課題への「自分の解決案」を次々ブツける
あなたが解決したい社会課題が見つかったら、その原因・背景や、課題のせいでどんな人が特に困っているか、また、それはどの程度深刻な課題なのか等を詳しく調べ始めることでしょう。調べれば調べるほど、その課題についてあなたは詳しくなっていきます。
しかし、いくら調べても解決策はなかなかみつからないでしょう。良い解決案がまだ世の中にないからこそ、課題が未だ課題のまま残っていると考えるのが自然だからです。そうなると、ある程度調べて大まかなところがわかった段階で、今度はあなたが自分で解決策を考案してみようとしなくてはなりません。自分なりに使えそうだと思える案や策で構いません。
場合によっては、「これは使えそうにないな」と思えるようなものも、一旦、吐き出してみるとよいでしょう。紙にたくさん書き出して改めて眺めてみると、それだけではうまくいきそうにないことが、別のものと組み合わさることで一つハードルをクリアできることに気づく場合もあります。
腕を組んで頭を捻(ひね)っていても良い案はなかなか浮かびません。腕組みから手を解放し、その手を動かしながら作業するのが良さそうです。
使えそうな案をブツける先は「先輩」
面白そうな案が浮かんだら、周りの人に見てもらい、それに対する評価・意見をどんどんもらいましょう。その課題に特には詳しくなさそうな人でも、あなたの理屈の矛盾点を指摘してくれるかもしれません。色々な意見をもらう中で、あなたと同じ課題を長年研究してきた「先輩・先達」に出会うこともあるでしょう。ツテを頼りにするなどして、いわゆる「専門家」の意見が聞ける人は更に幸運に恵まれています。
先輩や専門家からのフィードバックは貴重です。「私も昔、君と同じことを考えたよ。結局うまくいかなかったが」というなら、自案の不備を確かめるのにこれ以上の機会はないといえます。それを繰り返しながら、案の見直しをしつつ、同時に課題そのものへの理解を深めていきます。
ブレストに不慣れな日本人におすすめの手法
そうなると、何はともあれ先に必要となるのは、解決に向けた「策」「案」ということになります。アイデア出しの方法というと、ブレーンストーミングを思い付くでしょうか。先ほどの「これは(単独では)使えそうにないが、取り敢えずリストに入れてとっておこう」と思えるような人はどちらかといえばブレストが好きな人だと思います。
一方で「思いつきを口にするのは恥ずかしい」や「自分の発言を否定されたくない」と思う人はブレスト嫌いではないでしょうか。他人の意見にどんどん乗っかればよいのだと説明されてもなかなか勇気が出ないものです。自分の発言に誰も乗ってこないこともあります。そんなことを恐れてか、私の経験でも、なかなか口を開こうとしない人が日本人には多い印象です。
そんな時に使えそうなやり方が「ブレーンライティング」と、それに繋がる「635法」です。まずは、635法からご紹介しましょう。
6人グループで一人3案の書き出しを5分ずつ
6人で円陣を組むように集まります。下記のような枠だけの紙を6人各自に用意します。一番上の空欄には、これから何についてアイデアを出し合うのか、そのテーマを各自で手書きします。
例えば、昨今話題の子どもの「体験格差問題」に課題意識を持つなら、「小学生が地元の自然に触れながら自然について楽しく学ぶ方法」についてアイデアを出す、のような感じです。自らテーマを手書きすることで、全員の気持ちがしっかりそちらに向くことを期待しています。
準備ができたら、早速始めます。最初の5分は、全員が一段目にそれぞれ自分の案を3つ記入します。5分経ったらその紙を隣にまわします。右でも左でも構いません。ただし、右と決めたなら最後まで右を守ります。まわってきた紙の一段目は、隣の人が書いたもので埋まっています。伝わりさえすれば、書くのは文字でも絵でも構いません。
時には、あなたの興味を引く内容が書かれているかもしれません。でも、この段階では深入りはしません。淡々と進めます。
