探究インタビュー

調べ学習での取材

探究活動の中でインタビューをする場面はいくつもあると思います。まず、調べ学習の段階です。自分たちが取り組むテーマについて本やインターネットで調べている過程で、よくわからないことが出てきた時、誰かから助言をもらいたい、詳しく教えてもらいたいと思うはずです。地域の探究をしているのであれば地元の役所の担当の方に話を聞きに行くでしょうか。観光についてであれば観光課のような部署がきっとあるでしょう。そこで、話を聞いたり、質問・相談したり、パンフレットをもらったりなどして、それらの各種情報を、自分たちは具体的にどんな探究テーマに取り組むか、どう取り組むかについて熟慮するための参考資料とするはずです。

取材のまとめで探究は終わらない

念のため、ここで一つ強調しておきますが、取材に出かけて話を聞き、それをまとめただけで探究をしたつもりになってはいけません。むしろ、探究はここから始まります。言い換えれば、「地元の観光について」程度の粒度の粗いテーマ名は探究テーマとして相応しくありません。先ほどの取材で現状の理解まではできたでしょう。あるいは、将来に向けて自治体主導の計画が何かあるというところまでもわかったかもしれません。 高校生の探究活動では、そのような前提となる現状と、現状が抱える問題を正しく理解した上で、その問題を解消するためにクリアすべき課題を設定し、その課題を解決することで問題を片付けようと取り組みます。つまり、解決案を考え、その解決案の有効性を高めるために改良し続けることが探究で実施することです。テーマ名でいうなら、「地元の観光業を盛り上げるための施策自案Aの有効性について」というあたりまでは、突っ込んで取り組みたいところです。

検証のためのインタビュー

そのためには、自分たちが提案したい「施策自案A」のドラフトをまず考え出さなくてはなりません。最初はいわゆる「素人アイデア」で構いません。とにかく、問題に対する自分たちの理解に基づいて、自分たちの頭で考え付く解決案を何か捻り出します。その捻り出した解決案を、最終的には、どの角度から見ても「ヌケやオチ」が無いように洗練させていく過程が探究だと捉えましょう。インタビューは、自分たちの解決案を、様々な角度から検証するために行うものとなります。

インタビューの設計

インタビューの設計にあたっては、まず、5W1Hを念頭に置きます。Whatは何を・何についてインタビューするかということですが、これは、自分たちの解決案についてですから明白です。Whyのインタビューの理由・目的は、解決案をより有効なものとするよう改良するために、となるでしょう。When/Where/Howの、いつどこでどのようにはインタビューのやり方に関連してきます。最後に残ったWhoがこの段階では最も大切な検討事項になります。ただし、このWhoはWhomの誰を・誰に、と考えるのが自然です。インタビューするのが誰かといえば、この場合は自分たちになるのは当然だからです。インタビューに際して、聞き方に過度に慎重になったり神経を使ったりする人を多く見かけますが、これまでの経験に基づく私の感覚では、それよりも、誰に聞くか、聞く相手として相応しい人に聞けるかどうかの方が大切です。いくら「上手に」聞いても、聞く相手を間違えていたら期待する内容の答えを得ることはできないからです。

誰に聞くかについての検討は、じっくり行います。関係する立場の人を幅広く意識する必要があるからです。今回の場合は、施策自案を評価してもらうことがインタビューの目的ですから、評価者として相応しい人を順にリストアップしていくことが大切です。何かイベントを行うことを考えていて、そこに県外からの観光客を数多く呼びたいのであれば、観光客になりそうな人に興味を持つかを評価してもらうのは当然でしょう。幅広い年齢層の観光客に楽しんでもらうことを考えているなら、中高生以上の大人の男女には直接聞き、小学生や幼稚園生など小さい子の意見は両親や祖父母に代弁してもらう形で聞くことも必要でしょう。また、日本人に限らず、外国人旅行者にも来てもらいたいなら、外国人にも評価してもらいましょう。もちろん、県内からの観光客・来訪者の反応も取るべきです。

