変化したのではない、成長したのだ
3月から5ヶ月間にわたってお読みいただいたこの連載も、掲載元の「作家たちの電脳書斎デジタルデン」のサイト運営が8月末をもって終了することに伴い、今回が最後の記事更新となります。長らくのご愛読ありがとうございました。
最終回は、主張の「変化」について触れてみたいと思います。連載の第1回は「『論破』よりも建設的な対話の方が役立つワケ」、第2回を「自分の主張を持つために必要なエビデンスの集め方」として、この連載は始まりました。
人々の間で盛んに対話が行われる世の中が私の理想です。そのためには、人々がそれぞれ自身の主張を持つこと、その主張には根拠があることが大切で、その上で意見・主張の異なる人々の話もよく聞き、交流して欲しい。これが、この連載を通してお伝えしたかったことです。
さて、ともすると主張が変わることは良いことではないとされる場合があります。政治家が政治的主張を変えれば、支持者は「あの人は信念が揺らいだ」と受け取るでしょう。しかし、一度信じたことを一生念じ続ければ良いということでもないはずです。状況が変われば、それにあてはまる「正しいこと・正しい判断」も変わります。状況を都度見定め直すことなく、ただ前例を踏襲していては、取った行動の結果がいつの間にか期待と真反対の効果をもたらしていたということさえ起こり得ます。
真反対は極端だとしても、これまでと同じ効果を発揮させるために行動の程度を加減しなくてはならないことは、当たり前に生じるはずです。状況を見定めながら、自ら主体的に、これまでとは異なる行動を取ろうとするのは、宗旨替えではなく「成長の証」なのです。
状況を都度見定め直すこと
状況の変化に気付くことは、変化が小さくあればあるほど難しいものです。いつもそれを離れたところから見ているならまだしも、自分がその中で暮らしている社会の変化となると尚更、気付くのはなかなか難しいでしょう。ゆえに、常日頃から様々な人と交流して欲しいのです。
社会の変化に気付く有効な手段の一つは、その中で暮らす人々の意見や考え方の揺らぎや移り変わりの兆しに触れること、話しながらあなた自身が、「あれっ?」と違和感を抱くことだからです。
方針の転換はわかりやすい
一方で、誰かが「今後は、こうしていきましょう」と発表してくれること、これから起こる・起こす変化については、気付くことは簡単です。それが国の方針であれば、これでもかこれでもかと、しつこく方針転換のお知らせが流れてくるはずです。
ところが、その方針転換を受け入れることはそう簡単ではない場合もあります。受け入れるのに必要なことは「納得」です。なぜ変化が必要なのか自分自身が納得しない限り、その変化への提案を受け入れられません。だからこそ、止まらないでいただきたい。
まずは、納得できるのかできないのかを自身で確認して欲しいのです。自分で勉強した上での、「受け入れられない」の判断は、尊重されるべき判断です。感情だけで判断しがちな私たちですが、是非ともそこは一段乗り越えたいものです。
そこで参照したいのがエビデンス
まずは、方針転換を主張する側の論拠を確認します。どういう事実に基づき、それをどう評価したから、その方針転換が唱えられているのか、の理解に努めます。大抵の場合、事実の把握の点までは同意できるはずです。事実を捻じ曲げたような「嘘」「捏造」が発見されることは、そう多くはありません。たまに大きな事件が話題になり、そちらにばかり気を取られますが、実数を確認すれば、数としてはごく僅かなはずです。しかし、その後の、「事実の解釈・翻訳」においては自身と異なるものが示されることはよくあります。
世間では、これを「事実の捻じ曲げ」と言いがちですが、それは違います。捻じ曲げではありません。事実を見る際の見る方向・角度・部分(面積・体積・奥行きなど)・重点等が違ったことによって解釈の違いが起こっているだけです。
よって、そこは冷静に確認すれば良いのです。「なるほど。あなたは、そのポイントを重点的に見たわけですね。だから、そのような判断をした」「私は、そこではなく、別のこちらの方が今は大切だと思ったのです。故に、あなたとは異なる考えを持つに至った」というようなことを話し合えば良いのです。その後、どちらが優先されるべきかを判断し合うのですが、その際に、エビデンスを参照します。
エビデンスにはレベルがある
エビデンスのレベルについては、前々回の最後に触れたばかりです。情報を探す際、私たちは、欲しいものが見つかった時点で探すのをやめがちです。しかし、失くし物を探すのとはわけが違います。「失くし物が最後に探した場所で見つかる」のは、見つけたらもう探さないからです。
前々回の記事「インターネットを活用して『考える』」
しかし、エビデンスについてはその質に注目し、冷静に見て「これではまだ心許ない」と思うレベルなら引き続き探し続けてください。何か一つの事例や、誰か一人の専門家の意見を過剰に重宝することは慎みましょう。主張の交換は、論拠の交換です。自分と意見・主張が異なる相手が用意したエビデンスのレベルが、自身が用意したエビデンスのレベルより高いと判断したなら、素直に相手の妥当性を認めましょう。そうして、都度都度より良い判断をしましょう。
判断は都度都度でも、見つめる先は将来
目先の利益に気を取られずに判断することも大切です。ネイティブアメリカンの人々は、7世代先・200年先の子孫への影響を意識して現在の決断をするといわれます。エビデンスの中身の判断をする際は、そのような視点もぜひ忘れずに行っていただけるようお願いします。
10歳からわかる「まとめ」
・以前と今とで、言うことが変わるのは悪いこととは限らない。常日頃そのことを考え、状況の変化について目を光らせているから判断が変わったのなら、それはあなたが成長したからだ
・方針転換を誰かから知らされた際は、転換が提案される根拠を確認しよう
・相手の根拠を確認し、自分の根拠と比較して、どちらの根拠の質が高いかを冷静に判断しよう
・何か決断をする際は、目先の利益だけでなく、それが将来に与える影響についても意識した上で決断しよう
【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年7月31日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】
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ジャートム株式会社 代表取締役
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