デザインとマーケティング
前期のみ非常勤講師として担当している大学でのマーケティング講義が、今年もそろそろ最終盤に差し掛かってきました。デザイン学科の学生を対象としているため、最後の回は「デザインとマーケティング」ということで話をしています。
セオドア・レビットの有名な言葉である「人々は、直径1/4インチのドリルが買いたいのではない。直径1/4インチの穴が欲しいのだ」との関連を意識した訳ではありませんが、私はここ何年も、最後に、「皆さんがデザインするのは製品ではなく、その製品を使ってくれるユーザーが感じる使い心地の良さや、使用・保有していることへの高揚感です。ユーザーの気持ちをデザインするのです」というようなことを受講生に伝えています。
「将来、自身が納得するデザインの製品が出来上がった時、それを完成させるまでの苦労話のような開発ストーリーを周りに話したくなるかもしれませんが、それよりも、製品を使ってくれたユーザーがフィードバックとして教えてくれる、その製品(のデザイン)に関するエピソードや感想の方を大切にすべきです」と伝えます。数多くのエピソードが得られれば、それだけ多くの人をハッピーな気分にする経験を、製品を通して提供出来たということになるのですから。
ストーリーとエピソード
言葉の意味としては、ストーリーは「お話全体」のことを指すのに対し、エピソードは「小分けされた話」を指します。いわば、本の各章のようなものです。もちろん、章だけでも一話が成立しているイメージです。また、エピソードにはもう一つ、実際に体験した特別な出来事についての話という意味もあります。私が前述で触れたのは、この、個人の体験に関するという意味合いを強く持った話のことです。
探究に当てはめると
探究学習の活動にストーリーとエピソードをあてはめるなら、発表では、まず、ストーリーの前半に、自身がテーマとした(社会の)問題について、調べてわかった背景や原因といったことが来ます。事実に基づき、時系列を意識しながら、様々な論点も網羅しつつ、読む人・聞く人にとってのわかりやすさを意識してまとめます。あらゆる読者層を想定し、事前の知識がない人にもわかりやすいようにまとめようとすると、その問題への自身の理解も更に深まります。
しかし、いくらわかりやすくまとまっていたとしても、それだけで終わってしまっては、もちろん、面白いお話にはなりません。どちらかといえば、後半の方が大切です。後半では、テーマとした問題を解決すべく自案を次々とぶつけていく過程が触れられていて欲しいものです。まさに、生徒が「実際に体験した特別な出来事」の詳細が述べられていく部分ですから、このパートによってこそ、レポートを読んでいる人や発表を聞いている人の興味がどんどんそそられていくことになるからです。
エピソードパートが薄い
高校の探究活動の様子を見る機会を持つようになって今年で3年目に入ります。3年続けてお邪魔している高校もあれば、2年目のところも、今年からというところもあります。今年からという高校については、4月に「探究とは」という話をしたばかりで、今まさに生徒達が自身のテーマと格闘している段階です。探究は調べ学習では終わらないこと、むしろそこから始まることを話していますが、調べ学習は大切ですから、1学期にしっかり行っていてくれることを願っています。もっとも、夏休み前までの間は、本格的に取り組むテーマを決める前の、自身の興味・関心に気付くことに時間をかけている学校もあります。毎年の年度末で終了させようとせず、3年間をかけてじっくり取り組む学校なら、それくらいのペースでも焦ることはまったくありません。どちらかといえば、その方が望ましいとも感じます。
更なる理想は、このじっくり取り組むスケジュールで、後半から、問題・課題に対する自身の解決案を数多くブツけた顛末をエピソード編に次々と書き込んでいってもらうことです。しかし、現実には、エピソードにほとんど触れられないままの発表になってしまっているケースが多く見られます。
明らかに、単純に時間が足りないことが大きな原因です。やり方・進め方にも充分に慣れていないことに取り組み、試行錯誤をしながら体得していこうとするのが探究ですから、生徒がしっかりと時間を取ることができるスケジュール設定が大切になるでしょう。
エピソードパート1を早めに計画
調べ学習を行っていると、「こうすれば問題を解決できるのではないか」というアイデアが、途中で浮かんでくるはずです。その時は、調べ学習を一旦横において、その解決案を整理し、文章にしてみることにしましょう。ふと思い付いただけですから、最初は、「でも、この場合は、ここで引っかかって最終的にはうまくいきそうにないな」ということにすぐ気付いてしまうかもしれません。その時は、ラフなアイデアだけを書き残しておくこととし、調べ学習に戻ることにします。次に、他の案が浮かんだり、最初のうまくいきそうにないと思ったアイデアの改良案などが浮かんだりするたびにまた手を止め、案を精査します。そのうち、これは行けそうかも、と思える案に出会うでしょう。
この段階に来たら、その案の実現可能性を、まわりの大人や専門家に本格的にみてもらうことを考えてみましょう。問題に詳しい大人たちとの相談・交流は、まさに面白いエピソードになりますが、問題そのものへのより深い理解にも繋がります。誰かに相談する他にも、自分たちで出来る実験に取り組むこともエピソードとして面白いでしょう。このように、鍵となるエピソードを挟みながら行ったり来たりして進むことが「探究の学習の姿」に示された螺旋図に該当します。
エピソードが一つ生まれると、次のエピソードも生まれやすくなります。本人が、次へ次へと進めたくなるからです。まずは一つ目の「実際に体験した特別な出来事」になる何かを、計画・実施してみましょう。
10歳からわかる「まとめ」
・探究の発表では、聞いている人・読んでいる人にストーリー展開をわかりやすく伝えたい
・前半では、自身がテーマとした(社会の)問題について、調べてわかった背景や原因などを説明し、後半では、問題を解決すべく自案を次々とぶつけていった過程に触れてほしい
・後半の、生徒が「実際に体験した特別な出来事」の詳細、つまりエピソードが述べられる部分が、探究での大切な部分
・生徒は、どうやるか、どう進めるかを試行錯誤しながら前進している。時間をじっくりかけられるスケジュール設定が必要
・その中で、自身が当事者意識を持って主体的に動いたエピソードの第一番目が生まれると、それを皮切りに次々と探究が展開されていくことが期待できる
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。