度やってみて欲しいと思います。その中で、例えば、「環境については社会で扱うのでちょうどその授業のタイミングで探究と連携したい」「理科で火山や地震について学んでいるので、ちょうど今、生徒の関心は防災に向いているのではないか」「プレゼンテーションについて国語で学ぶ予定は今のところ2学期だが、タイミングを少しずらした方がよいだろうか」といったような話し合いが生まれると、様々なアイデアも出てくると思うのです。 探究が探究として独立してしまっているのではなく、様々な教科と関連して探究学習が進むことを生徒が意識できると、生徒側にもいろいろな気付きが生まれ、これをやりたいという希望なども自然に出てくるように思います。探究の進め方で小学校や中学校でよく見かけるのは、児童・生徒に教師側が次から次へとテーマを与え、子ども達がそれにやっと付いて行っているとも見て取れるような様子です。絶対的な知識が足りない段階では、そのような進め方も致し方ない面もあるでしょうが、本来、探究で望みたいのは子ども達から希望や提案が上がってくるような雰囲気です。職員室も含めて、学校全体の雰囲気がそのようになるのが理想ではないでしょうか。

10歳からわかる「まとめ」

・課題解決型学習だという探究の側面を大切にするなら、最後は解決策を提案する形でプレゼンテーションをして欲しい

・プレゼンテーションは誰かに対する提案なので、探究の途中からは、調べて理解した事柄をもとに、誰に何を提案するかということをしっかり意識して取り組みたい

・科目の授業内容を見つめ直すと、探究に関連した内容や、探究を進めるに当たって必要となるスキルなどを授業で取り上げていることに改めて気付くのではないか

・担当科目を超えて教師がそのような情報を頻繁に交換し合う仕組みがあると、探究活動の充実に結び付いたり、教師の労力省力化にもつながったりすることが、きっとあるだろう

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