ChatGPTと安全・有意義に壁打ちする

探究を生成AIと進める

学校により、探究の進め方はいろいろでしょう。まず、グループで一つのテーマに取り組むところと個人個人で取り組むところ、グループの場合もメンバー決めが先のところとテーマ決めが先で各テーマのもとに取り組みたい人が集まるところ、等々あります。テーマに関しては、近隣企業等からの「悩みごと」の解決策を考えるといったものでなく自分で決められる場合には、是非、個性を発揮し好きなことに取り組んで欲しいと思います。

とはいえ、何となくやりたいことがイメージできている人でさえ、探究するにふさわしい内容や大きさにまでテーマを落ち着かせるのは難しいものです。ましてや、方向性もはっきりしないという人なら尚更です。そんな時は遠慮せずに「まわり」を活用しましょう。友達、先生、家族、先輩、近所の人。そして、その中に、今流行りの生成AIも加えてみてはどうかというのが私からの提案です。ChatGPTを例に紹介しましょう。

利用登録

ChatGPTを利用するための登録は、メールアドレスと、認証用に入力を求められる携帯電話番号があればすぐにできます。利用開始もすぐです。ChatGPT-3.5であれば料金もかかりません。

登録後に行うこと

利用にあたり、念のために先に行なっておくことを勧めたいのがオプトアウトです。生成AIを利用するにあたり「個人情報は入力しないでください」との注意を耳にしたことがあるかと思います。それは、利用者が入力した情報を、生成AIが別の利用者への回答に使い、機密情報が漏れてしまうことがありうるからです。今年春にはChatGPTでサムスンの事例が世間を騒がせました。

【参照】 サムスン、機密情報をChatGPTにリークして大問題に

オプトアウト(= 自身が入力した情報を学習データとして使用することを拒否すること)の申請は、下記URLから行うことができます。

【参照】 OpenAI “Make a Privacy Request”

ChatGPTの得意分野

ChatGPTは、例えば次のようなことで人間の相手をしてくれます。「本人」曰く、自信があるのは、Information and Research, Learning and Education, Creative Writing, Professional Writing, Programming and Technical Assistance, Health and Fitness Advice, Cooking and Recipes, Travel Planning, Entertainment Recommendations, General Advice and Problem-solving, Art and Image Creationだそうです。なぜ英語の回答になったかというと、私が英語で聞いたからなのですが、英語で聞いたのには理由があります。これも本人に確認したところ、「ベストな結果を得るには、英語で聞いてもらって英語で答えるのがいい」と返事が来たからです。理由は、ChatGPTが参照するデータセットが英語の方が幅広いからとのこと。反対に、日本語で聞くと日本語のデータセットを参照して答えを出すそうですから、聞きたいことが日本に関することなら日本語で聞くのが良さそうです。

本人は自信があると言うものの

さて、上記11項目を自信があるとして挙げてきたChatGPTですが、トップのInformation and Researchにおいても、それを本業とする私からするとまだ物足りなさを感じるというのが正直なところです。例えば、「Aの場面で、Bの目的で、Cの人たちに回答してもらうアンケートを作って」とお願いすれば作ってくれますし、特に指示をしなくても5段階評価の回答を用意してくれます。ただ、選択肢に「5. とても良かった、4. 良かった、3. 普通、2. 良くなかった、1. とても良くなかった」などと並べてきてしまいます。実はこれは最近インターネット上でよく目にするパターンで、それ故にChatGPTが参照してしまったと考えられるのですが、私の感覚では「3. 普通」は大変気になります。本来は「3. どちらともいえない」として欲しいところです。概ね良かったが4、概ね良くなかったが2。その間の3は、良いところも良くないところも両方混在していたという評価であるべきだからです。

素晴らしいものを期待していた人が使う「普通」という評価語は、「ダメだった、駄作だった」という意味のはずです。その人には「(とても)良くなかった」を選んでもらいたいのですが、「普通」という選択肢があることで混乱を起こしかねません。

また、聞きたいことが次回に向けて改善すべき項目についてだとすれば、極論するなら、5段階評価は必要ありません。「良かったところはどこですか」「反対に、良くなかったところはどこですか」と、定性情報のみを聞くやり方もあります。しかし、ChatGPTがこの形式の質問案を最初から出してくることはあまりないかもしれません。ChatGPTに限らず生成AIが参照する対象は統計と確率に依存しているからです。追加で詳細の指示を出しつつ、期待に近づけることが必要になります。

