探究は解決策・企画案から入る

「界隈」を示すだけではテーマにならない

生徒が取り組みたいものとして最初に提出してくる探究テーマを見ると、やろうとしていることがおよそわかるようなテーマタイトルもあれば、ただ単に名詞の単語一つがポツンと示されているようなものもあります。前者については、例えば「何々をどうする」のような書き方がされています。後者については、今年の流行語大賞候補の言葉ではないですが、何となく「界隈」を示しているだけで、そのテーマに対してどのような問題意識を持ち、どう関わっていこうとしているか等までは、よく伝わってきません。

とはいえ、探究をスタートする前のこの段階では、しっかりと調べがついているわけではないため、どうしたいということがはっきりしないのは致し方ないともいえます。特にチームで取り組む探究の場合は、まず、その問題についてのチームメンバーの認識や理解を揃えることが優先され、それからどう取り組むかの意思決定をするという事情もあるでしょう。

大切なことは、その不十分なタイトルのまま中間発表や最終発表の時を迎えてしまわないようにすることです。進めながら方向を定めていくと同時に、やろうとしていることが具体的に伝わるようなタイトルに、都度、改変・改善していきます。

仮説思考と網羅思考

方向性を定めず、単語一つでタイトルにしてしまっているうちは、必ずある問題にぶつかります。それは、どこから・何から調べたらよいかがわからないという問題です。そうすると、そのタイトルに関連することを一つひとつしらみ潰しに調べていかなくてはならなくなり、そのうち、面倒だと思ったり、やる気を失ったりしてしまいます。特に、学校カリキュラムの中で探究にかけられる時間が短いことが予めわかっている場合には、何らか目処を立ててから事に当たりたいものです。理想は仮説思考で取り組むことです。仮説思考とは、限定されたものでしかないことは了承した上で、今持っている情報を元に「おそらくこうだろう」という仮説を立て、その仮説を検証していく思考法のことです。なお、検証は調査や実験等で行いますから、思考というより方法ということで、仮説検証法という方が実態をよく表しているといえます。

仮説思考の反対にあるのが網羅思考です。網羅思考は、可能な限り多くの情報を収集し、それを分析したうえで答えを出すという思考プロセスです。探究を進める上で、生徒は、どちらかというと、この網羅的な作戦を取りやすいといえます。「おそらくこうだろう」が事前にない、「何に焦点を絞ればよいのかすらまだわかっていない」わけですから、とりあえず、関わりのありそうなことは何でも調べてみよう、となってしまいがちなのです。

ところで、仮説検証型の進め方は、仮説が合っていないと何度もやり直しをする羽目に陥りますから、一見、効率が悪いようにも思えます。しかし、実際は、それを何回か繰り返すうちに何となく勘のようなものが自然に働くようになってくるものです。最初は的から大きく外れていたものも、だんだんと的の中心に近づいていきます。うまくいかなかった経験が次へのヒントとなり、そこから「次はこれを試してみよう」となるからです。最終的には、仮説検証型の進め方の方が早く結論に近づいていくというのが、経験上の実感です。

企業からの依頼調査でも

話は逸れますが、いわゆる「お堅い」会社からの依頼調査の場合、次のようなリクエストが届くことがあります。「当社は今後、何々分野への新規参入を検討している。この分野については全くの素人ゆえ、この分野が関係するすべての産業について一から知りたい。資料を用意してほしい」という類です。まさに、網羅調査の依頼です。「予算によりますが、」と皮肉を込めて反応したいところですが、こちらが真に心配するのは、時間、タイムリミットのことです。新規参入はトップの意向でしょうが、そのトップが実際の新規参入までに腹積りしている時間的猶予はどれくらいかということの確認です。もし、ゼロから参入までに一年二年しか考慮していないのだとしたら、事前調査のようなことに時間をかけている余裕などほぼありません。調査をやるにしても「走りながら」の調査になります。

最近は、市場性(売れそうなものは何か)の確認をするような調査を大々的に依頼する企業は減ってきていると感じます。売れそうなもの(需要がありそうなもの)がわかったところで、それが自社で製造・提供できないものであれば、その情報は役に立たないからでしょう。それよりも、大した労力を要せずとも自社が準備できるものの中から、新規参入しようとしている分野に応用できるものはないかを探す方が効率的です。新たな市場に合わせるため、自社に現存するリソースに加えるべき「一工夫」は何か、どう加えるかを探ることにエネルギーを割こうとします。市場性より事業性の確認に関する調査に集中するわけです。もっとも、有望な企業を買収することまで考えての新規参入なら、自社で製造・提供できるかどうかの判断を優先しないため、話は変わってきます。

市場性を外的要因とすれば、事業性は内的要因のことです。そこから一歩進めて「内発的要因」とまですると、やりたいという意思の部分が強くなります。市場があるかどうかよりも、事業に取り組みやすいかどうかよりも、とにかく自分がやりたいからやるのだ、というわけです。クライアントがそのような意思表示をしてくれると目標がはっきりするため、情報収集で協力するこちらにも気合が入ります。

探究でも、そのような意思表示をする生徒が現れるとワクワクします。

探究を進めるとは

探究の進め方については、「問題解決に向けた筋道を立て、必要な情報を得ながら、関門をクリアし続けること」と説明できます。詳細な調査が先で、それを元に筋道を立てるというより、おおまかな筋道を先に立て、それを細かく確認したり、そこに必要な修正を加えたりしながら進むイメージです。

探究は問いに基づく学習といわれます。何を問う「問い」を立てるのかといえば、自分が取り組むと決めた問題に対し、自分が考えた解決案が、実際、解決に役立つのかどうかを問う「問い」を立てるのだと説明できます。解決に結びつかないなら、なぜ自案では解決にならないのかを知り、そこで諦めずに改正案・代案を出し続けます。

探究は、解決案・企画案を先に出す仮設思考、つまり、仮説の検証で進めていくと取り組みやすいものです。

10歳からわかる「まとめ」

・探究で取り組みたいテーマが浮かんだら、それに取り組みながら、徐々にテーマを絞り込んでいくとよい

・そのためには、まず、そのテーマに対して自身はどのような問題意識を持ち、どう関わっていこうとしているのかを明らかにするよう努める

・代表的な思考法に仮説思考と網羅思考がある。探究の場合は、解決案・企画案を先に出す仮設思考、すなわち、仮説の検証で進めていこうとすると取り組みやすい