探究発表会で時に残念なこと
高校生の探究発表会で、生徒自身がすっきり納得できていない様子で発表しているのを見るのは残念なものです。もちろん、一番もやもやしているのは本人です。示す根拠を持たず、「これでは説得力に欠ける」と自身でもわかっていながら話しています。「誰か関係者に話を聞かせてもらいましたか」と聞くと「聞きました」と答えます。ということは、話を聞きには行ったけれど肝心なことを質問できていなかったことになります。何を聞いて来なくてはいけないかを事前に計画せぬまま出掛けてしまったのかもしれません。
「中間発表会」と名が付く場でこのようなやり取りが生じるのですが、中間とはいえ、全体スケジュールの中ではほぼ終盤に差し掛かっています。まだ取り組んでいない作業に、このあと一から取り組んでもらうには時間が足りません。
伝えるのは事前?進める中で?
このような場面に出会うたび、プロジェクトの初期段階で、「考えるべきこと」や「プロジェクトマネジメントの概念や手順」を一度しっかり伝えた方が良いのではないかと感じます。「知っておくべき基本となるやり方」「持っておくべき基礎的な情報」などをまったく知らされないまま全て「我流」でプロジェクトを進めさせてよいものかと考えます。
もちろん、個別のプロジェクト進捗に合わせて、生徒各人・各チームに都度つど示唆できる環境(= サポーターの人員的余裕)があるなら、その方が効果的だろうとは感じます。我流でやりながら壁にぶつかった時々に、「この情報が足りないのではないか」や「この方法で考えてみたら」と言われる方が、身に入ってくると思うからです。
現実的な対応方法は
探究の時間に、毎回、先生が個別対応をしたり、対応要員として外部のサポーターを招集したりするのは現実的ではないでしょう。また、極端な場合、それでも一つ二つのチームや個人に細かく対応している間に時間が過ぎてしまうことがあるかもしれません。
そう考えると、半分授業形式ででも要点を伝えるのが現実的な対応だという判断にもなるでしょうか。インタラクティブな授業を意識し、「実践」をなるべく多く取り入れるなら、「探究」にもふさわしいでしょう。もちろん題材が大事になります。皆が共通に関心を持てるテーマで、なおかつ各々の得意分野を活かせるようにケーススタディを集中的に実施し、それを通して必要な考え方を体感・体得してもらうことができれば、より効果的でしょう。
学校ランチの供給体制を見直す
例えば、昨年、公立校の学食がピンチというニュースが流れてきました。運営を担っていた業者が物価高やコロナの影響で経営が成り立たなくなり、撤退を決めたというものです。ある日突然スタッフが来なくなったということで大きな話題になりましたが、きちんと手順に従って、委託業者から正式に撤退を相談されることは今後、他の地域でもあり得るかもしれません。
このような身近な例で、学校食堂の運営の仕組みを考えたり、現在、食堂を持たない学校が食堂を持つことを検討してみたりするには、どこから何から始めたらよいかを考えてみるのは、興味を惹きつけるテーマの一つではないでしょうか。
【参照】 物価高やコロナで業者撤退、公立高の学食ピンチ 読売新聞
ランチを提供する方法
食堂の運営を前提に考え始めるとしますが、ここで、ランチを提供するには他にどんな方法があるかを先に考えておくのもよいかもしれません。お弁当を作る業者さんに毎日発注して届けてもらう方法、お弁当やパンやおにぎり等を販売する業者さんに毎日売りに来てもらう方法など、いくつか思い付くでしょう。各々の比較はどんな点に注目して行うかを考えてもらうと、費用や栄養の面だけでなく、出るプラスチックゴミの量、一人ひとりに食事が行き渡るまでの時間あたりも挙がってくるでしょうか。各人が売店まで買いに行っていると、皆揃ってから食べるのが難しいことが気になり出すかもしれません。
最後は、食堂運営とそれ以外との比較をして、食堂運営の良い点・悪い点を考えます。
食堂運営は一から考えてみる
せっかくなので、食堂運営の場合は、食堂を建てるところから考えてみる想定で進めることにします。すると、食堂を建てる場所、食堂に必要な席数から逆算した必要な広さ、食堂に併設すべき設備、効率的な設備のレイアウトや内装、外装のデザイン等、より多くのことを考えなくてはならなくなります。
プロジェクトの流れ
一般のプロジェクトマネジメントの手順に沿って考えてみましょう。最初は、「プロジェクトの定義とスコープの設定」になるでしょう。定義に関しては、生徒達に、理想とする食堂像を考えてもらいます。例えば、「生徒に安全で栄養価の高い食事を安く遅滞なく提供する食堂」といった具合です。また、いつまでに食堂を完成させるかというタイムフレーム上の目標の設定も行います。スコープの設定は、検討・決定しなければならないことの列挙です。設備のこと、メニューのこと、運営方法のこと、という具合です。
