問題・課題の捉え方

問題と課題の違い

探究にはProblem-based Learningの側面がありますが、その訳語に、問題解決型学習とも課題解決型学習とも充てられているのをよく目にします。問題と課題は、区別をあまり意識せずに使われる言葉なのかもしれません。ここでは、問題と課題の違いを次のように説明することにします。問題は、現状と「あるべき(理想の)姿」のGAPのことを指し、課題は、そのGAPを埋めるためにやらなくてはならないことを指します。何々しなければならないという言葉に当てはめた時にしっくりくることが課題だと理解して差し支えありません。例えば、少子高齢化は(社会)問題であって課題ではありません。その解決策の一つとなりえる「出生率の向上」は「(向上)させなくてはならない」ものなので、どうやって向上させるかを課題として考えることになります。

ところで、少子高齢化に関することであっても、出生率を向上させたところで解決にはならない問題もあります。少子高齢化の進行が止まらないため「十年後には労働力人口が何万人不足する」という問題に対しては、今年以降に生まれる新生児が十年後に15歳になることはありえません。これから出生率を向上させようという取り組みは、この場合の十年後の問題に対する解決策にはならないため、課題に掲げることはできません。

これは課題を考える際に留意すべきことを示す一例です。タイミングよく間に合わせることができるかの他にも、場所の考慮、相手の考慮、等々が必要になる時もあるでしょう。このような場面でも、5W1Hに目を向けることを忘れないようにしたいものです。

問題への思い込みの排除

また、問題を捉える時に、客観的な事実に基づかず、勝手な思い込みや不正確な情報に惑わされて、本来問題ではない対象を問題と考えてしまうようなこともよく起こります。問題に対する理解や分析がそもそも間違っているなら、正しい課題設定はできません。

少し先の将来を予想してみる

このような時に役立つのが、将来において問題になりそうなことを想像してみるやり方です。例えば、2030年あたりを念頭に置いてみます。今から五、六年先にあたりますが、その時代の問題を予想しようとする際、いきなり考えてもうまく出てこないでしょう。まずは、条件の変化などから順番に考えてみようとするのではないでしょうか。その時、今とは何が変わっているでしょうか。ビジネスであれば、顧客の生活はどう変化しているかを想像するでしょう。個人顧客と法人顧客がいるなら、分けて想像してみてください。一般の消費者の暮らしや習慣はどう変化しているでしょうか。現金はもうほとんど使われなくなっているでしょうか。その代わりによく使われるのは相変わらずスマホでしょうか。スマホの代わりに、何か別のものが使われ始めているでしょうか。そう思う根拠はなんでしょうか。法人の顧客の場合はどうでしょうか。数年後も、業態は変わっていないでしょうか。業務内容は同じでしょうか。新たな分野に進出していないでしょうか。それらに関する予兆がどこかに見え隠れしていないでしょうか。あなたの職場のメンバーに変化はないでしょうか。あなたが取引しているビジネスパートナーはどうでしょうか。あなたの会社の競合企業はどうでしょうか。また、法律や制度が変わっていないでしょうか。学校においては、教わることが変化していないでしょうか。そうすると、どんな新人が入社してきそうでしょうか。技術革新はどうでしょうか。それまでに実現が予想される開発案件にはどのようなものがあるでしょう。それが実現すると、ビジネスのあり方が根本的に変わってしまうことはないでしょうか。

このように何かが変わると、今までの「問題」が一気に解消したり、反対に、それに伴って新たに生じる問題が出てきたり、ということがあるでしょう。そうすると、それに伴い「やらなくてはならない」こと、つまり「課題」も変わってきます。

分解が役に立つ

わからないことについて考えようとすると、このような分解の手法を使って少しでも正解に近づけようとする私たちですが、現状について考える際には、勢い「わかっている」気になり、このように丁寧で正確を期すような手法を取らずに省略してしまいがちです。本来のやるべき手順に気付いたなら、現状の問題を見つめる際にも、同様のアプローチで行ってみましょう。最後に顧客と直接話をしたのはいつだったでしょう。あなたが持っている顧客情報は最新でしょうか。顧客企業は、最近、何か新しい分野に進出しようとしていたりはしませんか。このようなことが気になり始めたら、早速、持っている情報のアップデート作業に取り掛かりましょう。

探究が目指すもの

文部科学省が現在の学習指導要領で育成を目指しているのは、「実際の社会や生活で生きて働く、知識及び技能」「学んだことを人生や社会に活かそうとする、学びに向かう力、人間性など」「未知の状況にも対応できる、思考力、判断力、表現力など」という、3つの資質・能力です。将来予測を否定しているわけではもちろんありませんが、予測がなかなか難しくなってきているのが現代社会ともいえるでしょう。最近では、新型コロナによるパンデミックや生成AIの急速な発展などという、ほとんど誰も事前に予想できなかったようなことが実際に、突然、目の前で起こりました。

それを見越して、上記3つ目の「未知の状況にも対応できる」が加わっているのだろうと想像します。予見が困難なら、起こっても動じず、すぐ対処の手を打てるよう心の準備をしておくこと、対処法の発見につながる「やり方」を身につけておくことが、ますます大切になってきます。

10歳からわかる「まとめ」

・問題と課題は別のもの。問題とは、現状と「あるべき(理想の)姿」のGAPのこと。課題とは、そのGAPを埋めるためにやらなくてはならないことを指す。

・問題や課題について考える際にも、5W1Hによる整理は役に立つ

・特に現状について考える際、わかっている気になって、乱暴な整理をしがち。問題につながる要素を丁寧に分解しながら、一つひとつ見ていこうとする態度が必要

・予測は大切だが、仮に予定外のことが起こっても、動じず、すぐ対処の手を打てるよう心の準備をしておくこと、対処法の発見につながる「やり方」を身につけておくことが重要

第56回「『総探』と『教科探究』」を読む