探究発表会

ステージ発表とポスター発表

これまで何度も探究の中間発表会や最終発表会を見てきましたが、そのオペレーションに関しては、各学校とも実施経験を積むたびに要領を掴んできていると感じます。

高校で総合的な探究が正式カリキュラムに導入された2022年度に最も一般的だったのはポスター発表です。大きなフロア会場のあちこちにボードが建てられており、そこに貼られた模造紙に書かれた内容を生徒が発表する形式です。多くの企業が集まりコンベンション会場で開催される展示会のようなところでも同様の形式を見ることがありますが、学校の場合はスペースの問題もあってかなり狭い場所で実施されることが多く、しっかりとしたブースで区切られていることもありません。隣との距離が近いので、隣の発表の声も聞こえてきてしまうという、なかなかハードな状況での発表を生徒は強いられていたという印象です。また、聞く方もそのように、声の聞き取りづらい状況で話を聞かねばならず、また、立ったままメモしなければならず、集中力を試されていました。

ポスター発表の前に代表チームがステージ発表を行う学校もあり、そこに選ばれることは栄誉です。しかし、その発表環境の違いは、ポスター発表チームが気の毒だと感じざるを得ないものでした。ステージ発表チームはパソコンを使いスライドを投影する形式での発表ですから、例えば、スライドに動画を挿入することもできます。ポスター発表では物理的に不可能なダイナミックな演出が可能なわけです。

今や、教室では一人一台のデジタルデバイスを使用して「情報の収集」「整理・分析」を行い、「まとめ・表現」を準備しています。もちろん、ポスター発表でもスライドを印刷して使用していることが多く、手書きで書いているわけではありませんでしたが、作業がうまく連動していない感じは否めないものでした。

先日お邪魔した高校の発表会は、ステージの他に部屋が5つあり、代表のステージ発表の後は、各部屋に分かれてのチーム発表が実施されました。ステージも含めて各部屋同時進行ですので、同じ時間にスタートする計6チームのうち見たいものを決める必要があり、もし、興味あるものが重なっているとどちらかを見落とすことになりましたが、落ち着いて集中して発表を見聞きできたのは昨年より改善された点です。もちろん、どのチームも写真や動画をフルに活用しての発表でしたので、活動時の様子がよく伝わってきました。

説明9割、主張1割からの脱却を

とはいえ、最初にステージ発表したチームと比べると持ち時間がやや短いため、それが発表内容に影響していた感は否めません。配分されている時間が会場参観者との質疑応答も含めて15分と少ない中で、初めて発表を見にきた人に対してこれまでの活動の概要を伝え、自分達の考えや主張も適宜盛り込むのは、大人でもなかなか骨の折れる仕事です。どうしても「説明9割、感想・主張1割」に近いバランスになりがちです。

しかし、私が注目したいと思っているのは、探究の前後で生徒達の中に起こった「変化」です。「成長」と呼んでもよいことですが、探究したからこそわかったこと、気付いたこと、考えが変わったこと、驚いたこと、感動したこと、みんなに呼びかけたいと思い始めたこと等、どちらかといえばこちらに比重を置いて伝えてもらいたいと感じます。極論すれば、何をやりましたという前段の説明は、できるだけ省略してもらって構いません。チームメンバーの探究前後での(心の)変化を伝える中で、その原因となったこととして、探究したことについて軽く触れてもらうだけでもよいと思うほどです。

聞き手を意識した説明

一般に、発表をする際は、聴衆を意識し、その人達にしっかり伝わるにはどうするかを工夫するとより出来栄えのよい発表になるものです。

先日お邪魔した高校の発表会の特徴は、毎年、次年度にその高校への入学を控えた近隣の中学生を招いていることです。この高校の場合は、そこに焦点を置いて発表の構成を練ってみると面白いのではないかと感じます。例えば、発表者は、中学生の頃の自分の考えはこうだった、高校に入ってこんなことに興味を感じるようになった、そこで、探究の時間を通じてこのテーマに取り組んでみた、その結果、こんな発見があり、今、自分はこう考えるようになった、そんな流れで発表を構成してみるのです。

とはいえ、これは、探究の時間に取り組んだ内容自体には何ら影響は与えません。説明の仕方を中学生の身になって構成し直すというだけのことです。しかし、これによって、中学生の聞く態度には変化が見られることでしょうし、発表者の高校生にとっても、それこそ、自分の「成長」を振り返ることにもなるでしょう。

「次」への思い

上記のことを通して、過去の振り返りも兼ねて様々に思考を巡らすことが促されるなら、続いては、未来を意識した行動についても考え、その内容も発表で披露してもらいたいところです。今回の探究は、将来の人生で何らかの役に立ちそうかそうでないか、何か一部でも、このまま続けて取り組みたいと思うようなことがあったか、それとも、やってみたが特にそこから興味が広がったということはなく、ここで一旦区切りをつけるつもりか、どんなことでも構わないので自身の正直な気持ちを一言でもここでまとめて記録に残すことには意味があると感じます。

最近、「ドリハラ」という言葉があることを知りました。夢を持つことを強要するような風潮に対して、それはハラスメントではないかとの投げかけのようです。

もちろん、何も強要するつもりはありませんが、探究でおそらく最も大切なことは「振り返り」です。取り組んだことを振り返って自分の気持ちや学びの整理をすることを、やっておいて損はありません。将来、何かの機会に、この経験で得たことや得られなかったことなどを思い出しやすくなります。内容はさておき探究経験そのものこそが、今後、何かの役に立つはずです。

10歳からわかる「まとめ」

・各学校の探究発表会のやり方は、毎年改善されていると感じる

・参観者が集中して発表者の話を聞きやすい環境に改善され、発表者も動画などを活用し、より伝わりやすい方法が取れるようになってきている

・聴衆のことを意識すると、より相手に伝わりやすい発表になる

・探究で取り組んだことを振り返り、自分達がどう感じたかをしっかりまとめておくと、内容はさておき探究体験そのものが、今後、役立つことになるだろう