探究の過程

生徒の学習の姿と探究の過程

平成30年告示の高等学校学習指導要領の解説には、「探究における生徒の学習の姿」として、あの有名な螺旋図が掲載されています。

そこには、経由すべき探究の過程として、①課題の設定、②情報の収集、③整理・分析、④まとめ・表現、の順が示されています。しかし、実際にこの通りにうまくいくことはあまりないと感じている生徒や教師は多いかもしれません。おそらく、最初の、①課題の設定で躓くことが多いのではないでしょうか。

ただし、これらが一つの回転の中に組み込まれているということは、螺旋が次の回転に進むごとに①②③④を繰り返し、繰り返すたびにそれぞれの質が徐々に高まっていくことを示していると考えられます。ならば、まったく最初の「課題の設定」がややあやふやであっても気にすることはありません。続く、情報の収集や整理・分析を進めるうちに課題そのものへの理解が深まり、自身の姿勢も定まっていくと考えて構わないのです。むしろ、課題の設定がなかなか思うようにできず、結局スタートを切れずにいる状態が長く続く生徒を見ると、とても勿体無いと感じます。そもそも情報が足りていない状態でしっかりとした課題を設定することは困難です。少しでも興味・関心を感じることから、とにかく始めてみることを勧めます。

課題の設定には情報が必要

先にまず課題を設定しようとすると、その段階で手元に持っている知識や情報だけを頼りに設定することになります。それらの知識や情報の多くは、学校で教えてもらったことや、普段から本人に興味・関心があって、意識・無意識に収集している事柄です。

それらだけでしっかりとした課題を設定することに自信がある人はあまりいないでしょう。まだまだ知っていることが少な過ぎるかもしれませんし、様々な知識がまだ充分に統合・総合されていないかもしれません。そういう人は、その作業自体を「課題の設定」と捉えるのではなく、「課題候補の洗い出し」くらいに考えればよいのです。

その後、課題候補を絞り込む作業に入りますが、もし、この段階で一つに絞り込めなくても慌てることはありません。手元にはないが意思決定に必要と思われる情報を入手すべく動き出し、ある程度情報が揃ったら、それらを元に再度、絞り込み作業に取り掛かればよいからです。

情報収集における注意点

情報は「情(なさ)けへの、報(しら)せ」ですから、感情に訴えてくるものが情報です。同じ事柄に触れても、「これは面白い」と感じる人とそうでない人がいます。面白いと感じた人にはそれは情報ですが、そう思わない人にとって、それは情報ではありません。もちろん、「自分とは反りが合わない内容なので面白くない、興味がない」ということではありません。あなたの怒りを買う内容は、怒りという感情をあなたに起こしたわけですから「情報」です。あなたの中に何の変化も起こすことができない事柄が「今は、あなたにとって情報ではないもの」です。しかし、その原因は、その事柄の側にではなく、あなたの側にあると考えるのが妥当です。何かを情報と感じるかどうかは、あなたの情報感度、すなわち好奇心によるからです。

ということは、その問題に対するあなたの情報感度がまだ低いうちは、大切な情報であるにもかかわらず、それが情報であることにあなたが気付かず、見過ごしてしまうことがあり得るということです。螺旋階段を登っている間は、一度「これは関係ない」と見做してしまった事柄にも、再度目を通してみようとする態度が必要になります。

情報が増えれば、整理・分析も変わる

次の整理・分析は、情報に関して行うものですから、情報が増えれば当然再整理が必要になります。情報と判断したのはあなたですから、この整理・分析にあたって必要な注意は、いわゆる客観性の担保です。情報が主観的に選ばれていることを意識すれば、たとえば、検索で集めた情報については、こんなことをやってみる価値はあります。検索では、自分が元々探している情報を入手しようと動きがちです。そして、都合の良い情報が見つかると、それで検索自体をやめてしまいがちです。したがって、作業終了とする前に、見つかった情報に相反する意見を唱えているものがないかを必ず確認してみるようにします。一番簡単な方法は、あなたが求めている情報が見つかった後、検索窓にあるその検索ワードの直後に「嘘」という言葉を入れて、再度、検索をかけてみることです。

第21回 インターネットを活用して「考える」

まとめ・表現は「押し出す」こと

表現は英語で Expression と書きます。Ex (外方向に)、Press (圧をかける)、すなわち、自身の内面を外側に押し出す、の意です。見やすさやわかりやすさに留意し、相手によりよく伝わるように整理することはもちろん大切ですが、何よりもまずは伝えたい中身をしっかりと持ち、それをよく咀嚼・吸収・消化し、相手に伝わるように練り上げて出力することが必要です。少なくとも、精査が足りない中身の表面だけをただ取り繕って披露するということとはまったく異なります。

発表というと、「スライドを使うもの」と自動的に思ってしまいがちなところも要注意です。スライドの形式に「押し出す」のはこの場合は相応しくないと感じるなら、別の形での表現を考えるべきです。相手に一番よく伝わるにはどの方法・やり方を選ぶのがよいかを、まとめ・表現作業の最初に計画しなくてはなりません。

過程から定義する「探究」

これらの過程を経ることを意識すると、探究は、多くの情報に気付き、それらを咀嚼・吸収・消化し、自分独自の発信へとつなげ・重ねていくもの、とまとめることができそうです。

10歳からわかる「まとめ」

・「探究における生徒の学習の姿」に書かれた探究の過程①②③④にうまく則って探究を進めることは実際難しいかもしれない。特に①課題の設定に躓くことは多いだろう

・課題の設定は、その時点で手持ちの知識や情報に基づいて行うことになる。知っていることが少な過ぎたり、様々な知識がまだ充分に統合・総合されていなかったりする状態では、よい課題を設定することは難しい

・活用する情報の収集は、主観に基づいて行われていると考えるべき。客観性の担保が重要

・表現は、自身の内面を外側に押し出す、の意。中身によって、押し出すのに最適の形式・伝え方を計画すべき

・探究は、多くの情報に気付き、それらを咀嚼・吸収・消化し、自分独自の発信へとつなげ・重ねていくもの

第70回「探究はストーリーとエピソード」を読む