急がれる探究型組織への改変

探究型新人が入社してくる

中学・高校で「探究」が定着しつつある今、組織には「主体的・対話的で深い学び」を経た「探究型新人」の受け入れ準備が急務です。準備が整っている組織には次々と「探究心に駆られた職業人」(inquiry-driven professionals)が集まり、整っていない組織は人材採用に困ることになります。探究型新人は、「学校探究」の中で自分探究をし自分との付き合い方が分かりかけています。職業観が自分と合わない職場に我慢して就職することはなく、合うところが見つからないなら自分で起業・創業しようとします。新人の加入は組織の新陳代謝の活性に欠かすことができないイベントです。生き残るために変わらねばならない企業も出てくることでしょう。

求められる企業文化

下記を奨励促進する文化を既に持つ企業なら大きな心配は必要ありません。

  1. クリティカル・シンキング(懐疑的思考): 仕事の上で込み入った状況に遭遇することは頻繁にあります。そんな時には、思い込みを排除し、視野を広げて考えることが問題解決に役立ちます。
  2. コミュニケーション: 問題に取り組むには同僚や仲間との協力が必要です。縦横斜めのコミュニケーションを重視し、コミュニケーションスキルの向上を支援する姿勢が企業に求められます。
  3. 主体的・積極的関与: 人は、自ら主体的に関与する中でよく学びます。経験を積みながらより良い方法を見つけることが求められる仕事上の学びには、積極的関与の姿勢が必須です。そのお手本となる先輩が多い職場は好まれます。
  4. 個別最適の学び: 職種により学びのニーズは異なります。やり方や内容など、個別最適な形で学びの機会を提供されていることが重要です。
  5. 生涯教育: 職業人には自身の知識や技術の継続的な更新・アップデートが求められます。学びへの意欲と好奇心を刺激し続けることが大切です。

上記の姿勢は、すべて「学校探究」の過程で大切にされていることばかりです。

「探究」の企業文化への導入

探究文化を今後、組織へスムーズに導入していくことを狙うなら、新人と先輩が合同チームを組み、業務「探究」プロジェクトを何か考え、組織全体でそれらに取り組むやり方が実践的かつ効果的です。この進め方がもたらす効用には次のことが考えられます。

  1. 知識・経験・才能の共有促進: 新人と先輩が、業務経験だけによらず、各々独自の視点や趣味・得意分野でも何らかの貢献ができるという、新たな協力のあり方や、学び合い・伝え合いの意識が組織内に生まれます。
  2. 共創の増進: 「探究」プロジェクトに真剣に取り組めば取り組むほど共創の度合いが深まります。共通の目的に向かいつつも視点が異なる場合に、その理由・根拠に立ち返って違いを探るなど、チームとしての課題解決力が高まります。
  3. オープンな風土の浸透: 「探究」の進め方に従えば、疑問や好奇心を抱くことに、より高い価値が置かれることに皆が気付きます。アイデアを出したり疑問を投じたりすることが自然に感じられる職場環境が生まれます。
  4. 適応力・応用力の拡大: 仕事の局面では、チームは常に新たなチャレンジに遭遇します。「探究」の進め方に準じて質問したり異なる解決策を探ったりすることに慣れ、チームには柔軟に適応・応用を行う力が身に付いていきます。
  5. チーム活力の強化: 「探究」の進め方に応じて協業することで、チームには、より強固な関係が構築されていきます。相乗効果を得たエネルギーが、仕事に対する満足度ならびにチームパフォーマンスの向上にも活きてくるようになります。

SMARTを意識したテーマ設定

中学・高校の探究で最初にぶつかる問題はテーマ設定です。興味を感じるテーマや課題を見つけられない生徒が多くいます。彼らは、ほとんど生まれて初めて意識的に社会に目を向けようという段階ですから、無理もありません。一方、業務上であれば、日頃、課題が全くないという状況の方が珍しいでしょう。チームで取り組むのに相応しいものを選びさえすれば、プロジェクトをすぐに開始できます。

テーマを選定する際に役に立つのが目標設定におけるSMARTの考え方です。プロジェクト案が複数挙がった場合、SMARTに該当するものが、取り組むのに相応しいテーマ候補として検討俎上に残ります。

  1. Specific (具体的): 目標や課題は明確かつ具体的である必要があります。何を達成したいのか、どのように達成するのかを明確にします。
  2. Measurable (測定可能): プロジェクトの達成度合いを数値や具体的な指標で測定できるようにします。これにより、進捗を追跡しやすくなります。
  3. Achievable (達成可能): プロジェクトの難度は達成可能でなければなりません。高すぎれば現実的ではなく、低すぎればモチベーションを下げる可能性があります。
  4. Related/Relevant (組織目標等との関連性): 課題は組織の全体目標や各人のキャリア目標と関連している必要があります。関連性が高いほど、関係者のコミットメントが得られます。
  5. Time-bound (時間的制約、期限): 達成までの期限を明確に設定します。期限があることで、計画的に取り組み、適切なペースで進めることができます。

外部のサポート

プロジェクトの推進にあたり必要となる外部からのサポートは、このSMART設定時における事柄が大半を占めます。途中では、「定期的なモチベーションチェック」と、行き詰まった際の求めに応じた、「不定期での第三者視点の提示、ディスカッション」が多少入る程度でしょう。いたって自主的な「研修」になります。強制的にやらされるのではない感覚を楽しみながら、業務に即効性をもたらすものとして取り組む姿勢が求められます。

10歳からわかる「まとめ」

・企業には、探究型新人を迎える準備が求められている

・生徒が探究を通して身に付けたやり方が、既に企業文化として取り入れられているところであれば、新たな準備は特に必要としない

探究文化を更に根付かせるには、先輩社員と新人が共同で取り組むプロジェクトを常に動かしておくと良い

・プロジェクトのスタートにあたって、SMARTに即した課題や目標の設定がなされていると、その後、うまく進行しやすい

以下、余談です。

TQC

高度経済成長時代の日本で積極導入された品質管理手法にTQC(Total Quality Control)活動がありました。その後、技術の進化や経済のグローバル化、また迅速な市場対応やイノベーション重視といった経営環境の変化の影響もあり、品質管理手法にも柔軟さや迅速さが求められるようになります。組織や産業のニーズを捉えた「進化形」として、リーン生産、シックスシグマ、ISO9001など、新たな品質管理手法が台頭しました。その中で、元祖TQCの中核思想は「全員参加型」にあったといえるでしょう。探究もまさに全員参加型で取り組み、企業文化にすべきものだと感じます。その企業が、共同体ならぬ、異なる個性の集まりである「共異体」であれば、更に探究が力を発揮しそうです。

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