アイデア出しの比重を高める
2025年の探究サポートでは、生徒がアイデア出しに対する意識を高め、それにかける労力を惜しまず、費やす時間を充分に捻り出せるよう働きかけていきます。もちろん目標は、より良い知恵が出てくるようサポートすることです。
情報収集の目的の明確化
「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」と進む探究における生徒の学習において、「課題の設定」以前に来るべきものは「目的の確認」です。何々という(社会)問題を解決するため、という理由の確認です。何故やるかにあたる目的を明らかにして何をやるかの目標を、強い意思を持って見据えます。目標は当然「問題の解決」ですが、具体的に行うことは、問題を引き起こしている原因を見つけてそれを取り除くことです。これはそのまま設定する課題となります。こうくれば、この後に続く「情報の収集」は何のために行うのかも定まります。集めなくてはならない情報は、問題の原因究明に役立つ情報と、原因を取り除く、すなわち問題を解決するのに役立つ情報、もしくは役立ちそうな情報ということになります。
ここで、原因究明に役立つ情報しか集めなければ、「整理・分析」から「まとめ・表現」にかけてが、いつの間にか「何々ということがわかりました」という発表に収束していってしまいます。探究が調べ学習で終わる要因はここにあります。集める情報の中に解決に役立つ情報を含めることによって、「整理・分析」以降が、「私が考える解決策はこれです」との表明・宣言、そしてその先に繋がっていきます。
・解決策は突き止めたので、これを皆で実行していきましょうという「勧誘」
・解決策は突き止めたが、その早期実現にはあなたの力が必要という「協力要請」
という具合です。この段階でようやく誰に向けて何のためにプレゼンテーションすべきかが定まります。調べてわかったことの単なる発表はプレゼンテーションではありません。
アイデアのつくり方
ジェームズ・W・ヤング著「アイデアのつくり方」という名著に、私は、TBSブリタニカ社が日本語版を初版発行した1988年に出会いました。当時プランナーとして勤務していた会社近くの書店に平積みされていたのを偶然見かけのです。平積みされていたおかげで表紙の「竹内均−解説」が目に止まりました。竹内氏は同郷の著名人です。地球物理学者で雑誌ニュートンの初代編集長でもあった彼の名前に惹かれて同書を手にしました。原著の初版は1940年に出されており、最初の日本語版は1960年の英語版を翻訳して出されているそうです。1988年版に掲載されているヤングの「日本の読者の皆さんに」は、1961年7月に書かれています。この本は戦前から世にあり、私が生まれる以前に日本語に訳されていたわけです。そして、85年後の今もベストセラーです。
現在、私の手元にある英語版は本文がちょうど48ページです。本文だけでは、本に該当する49ページ以上の分量がありません。日本語版は竹内氏の解説のおかげで本になりました。一説によると、竹内氏の解説の方が長いのではないかとも言われていますが、本文にも解説にも述べられていることの中心は、アイデアが既存の要素の組み合わせであることと、それを含んで、アイデアを実用に展開するまでの5ステップについてです。1. 必要な素材を収集し、2. それらを咀嚼するよう取り組んでいると、3. 孵化の段階を経て、4. アイデアが生まれます。最後に、5. 思い付いたアイデアを具体的に展開させてみてうまくいくかどうかを確認します。3ステップ目の孵化の段階で起こっていることが、それが自ずと起こるに任せた組み合わせ作業ということなのですが、良い組み合わせが起こるためには、良い素材を数多く集めて持っておく必要があります。
アイデアは情報の組み合わせ
ヤングが集めるべきとした情報、組み合わせに使われる素材(raw materials)は、二種類です。一方は当該の問題に直接関連するもの(the materials of your immediate problem)で、他方は、常に豊富にするよう努めてきたあまねく知識の蓄えからくるもの(the materials which come from a constant enrichment of your store of general knowledge)です。アイデアの元は、問題そのものに対する精緻で深い情報と、それとは一見直接関係なさそうな雑学を含む幅広い情報で、それらの収集とストックが重要というわけです。
生徒の場合、若さ故の人生経験不足から、あまねく知識の蓄えが充分でないのは致し方ありません。彼らは、まだまだ知識の蓄えを増やし続けている途上にあります。したがってこれをどう克服するかが、良いアイデアを出す(producing ideas)ための鍵となります。
足りない知識の補い方
知識不足の補い方として提案したいのは以下の方法です。
上記一種類目の「当該の問題に直接関連する情報」は、とにかく徹底的に調べます。調べる途中で「これも関連するかも」と思ったことに対しては、省略せずに根気強く作業を行います。内から外に広げていく作業は自身の力でできることです。また、この途中で「これは問題解決に役立つかも」と思うものにも出会うかもしれません。その際はどんどん積極的に横道に逸れて進んでいきます。
一方で、外から突然のように何か情報が飛び込んでくるようにするためには、工夫が必要です。以前触れたカクテルパーティー効果だけに頼るわけにはいきません。ここで、再検討を促したいのは「中間発表会」の活用方法です。
探究「中間発表会」の新たな位置付け
多くの中学校や高校では、探究の中間発表会は、最終発表会に向けて現在どこまで進んでいるかの途中経過を伝えるものとして実施されています。加えて、最終発表までにやろうとしていることを伝えます。先生や保護者、また外部のアドバイザーなどからアドバイスをもらって、最終発表までの「宿題」がそこで増えることもあります。
私は、この中間発表会を問題解決のアイデアを出すための会に特化してはどうかと考えます。発表する生徒達は、自分達が取り組んでいる問題について調べてわかったことを聴衆に伝えます。可能であれば、その時点で考えている「自分達の解決アイデア」もあわせて発表します。それを聞いた聴衆は、問題解決に向けて「こうしたらどうか」「他でやっているこんなやり方が使えないだろうか」「そこはもう少し工夫してみてはどうか、たとえばこんな具合に」というような案を次々に出していきます。
生徒は自分達だけでは気づけなかった「組み合わせの相手候補」を得て、最終発表会まで、すべての情報や素材を丁寧に一つひとつ咀嚼することを続けながら、Eureka!の瞬間の訪れを待ちます。
最終発表会までにEureka!の瞬間が訪れなかった場合は、それまでの経緯を伝えて発表会を終えます。もし、当日の朝その瞬間が訪れてしまったら、慌てず柔軟に締めの言葉を変更すればよいだけです。ただしこの場合、5番目の、思い付いたアイデアを試し検証するステップが間に合いません。翌年度以降の進級・進学・就職先等に探究を持ち込んで最後まで進めてもらいたいところです。
10歳からわかる「まとめ」
・情報収集は自身が取り組む問題の解決を目指して行うもの。その目的を明確にして取り組みたい
・問題解決のアイデアが生まれるためには、その問題に対する精緻で深い情報と、問題とは一見直接関係なさそうな雑学を含む幅広い情報と、二種類の情報の収集とストックが必要となる
・生徒は、若さ故の人生経験不足から、あまねく知識の蓄えが充分でない。まわりの力を借りてそこを補うことを考えたい。探究の中間発表会を問題解決のアイデアを出すための会に特化するのも一つだろう
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。