次は、「ステークホルダーの特定とその参加促進」でしょうか。このプロジェクトを進めるにあたり「関係者」と呼ぶべき人(例: 生徒、教員、校長、OB会、地域の人々等)にはどのような人がいて、プロジェクトを成功に導くために、彼らの意見を聞く、支持・協力を得るなどのことをどのように進めるべきかについて考えておく必要があります。
さて、このあたりで、すべての過程をクラス全員が同じように取り組むのか、各生徒にそれぞれ得意な役割を担ってもらうかの検討が必要になるでしょう。役割別にタスクを割り振るなら、「プロジェクトチームの編成」が必要になります。役割は、先のスコープに則って、プロジェクト全体の進行管理チーム、設計・建設チーム、財務管理チーム、食材調達・メニューチーム、運営・人員管理チーム、マーケティング・広報チーム、品質管理・安全チーム、カスタマーサービスチーム、規制・法律対応チーム、環境対応・持続可能性チーム、ITチームといったあたりが考えられるでしょう。状況や必要に応じて、チームを更に分ける、合わせる等のこともありえます。
次は、「チーム別計画策定」になり、各チームで必要な時間と予算を含む計画を作成します。時間について、完成目標日に間に合うよう全体スケジュールに各チームの動きを当てはめ、予算については、財務管理チームが資金調達(と返済)の計画を作成します。初期投資の他、運営コストや収益を予想して、資金調達の方法を、借入れ、寄付、投資、スポンサーシップなど様々に検討する必要があります。建物の建設など明らかに外注を必要とする部分については、予算に合う発注先の選定に入ります。運営・人員管理チームは、日々の運営を念頭に必要な人員の職種と数を特定し、採用計画や教育計画を練り上げます。食材調達・メニューチームは、日々の利用者数の計画に沿って、メニュー開発から遡って食材調達のサプライチェーンまでを計画します。マーケティング・広報チームは、利用者数を最大に保つための宣伝方法や認知度向上戦略を練り上げます。品質管理・安全チームは、食品の安全基準と衛生管理を考え、客へのサービス品質維持についても考えます。各チームが担当する分野は完全に独立しているわけではありません。例えば、品質管理・安全チームは、食材調達・メニューチームとも、運営・人員管理チームとも密に連携する必要があります。規制・法律対応チームは、各チームが規制等に対応できているようしっかり監視しなくてはなりません。ITチームには、省力化や効率化などの面で全体を把握しながら抜け漏れのない提案が求められます。さっと思い付くだけでも、オンライン予約・注文、POS、デジタルメニュー、在庫管理、顧客管理、広報でのSNSの活用、アンケートによるフィードバックやレビュー、エネルギー設備管理など様々な面で関連しそうです。
財務管理は事業計画の基本
事業計画における重要な要素である財務管理については、必須基礎として、専門チームだけでなく全員がしっかり学ぶのもいいかもしれません。基本的な財務の知識や用語、資金調達計画、予算作成、収益モデルの構築、コスト管理、経営シミュレーションといったあたりです。この考え方が身に付いていると、後に自身の課題に取り組む際の質が格段に上がってくると思われます。
ふたつのPBLで進める探究
以上、探究の進め方として、1. まず1学期の初めなどに身近な例によるProject-based Learningでプロジェクトマネジメントについて体得を目指して体感・体験する。2. その後に、自身が発見した世の中の課題に対するProblem-based Learningに進む。この順序での取り組みは、効率面でも効果面でも望ましいのではないかと思われます。
10歳からわかる「まとめ」
・探究は主体的な学びだが、生徒に全てを我流でやらせることではないだろう
・個別に都度つど、こと細かな示唆を提供することが物理的に難しいなら、「授業形式」での伝授も考える必要があろう
・その際の進め方は、インタラクティブでアクティブな実践形式を取ることと、題材には生徒にとって興味深いものを選ぶことが大切
・プロジェクトマネジメントを事前に体感・体験しておくと、その後に自身が見つけた課題に対しての探究を進める際、進め方がわかり、探究の質が格段に向上するだろう
以下、余談です。
すべてはつながっている
すべての現象は、そのどこか前の段階に何らかの原因を持つものではないでしょうか。関連していそうなものを見つけることも探究の大きな目的であると思います。その意味で、原因(= 計画)から結果につながるという逆の順序にはなるものの、計画を立てる際に考慮すべき要素にはどんな項目があるのか、それぞれをどう計画し、お互いの関連や影響し合う様をどう予想するか、などを事前に経験することは、「探究」の充実にとって、とても大切であると感じます。
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。