次の5分で、今度は二段目にあなたの案をまた3つ書きます。先ほど書いたのとは別のものを書きます。そのように、六段目まですべての枠が埋まるよう、この作業を繰り返します。
すると、3個 x 6段で計18個のアイデアが書かれた紙が6枚出来上がります。案は全部で18個 x 6枚で計108個になります。中にはどうしても思い付かずに空欄だったり、凡案・駄案とわかっていて書いたり、似たものを書いてしまったりもするでしょう。それでも要した時間が5分 x 6回の計30分で、およそ100個の案が出たわけです。周りの人の顔色をうかがって黙っていたのではこうはいきません。
最後は、6枚の紙をすべて見渡せるように壁などに貼ります。全員で見ながら良さそうなものに印をつけていきます。この時、「これとあれを組み合わせると面白いのでは?」というものも見つかるでしょう。凡案・駄案を見直す瞬間かもしれません。
前の人の案を発展させるブレーンライティング
さて、次にブレーンライティングをご紹介します。これはいわば635法の発展形です。635法では隣の人が書いたものに気を取られないようにしましたが、ブレーンライティングでは、それに積極的に「乗っかる」ことが大切になります。ブレーンライティングの1ターン目までは、635法とやり方はまったく同じです。
2ターン目の5分が始まる前、まわってきた紙の一段目には既に隣の人の案が三つ書かれています。まず、あなたは左端の案を見て、一段目と二段目の境界線を跨(また)いで真下に向く矢印を書きます。これから二段目に、一段目の案を受けた案を書きますよという意思表示です。そして、実際その欄に元の案を膨らませたアイデアを書き込みます。
あなたの段の、真ん中、右、の列についても同様に繰り返します。次のターンでは、一段目を発展させた二段目まで書かれた紙がまわってきます。あなたは、一段目と二段目をそれぞれ縦に眺め、三段目に更なる発展案を記入します。それをまた三列くり返します。
この流れを六段すべて埋まるまで繰り返しますが、もし途中でもうこれ以上の発展案を出すのは難しいと感じたら、下向き矢印で境界線を跨ぐ代わりに境界線を太線で塗りつぶします。ここまでで最初の案の発展を終了し、次からは上とは別の案を書き始める、の意思表示です。
このようにして、六段の枠がすべて埋まるまで作業を続けます。このあとは635法の時と同じように、全員で全部の紙を眺めて良い案を絞り込みます。
絞り込んだ案を外の人の目で評価してもらう
絞り込んだ良さそうな案が、これ以上もう発展させられないとは限りません。なぜなら、案の発展型を考えることをやめたのは、たった一人の判断だったからです。別の人なら発展させられたかもしれませんし、太線を引いた本人も、もう一度改めてゆっくり見直したら面白い案を思いつくかもしれません。チームで話し合いながら、自分たちの中ではこれがベストだと思う案を完成させます。
そしていよいよ、自分たちで考えた課題解決案を外の人の目で評価してもらう段階に入っていきます。ここからが本格的な探究の始まりです。楽しんでいきましょう。
10歳からわかる「まとめ」
・解決したい問題が見つかったら、問題の原因などを調べたいと思うだろう
・でも、いくら詳しく調べても、解決案までは見つからないかもしれない
・良い解決案が既にあるなら、そもそもそれはもう問題にはなっていないはずだから
・だとすれば、解決案は自分たちで考え出さなくてはならない
・自分では良さそうに思えた解決案も、他の人には欠点や弱点が見つかりやすいもの。以前から同じ問題を考えてきた「先輩」やその道の「専門家」がいるなら、積極的に、その人たちと意見交換をしよう。探究では、この意見交換がとても大切
・意見交換するには、まず、自分の案を持つ必要がある。チームで意見を出し合う方法に635法やブレーンライティングと呼ばれるやり方がある。仲間と一緒に試してみよう
【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年7月26日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。