言葉を磨く

留学生との会話

今、ウチにはアメリカからの留学生がいます。長年、母校の大学に留学してくる学生を預かるホストファミリーとして登録しており、最初の学生がやってきたのは1996年のことでした。もう30年近く前です。それから、一年間(正確には夏休み後から次年度の夏休み前までの9月から6月の10ヶ月)のプログラムでの来日者を四名、ショートプログラム生を三名、計七人を休み休み受け入れてきました。今回、我が家は約15年ぶりの一時再開で、八人目の学生となる、7月まで四ヶ月間のショートプログラム生と現在一緒に暮らしています。

留学生は日本の言葉や文化や習慣等を学ぶために来日し、その中でもわざわざホストファミリーと暮らすという選択をしていますから、家での会話は日本語です。一緒に食事をしながら日々の出来事などについて彼が日本語で話すのを聞き、こちらはそれに対して質問をしたり、日本語の別の言い回しを伝えたりといったことを行なっています。先日も「子どもの頃からの友達」のことを話してくれたので、「幼なじみ」という言い方を伝えました。

アウトプットへのコメント

こちらから、あたかも授業形式で「今日は、幼なじみという言葉について勉強します。この言葉は」というような説明をしかけるより、先の例のような形で伝える方が、おそらく、当人にとっての新しい言葉も記憶に残りやすいはずです。

「探究対話」もこのように進められるのが理想でしょう。こちらが先回りをし過ぎずに、基本姿勢としては「受け止める側に立って」「自分は助け舟を出す立場なのだという意識のもとに」対話をします。関連のネタがあればそれを繰り出すもよし、それがなければ質問を投げかけながら、子ども達の頭の中の整理を手伝います。

質疑応答が苦手なのは

質問の投げかけという点では、多くの子ども達は、どちらかというと自分の発表の後の質疑応答の時間に対して苦手意識を持っているように見えます。その理由は、「その質問をしてもらえて助かった」という経験が少な過ぎるからではないかと想像します。

ビジネスの場であれば、プロジェクトの失敗を避けたいという真剣さ故に、厳しい質問を投げかけざるを得ない場合もあるでしょう。傍目には、それは一方が他方を「やり込めて」いるようにも見えます。ただし、質問される側の準備が不充分であれば、やり込められても仕方がありません。プロジェクトが失敗すれば、会社や、同じ目標に向かって鋭意努力しているその場の皆に、損害を与えることになるからです。

しかし、学校教育の場では、まずは、やり込める必要はない、むしろ、やり込めてはいけないということを伝えたいものです。先の「助け舟を出す立場」になるのは、大人だけでなくクラスメートの自分達もだという意識を持たせて欲しいと思います。答える側にとって役に立つ質問は、質問をする側にとっても、後の自分の発表の土台作りを考える際に役立ち、文字通り「建設的」なものになるからです。

お助け質問上手

そのような「お助け質問」の習慣を身に付けるには、質問と同時に、その質問をする・したい理由を質問者が述べることを原則とするのが良いでしょう。「今の発表では、この点についてはっきりしないところがありました。大切なところだと思うので確認の意味で質問します。説明したかったのは、こういうことで合っていますか」のように話を展開します。そうすると、聞かれた側も素直に、「なるほど。自分の説明は確かにわかりづらかったな。言い換えてみよう」という気持ちになれるはずです。あるいは、「確かに、その考えは面白いな。その線でもう一度考え直してみよう」というように頭が整理されるかもしれません。

とにかく、質問は、聞いていた人が積極的に参加して、皆で発表者の発表をより良いものに仕上げるために行うものだという位置付けに意識を変えていきたいものです。そうすれば、クラス全体の盛り上がりに違いが出るはずですし、質問される側には、質問が楽しみという気持ちが生まれるはずです。

留学生と小学生の違い

ウチに来る留学生は通常、満21歳の年齢でやってきます。既に成人です。したがって、母国語を駆使して考えることができます。日本語でやり取りをしていておかしな回答だなぁと感じることがあっても、それは言葉の問題(language issue)から来ていることは明らかです。日本語での説明に苦労して、降参すると、「じゃあ英語で」となる学生も何人かいましたが、英語での話は理路整然としている場合がほとんどでした。留学生ほどの年齢になれば、しっかり考えるのに必要な母語はほぼ習得できているといえます。

一方、小中学生の場合は、話す内容によっては、日本語を駆使する能力がまだまだ不十分といえる場合も多いでしょう。まだまだ、覚えなくてはならない言葉、使いこなせるようにならなくてはならない言い回しを増やしている途上にあるのです。人間は、言葉を駆使して自分の考えをまとめていきます。言葉を増やしていくこと、磨いていくことはとても大切なことです。

ちなみに、何人かの元留学生は、自身の子ども達を連れて日本に遊びに帰って来たことがありますが、最初に預かった元学生の8歳の少女の話す英語は私にはとても理解が難しいものでした。しかし、父親も「私もよくわからない」と言っていたので、話されていた英語そのものに不完全なところがあったのだと思います。子ども達が話す言葉が不完全なのは致し方ありませんが、それを放っておくのはよくありません。なんとなく言いたいことがわかったとしても、丁寧に聞き返し、必要な場合はもっと伝わりやすい言葉に言い換えることを勧め、次には自分一人でも、よりわかりやすく伝えられるようになるよう、大人は子どもを補助していかなくてはなりません。どんなに面倒でも、それを繰り返すことでしか子ども達を「考え上手、説明上手」にしていくことは難しいのではないかと思います。

10歳からわかる「まとめ」

・先回りして教えてしまうより、子ども達が自分からアプトプットしたことに対して、後からコメントする方が、子ども達にはその情報が定着しやすいだろう

・子ども達には、質問されることが楽しみになるようになってもらいたい

・そのためには、普段から、子ども達同士で「お助け質問」を出し合う関係になっていて欲しい。個人個人のプロジェクトをクラスのみんなでより良くしていくために、頭の整理を手伝うための質問を出し合うような関係が理想

・その過程を通して、考えるのに必要な言葉をお互いにどんどんと磨いていって欲しい

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