レトロプランニング

研究と探究の違い

研究と探究は様々な面で異なりますが、学校で行うものに絞って捉えれば、探究については、さらに一点、特徴が加わります。それは、探究の中間や最終の発表会スケジュールが学校の年間行事計画に従って決定されることです。プロジェクトの進行や発表者自身の都合によって、探究内容のまとめ・提案を行う日の予定を自由に決めることはできません。

しかし、反対にそれをうまく利用すれば、探究の場合はその発表日を最終ゴールとして、逆算でいつまでに何をしなくてはならないかのプロジェクト管理計画を立てることができます。とはいえ、最終ゴールを何にするかが最初の段階で早々に決まる人は、そうはいません。取り組みたい分野について関連しそうな情報の収集を様々に進める中で、徐々にゴールが具体的に浮かび上がってくるというように進むのが探究です。その点、研究はまずは先行研究をあたり、それを勘案した上で、まだ誰も行っていないことに目標を定めて進めていくものといえるでしょう。そして、その研究をいつ終えられるかについては、通常スタート時点で目星をつけることはできません。 探究において、もし、全く最初の段階でこの反転プランニングを始めるなら、最終ゴールの真反対にあるスタートの直後に来る最初の項目に「テーマ決め」と入れ、それをいつまでに終わらせるかをスケジュールし、自身にプレッシャーをかけていくことになります。

プランニングの方法

さて、この、反転プランニングともバックワードプランニングとも呼ばれるレトロプランニングのやり方は以下の通りです。

1. まずは目標の定義です。前述の通り締切日は決まっていますが、そこに「その日(まで)に何をするか」を書き込まなくてはなりません。具体的な事項です。目的(何のために)ではありません。ただし、上記の「テーマ決め」が済んでいないと具体的な事項は書き込めないでしょうから、テーマ決め後に直ちに行うことになります。

2. 次にマイルストーンと期限の作成です。マイルストーンはベンチマークとも呼ばれますが、漢字で書けば里程標です。ゴールに制限時間内に到達するまでの間に「やらなければならないこと」を順序立てて記入し、「各々いつまでに完成すべきか」を書き添えます。これにより、スケジュール通りに進んでいるかどうかが一目でわかるようになります。また、使用した経費も書き添えれば、予算に対して支出が超過していないかどうかも合わせてわかります。これらは、一人でプロジェクトを進める際にももちろん有効ですが、チームで事を進める際には、メンバーの参加を促し団結を高める上で更に力を発揮します。

3. 次はタスク(やるべきこと)のステップ分割です。記入した項目が大項目になっている場合は、それを可能な限り細分化します。タスクは、より簡単明瞭・具体的で、早く完了できる形式で示すべきだからです。そうすることにより、プロジェクトの進行管理もよりスムーズに行えるようになります。

4. 続いてはリソースとスタッフの割り当てです。タスクが明確になれば、チームプロジェクトの場合のネクストステップは、そのそれぞれの各担当への割り当てです。割り当てで大切なことは、やりっぱなしにさせないことです。担当者がしっかり結果を確認・テストして、次に渡すことを徹底します。

5. 最後は、というより、実際は途中途中の作業になるでしょうが、振り返りです。パフォーマンスの評価です。必ずしも全てが当初の計画通りには進まないのがプロジェクトです。困難に直面したり、新たな展開があったりすれば、柔軟に変更を行わなくてはなりません。もちろん、主観でこれを行ってはいけません。どんな場面でも、客観的指標での評価をもとに、根拠を伴った判断を行うことが大切です。

軌道修正は必ず起きる

スケジュール管理を第一義において実施するレトロプランニングですが、スケジュール通りの進行管理ばかりに気を取られてしまってはいけません。計画はあくまで計画です。動き出してみてからわかる現実も多々あるでしょう。思った通りに進まないという壁にぶつかっても動揺してはいけません。自然が相手という場合は特に要注意です。そのような工程が入る場合には、その部分には予めバッファ(予備・余裕・ゆとり)を取るようにしましょう。自分達で考案した仕掛けで外来魚を捕獲し、その駆除に役立てようと計画したチームが、天候不順によりしばらく仕掛けができず予定がズレ込むといったことは、何も特別なことではないのです。ある程度のことは予想しておかなくてはなりません。

ただし、外来魚の生態をよく研究しなかったために、冬に行わなくてはいけないことを夏から出来ると思っていては話になりません。地元の特産果実の売上向上を狙ったイベントの開催日を、収穫前に計画するようなことも、もちろんあってはありません。しかし、冒頭に記した学校スケジュールの縛りのために、そのようなおかしな計画を示してくるチームが現れるというのも現実です。

もちろん、上記の例に該当しない理由での軌道修正も当然あり得ます。想定していたことが現実の状況にうまくハマらない、機能しない、という理由から計画変更を迫られるような場合です。その場合もゼロからやり直しということにはならないはずですが、途中まで戻ることにはなります。その際、レトロプランニングに結果が都度きちんと書き込まれていれば、戻るべき箇所はここだということが早期に明白になります。傷が小さく済むと同時に、挽回のチャンスが大きくなります。

「発表会」の見直しは必須

探究は、特段の理由がないなら、各個人・各チームの興味関心に沿ったテーマ設定で進めるべきです。そして、それを許すなら、中間や最終の発表会をある特定の一日に集中させる今のやり方は見直さなくてはなりません。それぞれのプロジェクトに合ったスケジュールを、まずは生徒から提出させ、それを元に「最大公約数を活かす考え」に沿って日程を決めるべきです。それでも、ある程度の期間を決めてその範囲に収めるようにするのが精一杯でしょう。時には、その上さらに特例を認めることにもなるはずです。しかし、意味ある発表会にするには、これを避けては通れません。「多様性重視」の発想を、ここにこそ持つべきです。

10歳からわかる「まとめ」

・現状、探究は、中間や最終の発表会スケジュールが学校の年間行事計画に従って決定されている

・これをうまく利用すれば、レトロプランニングを行った上で、管理されたプロジェクト進行を期待することができる

・一方で、自由な発想で、各個人・各チームの興味関心に沿ったテーマ設定で探究を進めるなら、中間や最終の発表会をある特定の一日に集中させる今のやり方は、真っ先に見直しが求められるポイントになる