テーマはYes/No式での設定が理想
探究テーマの設定時にどのようにエビデンス対話を活用できるかについて説明します。
前回「地元の特産品を宣伝し、全国からより多くの注文が来るようにするにはどうしたら良いか」をあたかも探究テーマの例のように扱いましたが、実はこの程度の「粗さ」では、探究のテーマにするには少し大き過ぎます。単に課題を書いたに過ぎないからです。
第9回「良いアイデアを出したければまずはエビデンスを見つけよう」
学校の正課活動としての探究には時間の縛りもあります。一年間、二年間という限られた時間の中で「成果」を出す必要があります。私が理想とする進め方は以下の通りです。
- 課題に対して、ある程度「調べ学習」をした後、先に解決案を考案します
- いくつかの解決案のうち、その段階で最も有力と思われるものを取り上げ「この案は問題への解決策として有効か?」を問います。チームで「更なる調べ学習」「専門家インタビュー」「当事者インタビュー」等を行い、解決案の可否を問います
- 判定が「無効」「不十分」「有効だがベストではない」と出るうちは、案を次々と改良していきます。もちろん、概念的な解決案では判定は出ませんから、解決案は具体的でなければなりません
ブレストで解決案を出す
進め方を、次の問題・課題を通してみていきましょう。
【問題】○○市の若者は高校卒業後、多くが市外に就職・進学して結局そのまま戻ってこない。市の人口は、減少と高齢化に歯止めがかからない
【課題】○○市の若者に、高校卒業後も市内にとどまってもらう/出ても戻ってきてもらう方策を至急考える必要がある
この課題に対しチームでブレーンストーミングを実施し、出て来た案が下記の4つに分類できました。一つひとつ見ていきます。
【解決案①】若者を○○市から出さないよう、情報を遮断する
【解決案②】市内での教育・職業訓練を充実する
【解決案③】市内企業の業績・採用力を強化する
【解決案④】地元問題の解決を学びの目的にする
①は、さすがに物理的な「関所」を設けたりはしないものの、市外への流出の動機付けとなりかねない外からの情報を遮断し、加えておそらく自市の魅力アピールに特化した情報発信操作も行おうという案です。あまり現実的ではないですね。
②は、高校卒業後に市外に行く主な理由を「進学」と捉え、大学や専門学校に代わるシステムを市内に充実させるという案です。大学等を新設することに拘らないのは、卒業後の進路は仕事なのだから、職探しに有利な教育が何か受けられ、それが優先的就職に繋がるなら学校新設の投資も要らず一石二鳥ではないかと割り切っています。
③は、②とも関連します。市内の産業が充実し選択肢も多いなら、市外に就職先を探そう、もしくは、市外での就職をしやすくするために学生時代から市外に出ようなどとは思わなくなるだろうと考えました。
④は、大きくいうなら「自分の人生の目的は、解決すると誓った社会問題との格闘にある」とする人のためです。小さい頃から自分の生活エリアに目を向けてもらい、そこで見つけた地元の問題を解決したいという心を育みます。そうなると、市外に出るとしても、その問題解決が頭から離れることはないでしょう。途中寄り道があったとしてもいずれ地元に戻ってくるに違いないとの読みに基づく案です。
整理ができたら、どれをテーマにするかチームで相談し決定します。
テーマ決定後の進め方
ここでは②と③に通底する考え方に焦点を当てつつ探究の進め方を追っていきましょう。まず、通底する考えは、安定した就職と、仕事を中心とした人生設計の重視です。
②や③を進めようとすると、どこかの段階で、市役所や商工会議所、地元で有力な企業や産業団体に取材に行くことになります。人材・人財集めに苦労している地元業界は、実現性の問題は認めつつも、アイデア自体には歓迎の意を示すかもしれません。そうするとどうすれば実現できるかに絞って探究に入っていきそうです。
しかし、そのまま進んでしまうのではなく、先に、反対の人はいないかを探してみることが大切です。まず、反対者はどこにいそうかを想像します。
例えば過去に市外・県外に出て、そのまま戻って来ずに(各地を転々としながら)活躍している人です。中でも、地元の大学にある学部なのに、わざわざ県外の大学に進学したような人です。その人が市外に出た理由は何だったのか、出たことを正解だったと感じているか、それは何故か、具体的にどんな利点があったか、などを取材して欲しいと思います。
これが、テーゼに対するアンチテーゼに繋がります。結果、最初の案と、最初の案に真っ向対立する案が見え、かつ各々理屈はありそうだということに気づきます。この場合、対立する案は、「地元を離れる方が地元のことがよく見えることがある。離れた方が地元に貢献できる手段や実力を身に付けられることがある」ということになるでしょう。
両者の考えにそれぞれ一理あるとなれば、それをどうしたら「良いとこ取り」できるかを、考えていくことになります。
テーマタイトルとやっていることがズレてきたら
上記のことをやってみようとして、すぐ気付くことは、最初に設定したテーマの名称と実際にやっている探究が少しずつズレてくることです。
②を例に説明します。最初に設定したYes/Noテーマは「○○市の若者に、高校卒業後も市内にとどまってもらう/出ても戻ってきてもらうために、市内での教育・職業訓練を充実することは策として有効か」でした。ところが、実際の探究はその先まで進みました。
有効な部分は確かにあるが、問題もあることがわかったので、後半に探究したことは、その問題をどう解消するかということでした。そうすると、探究の成果発表の際、発表を聞いてくれる人の間で違和感が生じます。「実際にはその先のことまで探究しているのに、あのテーマ名ではそれが全然伝わってこなかったなぁ。もったいないなぁ」との感想を持つはずです。
探究を進めることは深掘りを続けることです。探究を始める時に付けたテーマを、進めながらどんどん深化させていきます。極論すれば、探究成果発表の最初に見せるべきは、テーマの移り変わりです。それを見せれば、このチームが一年間にどんな活動をしてきたかが一目瞭然に伝わるからです。「テーマは最初に決めるも真だが、最後に決まるも真」なのです。
10歳からわかる「まとめ」
・探究のテーマは「◯◯はできるか」のように「はい/いいえ」で答えられる形にする
・世の中の問題を見つけ、自分で考えた案でその問題を解決できるかを問う形のテーマ決めが理想
・関係する人に会うなどして案が実現できそうかを聞いてみるが、その時、反対しそうな人がいないかを考え、必ずその人の話も聞くようにする
・もし、反対意見にも納得するなら、両方成り立つ案に改良できないかを考える
・探究をどんどん進めると、やっていることとテーマ説明の言葉が合わなくなってくることがある。その時は、やっていることを言葉にしてテーマを修正する
・やってきたことの移り変わりが、あなたの探究の歴史になる
【旧:WEBマガジン・作家たちの電脳書斎 デジタルデン2023年5月3日公式掲載原稿 現:作家たちの電脳書斎デジタルデン 出版事業部 (https://digi-den.net/)】
ジャートム株式会社 代表取締役
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