他にはどんな関係者が考えられるでしょうか。例えば、その場所までの顧客輸送を担うことになる交通機関や、会場周辺に暮らす人々の反応なども大切でしょう。彼らの賛同や協力がなければイベントの大成功は見込めません。また、イベントをさらに盛り上げるため、他者にも出展参加を呼びかけたいのであれば、その人たちからの意見収集も必須になります。

おそらく、計画案の詳細が進むにつれて、「この人たちにも協力してもらいたい」と思う人たちがあとからも出てくるでしょう。その場合は、すぐに行動に移すべきです。時には、「この人たちの意見を聞くのが先だったな」と反省する場面もあるかもしれません。なるべくなら順序は間違えないで慎重に進めたいものです。動き始める前の段階でじっくり検討したいことには、そのあたりも含みます。

いつ・どこで、の決め方

インタビューで誰に聞きたいかが決まれば、いつ・どこで聞けばよいかの検討に入ることができます。外国人も含めた県外からの観光客から話を聞きたいのであれば、そのような人たちが集まりそうな場所を考えます。例えば、週末の県内主要駅には該当しそうな観光客が訪れているのを普段目にしていたなら、そこをインタビュー候補地として検討してみましょう。そう考えながら彼らの様子をもう少しよく観察すると、移動の最中は慌ただしく行動していて、ゆっくり話を聞くのはとても無理そうだと気づくかもしれません。その場合は、別の機会を候補として考えることにします。例えば、その日の観光が終わり宿泊先に戻ってからなら落ち着いて話を聞いてもらえるタイミングもあるでしょうか。あるいは、旅行中の直接対面インタビューが無理なら、アンケートへの回答という形で協力してもらう方法もあるかもしれません。退屈な移動中は、案外、回答率が高いのですが、もちろんこの場合は、ツアーを運営する旅行会社の協力が必要です。自分たちが将来企画するイベントにもその旅行会社が関わってくれそうなら、そのような相談を事前にしてみるのもよいでしょう。

実はこのあたりが、先ほどの「この人たちの意見を聞くのが先だったな」に関連してくるところでもあります。

どのように、が大切なワケ

どのように聞くかで最も大切なのは、相手の意見を聞くには、まず、こちらのやりたいことを正確に相手に伝えなくてはいけないことを充分意識することです。相手の理解が生半可な状態で意見を聞いても無意味です。まずは、自分たちのイベント計画を、文字や絵で正しく伝わるように具体化することに注力しましょう。また、前項とも関連しますが、相手があまり乗り気でない状況で協力を依頼しても参考とすべき有益な答えは返ってきません。相手が真剣に答えたいと思うかどうかにも留意しながら、尋ね方を注意深く練っていきます。

アンケートとインタビューの違いは、インタビューの場合は相手の反応を見ながら聞きたいことをその場で追加して聞けることです。もし、ある日の観光旅行の後でインタビューするなら、その日体験した良いこと・悪いことも思い出してもらいながら質問することができるため、自分たちの案の価値について、さらに具体的に話が聞けるはずです。

10歳からわかる「まとめ」

・探究には、現状の問題を理解した後、自分たちが考える解決案が本当に役立つかを検証することを目的に行うものもある

・自分たちの案の実現に向けて関係しそうな人たちを様々にリストアップし、その人たちへのインタビューを、案の実現性を検証し、実現性を高めることを考えながら進めていく

・インタビューは、5W1Hを念頭に設計していく

以下、余談です。

5W1Hと、その変化形

5W1Hを、今回はインタビューの設計で使用しましたが、これは、探究プロジェクトそのものの質を高めるためにももちろん活用できます。5WはWhom(誰を、誰に)を入れると6Wになります。また、案の実現が自分たちだけでは難しいとなれば協力者を意識します。その「誰と」一緒に進めるかを考えに入れるなら7Wになります。Hについては、How(どのように)に加えて、How much(いくらかかるかの費用面)を意識する必要もあるため2Hとなります。Iは、If(もし)を考えることを指し、もし誰もやらなかったら、もし自分がやるなら、と構想を練るのに使います。

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