外部の人との相談会
探究活動を個人や班で実施している中学校や高校では、年間計画表の中に外部アドバイザーとの個別相談会を組んでいるところがあります。取り組む探究テーマが決まり、ある程度計画がまとまった段階で、外部の人から直接助言をもらい、更に中身を詰めていこうとする試みです。その日までに個人や班で充分に検討がなされていると、「よく考えられているな」と感心することも多々あります。一方で、「ここは、やりたいことがまだよくまとまっていない段階で今日の相談会を迎えてしまったのだな」という生徒たちと向き合うこともあります。とはいえ、各自のペースがありますから、全員の進み具合を一斉に学校スケジュールに揃えようとすることには、元々無理があるのかもしれません。
一方で、せっかくの相談会ですから、それをより有意義に実施するために必要な事前準備を心がける必要はあるでしょう。そこで、外部との相談会の前に、まずは学内での「相談会」を実施することを勧めたいと思います。他の班に属する生徒から、広く意見・ヒントを求めるために行う位置付けです。
余裕や興味ある生徒との討議
外部のアドバイザーに会う前に、生徒同士で意見を出し合ったり助け合ったりする「校内でのディスカッション」ですが、もちろん、全員の時間をそれに奪われてしまうと、自分たちの作業が進まなくなって困るということもあるでしょう。そこで、相談を投げかける側も、相談を受ける側も、全員強制的な参加とはしません。他の生徒に相談しなくても自分たちだけで進められる班は、相談する側としては参加しません。他の班の悩みに時間を割く余裕がない生徒も無理に協力する必要はありません。相談したい班だけが、そこに集まってくれた生徒向けに、自分たちが取り組もうとしていることを説明し、それに対して助言やアイデアやヒントをもらいます。おそらく、助言の前に質問を多く受けることになるでしょうから、相談する側は、まずはその一つひとつの質問にしっかり答えることを通して、自分たちのやろうとしていることを整理していきます。
ディスカッションを本格的に行うには
このディスカッションを軽い相談・雑談のつもりで、流れに任せて自由気ままにやろうとするのもひとつでしょう。アイデアは雑談の中から生まれるともいわれます。一方、本格的にディスカッションの流れを設計して実施しようとするのも、またひとつです。もし、本格的に実施するつもりなら、ディスカッションのガイドもしくはフローと呼ばれるものを作成して取り組んでみましょう。
より有意義なインプットを得ようとするには、まずは、しっかり考えてもらうための基礎情報を相手に伝える・与えることが大切になります。ここでは、例として、フードロスの問題に関して自分たちが今のところ考えている解決案を、より良いものとするために他の生徒に投げかけ案を練り上げる場合を考えてみましょう。前提として、同じ学年の生徒同士でのやり取りを想定していますから、相手に充分な知識があるとは限らないつもりで計画します。そうすると、相談するというより意見交換のニュアンスが強くなるでしょう。このような流れはどうでしょうか。
開始は情報提供のつもりで
最初は、フードロスの問題について、今回「相談相手」となるクラスメートがどの程度の認識やイメージを有しているかを確認することから始めます。ここでは、フードロスという言葉を聞いたことがあるかという問いかけから始めています。次に、言葉を知っているという人には、どの程度の知識がありそうかを確認し、イメージ・印象も尋ねる問いかけに繋げています。
最初はピンとこないような顔をしていた人も、他の人の話を聞きながら、「あぁ、あれのことか」となることはよくあります。たとえフードロスという言葉自体には馴染みがなかった人も、話にまったくついて来られないということではないはずです。お互い、話のやり取りのピントがずれていないことさえ確認できれば、そのまま話し続けて構いません。知識が足りなかった人は、話の途中で学びながら、「だったら、こういうのはどうか?」のような問いかけを投げる形で議論に参加してもらうことができるでしょう。
相談する側は、参加者の想像力を広げることを意識しながら、話題を展開していきます。フードロスの場合は、家庭でおこるもの、レストランやお店で生じるもの、生産者の段階で発生するものなどと話を横に広げていきます。
話を縦に広げる・深めるということでは、フードロスの実態や実情、次にその原因として考えられること、そして対策、のような順で話を繋いでいきます。
話を展開する中で、こちらが予想していなかった意見や考えなどが聞こえてきた際には、そこを重点的に突っ込み、参加者全員で深めていきます。進行する人に求められるのは、参加者の話を面白がる好奇心です。加えて、その興味が、参加している他の人にも同じように伝わるように配慮しながら進行することです。
いよいよ本番
実は、ここまでは、いわば準備運動・ウォームアップです。本番はここから。自分たちの解決案に対して意見をもらう最後のパートが最も肝心です。
ここまでの話の展開で、次に披露しようと考えていた解決案にヌケ・モレが見つかることもあるでしょう。そもそも、今回の話し合いは、自分たちの考えを深めることを目的に行なっていますから、そのようなことが起きるのは、むしろ有難いことです。したがって、事前に用意した案を提示する際には、前半でのインプットを元に、積極的なアレンジを口頭で加えながら行いましょう。時間的な余裕があるなら、用意した説明文を書き換えるようなことを行なっても構いません。少しの時間で訂正ができそうなら、5分休憩などを取った後、再開するのもいいでしょう。
集合視と集合聴
内部ディスカッションの目的は、ひとつの問題を、できるだけ多くの目で見、多くの耳でそれに関する意見などを聞きながら、発見を広げ解釈を深めていくことです。外部アドバイザーも、各分野のいわゆる「プロ」だけではありません。職業経験・人生経験に基づく一般的なアドバイスをしてくれる人も大勢います。きっと、時間をかければ生徒が自分たちだけで気が付くことができるようなことも、その中には含まれていることでしょう。であるなら、自分たちで悩み考えるという時間を積極的に取ってもらいたいと感じます。簡単に教えてもらうようなショートカットをしない方が、より探究らしいアプローチだと思えます。
10歳からわかる「まとめ」
・外部アドバイザーとの個別相談会を行う学校は、それをより有意義に活用するため、必要に応じて、事前に生徒同士での相談会を計画してはどうか
・生徒相談会は、全員強制参加ではなく、必要とする者と協力したい者で行えばよい
・生徒間で知識の差があまり無いテーマなら、相談というより意見交換のニュアンスが強くなろうが、多くの目で眺め多くの耳で聞くことによる新たな気付きは何かあるだろう
・その際、事前にディスカッション・ガイド(フロー)を準備し、段階的に整理して議論を進めれば、より効果が上がることが期待できよう
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
Inquiring Mind Saves the Planet. 探究心が地球を救う。