「よく伝わる」を目標に

授業計画での目標

総合の授業計画づくりにおいて、何/どこを、目標/ゴールにすればよいかを迷うという声を教師の皆さんから聞くことがあります。他の教科であれば「何々を理解する」「何々を完成させる」「何々がひとりで出来るようになる」などを目標にできるところ、総合では、生徒の自主性に任せて進めたいと考えるため、思った通りの方向に進んでいかない、最後にどこに到達するかが予め読めない、ということがあるからでしょう。とはいえ、思わぬ方向に進んでも、その過程ではそれぞれに学びがあることも事実です。

総合においては、児童全員に何か同じ形のものを作成させるというゴールを設定することは難しそうです。少なくとも、その「もの」はハードではないといえそうです。また、最終形よりプロセスの方が大切です。一人ひとりが学習の過程で感じたことなどのような、ソフトの部分にこそ、価値を置くことになります。

経緯をまとめる

そうすると、各回に実施したことや、その振り返りをしっかり記録に残しておくことが重要になります。振り返りについては、振り返るたびに思うことが進化することもあるでしょう。したがって、記録はいつでも見返すことができるようにしておくのが良さそうです。そこに、新たな気付きを都度、書き足していくようにしましょう。

「(前回からの続きで)今日やろうとしたこと」「なぜそれを次にやろうとしたか」「実際に、思った通りにそれができたかできなかったか」「うまくいった/いかなかった原因はどこにあったと思うか」「やってみて感じたこと、この次はこれを試してみたいと考えていること」などに触れながらメモを取ります。

振り返りは「一人で」「何人かで」

振り返りの基本は、まずは個人個人で行うことです。誰にも邪魔されずに落ち着いてじっくりやってみたい気持ちを大切にします。しかし、自分ではなかなか気付きづらいこともあります。知らず知らずのうちに見方がある特定の方向からに限られてしまいがちだからです。そんな時、自分以外の人からのインプットは有難いものです。他人の話は聞きたくないという人も、この機会そのものを閉じてしまってはいけません。その意見を聞き入れるかどうかは聞いてから決めればよいことです。どんな話かわからないうちに頭から拒絶しようとするのは得策ではありません。

ところで、もし、いつも自分が聞きたくない話をされるので他人の話は聞きたくないのだという人がいるなら、一度、自分の話や意図が相手にきちんと伝わっているだろうかということを考えてみてください。理解不足があったり勘違いがあったりするために相手が批判的なことを話してくるのだとすると、聞きたくない話を聞かなくてはいけない原因は、自分自身の伝え方にあるのかもしれないからです。

伝わるように伝える

そのようなことばかりではないでしょうが、「よく伝わる」ように伝えることは非常に大切です。

それが情報かどうかを決めるのは、その情報の受け取り手であるということを私はよく口にします。それと同じで、伝わったかどうかを判断するのも受け取り手の側なのです。伝えるのは自分ですが、自分が伝えたと思っていても相手に伝わっていなければ伝えたことにはなりません。伝えたい内容自体は変わらなくても、相手が十人いれば十通りの伝え方があるというくらいの覚悟で、目の前のその相手にはどう話せば、あるいはどう示せば、最もよく伝わるかを考えながら伝え方のアレンジを繰り返してみることが大切です。

慣れてくれば、その日の聴衆の様子を、話の冒頭・導入の部分で探っていく中で、その後の核心部分の伝え方を途中で決めるなどのことができるようになるでしょう。しかし、小学生にそれをやれというのは酷です。小学生の場合は、まずは、自分で一番わかりやすいと感じている伝え方で一度やってみて、「伝わりましたか?」と必ず聞くことを習慣にすることを勧めます。「少しわかりづらいところがありました」といわれたら、それがどの部分だったかを確認し、そのパートの説明を別の伝え方でもう一度やってみます。その際には、伝える相手が定まっていますから、双方向で一つずつ確認しながらやってみて構いません。最後までいければ、その人についての説明は完了です。伝わったと考えます。他にも別の部分が「よくわからなかった」という人がいれば、その人とも同じようにやってみます。その間、他のクラスメートは、助け舟係になります。発表者と一緒に、より伝わりやすい伝え方を考え、発表者の説明を補助します。

発表者は、一段落がついたところで、この発表についてもしっかりと振り返りを行います。最初の自分の発表原稿ではうまく伝わらなかったところについて、上記のやり取りを通して整理をします。何がうまく伝わらなかったか、どこにその原因があったか、どうすれば伝わりやすくなるか、もしタイプ分けが可能なら、「こういう人には、もっとこう伝えた方がわかりやすそうだ」などの発見もノートに記しておきます。

完成したかしないかは気にしない

プロジェクトが完成していないと発表に気が乗らないかもしれません。しかし、ここでは、それは問いません。今できているところまで、どのように進めてきたかに絞って発表するものとします。目標は、どのような思い・期待・予想をもって、具体的にどういうやり方をとって進めてきたか、行き詰まった時にどう解決を図って前に進んだか、今もなお悩んでいることにはどんなことがあるか、などが他の人にしっかりと伝われば充分だと考えます。

あくまで目標は「よく伝わる」ことに置いて、総合や探究の学習を進めていきます。実は、それをしようとすると、「よくわかってもらうためには、これは実際にやってみて確認しておかないとダメだな」という事柄が出てきて、活動自体の充実にも繋がります。

10歳からわかる「まとめ」

・小学校における授業計画づくりは、実際はどう進んでいくか先が読めないために困難を感じる教師が多いようだ

・総合の目標を、内容や結果に焦点を絞って考えるのではなく、どう進んだか、その中で自身は何を感じどんなことを学んだかなどの経緯・変容を、他の人にも伝わるようにしっかり伝えることに置いてはどうか

・手順として、まずは、自身の経緯・変容を自分で納得・消化できるように毎回の振り返りをしっかり行う

・次に、それぞれの相手にしっかり伝わるよう伝え方を工夫する。

・正しく伝えることは難しく、相手全員に同じように伝わるような一つの伝え方は存在しないと思った方がよい。一人ひとりに応じて少しずつアレンジを変える中で、より多くの人に一度に伝わりやすそうな伝え方を身に付けていこう

・相手に「よく伝わる」を、総合や探究学習の目標に置いて進めよう

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