大人として、アップデートを怠らない

知らないうちに「抵抗勢力」になっているかもしれない

6月に開催した第四回読者交流会にご参加くださった皆さまありがとうございました。今回の交流会はいつもとは少し違う雰囲気で進みましたね。お話をうかがう中、ある思いを抱くトピックが一つありました。社会の変化に対する自身の理解・認識が追い付いていないため、知らず知らずのうちに「抵抗勢力の一部」になってしまっている人たちがいるという思いです。

交流会直前の第17回に載せたアソさん語録から引用するなら、「事実が先廻りしている」状態の中、その人たちは「観念のヨロイを捨て」られず、「自己否定」が出来ない状態に陥ってしまっているようです。観念のヨロイは固い思い込みを指します。柔軟性に繋がる素直さを持ち合わせていない状態です。

第17回「すごい人」へのジェラシーの感情を活かす

否定はヨロイ同様に強い表現ですが、絶えず必要とあるように、これには「マイナーチェンジ」や「調整」も含むと考えられます。しなやかさです。状況が変化した中でも、やりたいことに向かって変わらず突き進むためには、やり方を状況に合わせて変えてみる必要に迫られる場合があります。それは、これまでの自己のやり方の「否定」にも繋がります。

常にアップデートが必要なことを自覚すべきだとの指摘です。少しずつだとしても動いている世の中で、旧来からの価値を維持し「変わらない」(ように見える)ためには、世の中の動きの分に合わせて「変わる・変える」必要があるのです。

今の子どもたちが必要とする力は、昔と違う

探究に絡めて話を進めます。OECDが示す「学びの羅針盤」で、生徒はStudent Agencyと表現されています。自力で歩みを進め、進むべき方向を自分で見出せるように育って欲しいからです。AgencyのAgにはAction(行動)の意味があります。歩みを進める際、頼りにすべく生徒が手にするツールが羅針盤で、そこには学びの中核的基盤が書かれています。

Agencyと似た言葉にAgendaがあります。課題や議題とも訳される言葉ですが、これも行動を伴うため「解決すべき(解決に向かって自ら動くべき)社会課題」と捉えられます。創業者は、Agenda解決のために事業をはじめます。ココ・シャネルにとってのAgendaは「女性の解放」でした。事業を自分では始めないという人も、自身の夢や人生のテーマとして、このAgendaを意識することは大切です。探究に関わる教師や大人は、子どもたちに向かって「あなたのAgendaは何ですか」と問いかけるようなことをする訳ですから、まずは自身のAgendaを、自分が常にしっかりと意識していなくてはなりません。

例えば、「自分らしく逞(たくま)しく生きていける子ども達を世に送り出したい」をAgendaとしている大人の皆さん、そのために必要な力が世の中の変化とともに変わっていませんか?変わっているのに、そして、それをわかっているのに、これから必要となる力の獲得の妨げになるような時間の使い方をしていませんか?

CanとWillとShould

Agendaを意識することは、下記の図でいえばWill(やる/やりたい)を定めることです。その際、Can(できる)を一つずつ増やして行き、二つの円のズレを徐々に無くせるように進め、自身を高めて行くでしょう。と同時に、もう一つある三つ目の円のShould(すべき)にも目を向けねばなりません。社会からの要請に関連するこれが、最も変化しやすい部分だからです。

ここの変化に気付かずに、あるいは無視してWillとCanだけを見つめていると、いつしか自身が「抵抗勢力」になってしまっているのです。Shouldの変化には必ず理由や根拠があります。たとえ納得のいかない理由であったとしても、「そんなわけはない」という思い込みで食わず嫌いを決め込むのはいけません。「そんなわけはない」を証明しようとしないのならば、少なくとも一旦は素直に受け止め、その提案に従う必要があります。社会の側は、理由を示して「変わりましょう」と提案してきているわけですから。もしそれが、社会が全体として既に受け入れた提案ならば、尚更です。

日本の学校に変化が求められている

このグラフが示す日本の国際競争力順位の推移、すなわち、順位落ち込みの度合いとそのスピード、また、今まだ底が見えていない現状が、教育界の危機感を煽る原因の一つであることは間違いないでしょう。更には、この調査が開始された当初一位を継続していたという自負も、危機の意識をより高めているに違いありません。

私の社会人人生と重ねると、社会人に成り立てのころ日本は一位でした。これは先輩方の力です。自分の貢献はゼロです。そして、徐々に自分が会社の戦力になり始めたと自覚しつつあるあたりから、ずっと順位を落とし続けています。途中、外資系の会社に入り、世界各地の同僚と交流し合う中、自分に不足している力を日々実感していたのですから、日本の順位が上昇に向かわなかったのも納得のいくところです。私が実践してきた「受身・孤独な一夜漬」勉強を「否定」せざるを得ません。「主体的・対話的な深い学び」すなわち「探究アプローチ」を試さないわけにはいかない、は私の実体験に基づく信念です。

私が抵抗にも抗えるのは、実体験とそれに基づく信念があるからです。しかし、そのような実体験を持たない人の中には、抵抗への巻き返しをうまく出来ない方もいるようです。
「あなたのその、今まで通りのやり方では、あなた自身のAgenda完遂が、今や危ういのではありませんか」と、相手に真摯に問いかけてもらいたいと思います。

変わらないために変わり続ける

うまく行き始めた段階の学校において気になる点は、安心・安堵の空気です。先述の段階をくぐり抜け、抵抗感が抜けて「一致団結」の雰囲気に学校が到達したところで起こるのが、停滞です。「当校の型ができた」と満足感に浸ってしまい、外に目をやらなくなったところから、当事者の方たちが気付かぬところでそれは始まります。

アソさんいわく「凡庸な平和はない。マジメなだけの人間は怠け者」です。立ち止まってしまってはいけません。変わらぬために、変わり続けましょう。

10歳からわかる「まとめ」

・やりたいことは、それが実現できるまで粘り強くやり抜こう
・でも、そのやり方については、頭を柔らかくして時々見直そう。世の中の「常識」も、新しい発見に伴って変わるものだから
・例えば、以前は「脇腹が痛くなるので走る時には水を飲まないように」と言われた。最近は「適切に水を取りながら走りなさい」と言われる。まったく反対になってしまった
・やりたいことが実現できたら、実現した状態を続けていけているかにも目を向けよう。「実現状態の継続」にも、そこに進化がないといけない。いつの間にか壊れていないか、もう役に立たないものになってしまっていないか、よく目を配り続けよう

【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年7月12日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】

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