統計・確率依存に関して補足すると、質問・指示・命令の度にレスポンスが変わったり、全く同じ質問を同時にしてもAさんとBさんに異なる回答をしたりということがあるのです。間違った答えをした後にこちらが正せば、元データが修正されるというわけでもありません。別の機会に、同じ箇所で、同じ間違えや別の間違えをしてくる可能性があります。それは、ある言葉の後には、この語が続く可能性が高いという統計・確率に沿って文章を生成するのが生成AIで、生成AIは言葉の意味を理解していないからです。このことも理解した上で、ChatGPTを利用することが求められます。

【参照】 第24回「AIの文章は洗練されているが魂を感じさせない」

ChatGPTの有意義な用途は

では、どのような用途・目的、あるいは心構えでChatGPTを使うのがよいでしょうか。再度、先ほどの11項目を眺めます。すると、Assistance, Advice, Recommendationといった単語が並んでいることに気づきます。この辺りが鍵です。ChatGPTのレスポンスはドラフトに過ぎないと見なし、それを懐疑的に精査(Critical Thinking)しながら利用するのが良さそうです。つまり、案・アイデアはもらうが、それを実際に採用するかどうかはこちらが主体的に決めるという姿勢です。ChatGPTの提案の中に気づきを与えてくれるものが含まれていることはよくあります。一人で考える場合に生じるヌケ・モレの防止策として、また何かヒントをもらう方法として、ChatGPTと接するようにしましょう。

利用上のTips

最後に、プロンプト(指示文)を書く際のテクニック・コツについて触れておきましょう。

  1. 役割を規定する
  2. 具体的に指示を出す
  3. 指示に不足がないか、ChatGPTに聞く
  4. 納得するまで、やりとりの往復を継続する

などが考えられます。以下、順に説明します。

  1. 指示文を書き始める際、まず「あなたは新商品にいつも、わかりやすく購買意欲をそそるネーミングを考え付く天才コピーライターです」のように、役割を規定してから入ることが勧められています。これには、ChatGPTの思考範囲を限定する効果があるそうです。
  2. 「うまくまとめてください」などの抽象的な指示より、「小学4年生にもわかるような簡単な言葉で、要点を5つまでに絞って教えてください」のような具体的な書き方が良いとされます。また、「ステップバイステップで考えてください(教えてください)」の指示も、順序立った根拠に基づく説明が期待できるため良いとされています。
  3. 指示を出した後、回答を考えるのに足りない情報がないかを尋ねます。そのリクエストに応じることで、ChatGPTの回答が改善されていきます。
  4. 上記とも関連しますが、出てきた回答を見て「もう少しこうしてください」といった注文を付け改良させていく姿勢が求められます。

なお、「英語で考えてください。回答は日本語でお願いします」という指示文を加えると良いというアドバイスを目にします。ただ、上記「ChatGPTの得意分野」のところで書いたように、参照するデータセットは指示文を何語で書くかに依存する面があるようです。

10歳からわかる「まとめ」

・探究学習を進めるにあたり、生成AIを相談相手とすることを検討してみてもよいだろう

・生成AIの利用にあたっては、自分が書く指示文の内容を学習データとしないよう、オプトアウト申請を予めしておこう

・生成AIの回答は、懐疑的に検討してから利用しよう

・生成AIに持てる力を充分に発揮してもらうには、指示の仕方にいくつか工夫できることがある。工夫しながら指示文を書き、納得いくまで対話を繰り返し続けてみよう

以下、余談です。

Responsibility

ChatGPTはresponsibleです。大抵のリクエストに対してresponse(返答)ができ(able)ます。しかし、そのresponseの利用においてresponsibility(責任)を持つべきは、私たち人間です。ChatGPTの活用は充分にその特性を理解した上で行いたいものです。

ところで、responsibleから来たresponsibilityがなぜ「責任」などという重い意味になったかと言えば、respondがre(し戻す)+spond(約束する)から来ている、すなわち元々は「約束を返す」という意味だからだそうです。

ChatGPTが参照するデータセットの主なものがInternet上の情報だとすると、そこに情報を載せているのは人間です。その情報が間違っていればChatGPTは当然、間違えます。しっぺ返しを喰らわないで済むよう、私たちは自分の言論・投稿に責任を持たなくてはいけません。

第37回「生成AIの回答はエビデンスにならない」を読む