総合での探究アプローチ

総合での探究

小学校の先生と話をしていると、総合学習の中に「探究的な取り組み」をどう盛り込んでいけばよいのか、常に苦心している様子が伝わってきます。一つの材料として、企業の新製品開発の例を「探究の過程」に当てはめながら、考えてみることにします。

課題の設定

探究の過程の最初に来ているのが「課題の設定」ですが、これが厄介です。課題を設定するにはそれ以前にやることがありますが、そのことには充分触れられていないからです。

例えば、家電メーカーが掃除機の改良新製品を開発する場合、掃除機の使用場面を思い浮かべたり使用している様子を実際に観察したりしながら、様々なことに気づき、考えるはずです。今もありますが、以前の掃除機は電源コード付きしかありませんでした。長い電源コードを引きずりながら、コードを家具にひっかけてしまったり、時には、掃除機本体までも家具や壁にぶつけたりしながら掃除する様子を目にしたことでしょう。コードが無くなればいいのになぁと考えたはずです。コードを無くすには懐中電灯のように、電池(バッテリー)式で充分役目を果たす掃除機を開発すればいいのですが、それには、ある程度の稼働持続時間を保ちつつ充分な吸引力も同時に発揮できるような強力な電池の開発が必須です。ここで、「条件を満たす強力電池の手配」を課題として設定することになります。

掃除機をかける様子を見ながら気づくことは他にもあるでしょう。吸引ヘッドの形状は、部屋の隅々の埃に対する処理能力に影響します。形状の異なる数種のアタッチメントを考えついたのはそんな時でしょう。また、ヘッドの形状が固定式か可動式かによって違いが出ることにも気づきました。人が立った状態で掃除機をかけるのにちょうど良いようにヘッド角が固定されていると、例えば重いソファの下に掃除機のヘッドを潜り込ませることができません。ヘッドを取り外すなどしない限り、いちいちソファを動かさなければソファの下に見える埃を吸い込めないわけです。そこで、「可動式ヘッドの開発」が課題として設定されました。

また、そもそも掃除は人がやらなくてはならないのか、という疑問も浮かんだことでしょう。「自動運転掃除機の開発」が目標となりました。人為的なヘッドの付け替えや家具の移動なしにムラなく部屋全体を効率的に掃除することが条件です。そのための仕組みや形状等の課題を列挙した上で、その一つひとつをクリアしながら製品の開発・完成に繋げていったことでしょう。

情報の収集

探究の過程の次に書かれているのは「情報の収集」です。先の掃除機の例で、情報の収集として行ったのは、おそらく下記のようなことではないかと思われます。まず、バッテリーに関しては、研究論文などをあたり、そのような強力なバッテリーの開発状況について専門メーカー等の動向や現況を調べたでしょう。バッテリーの品質向上が確認される度、自分たちで設定した条件をクリアできるか判定を重ね、次には、そのバッテリーを搭載した試作機を製作し、消費者テストを実施して一回の充電で稼働できる持続時間や吸引力について、消費者が満足かどうかフィードバックをもらったことでしょう。

情報の収集においては、実は、「試作品評価」を得ることが、開発の次の段階に進むにあたって非常に大切です。情報と聞いて、本や論文やウェブ上の記事といったことばかりを連想していると、この点を忘れがちかもしれません。

整理・分析

次の「整理・分析」は、上記の、試作機に対する評価を整理し、事前に設定した各目標や条件を満たしたものと満たしていないもの(問題点)に分類します。条件を満たせなかった部分については改良を施して「新しい試作機」の製作に活かすことになります。バッテリーの強化など時間がかかりそうな改良が必要と判断されれば次の試作機はなかなか完成しないでしょうが、外形を少し削るというような微調整ならすぐにでも対処が可能で、場合によってはその場ででもできてしまうかもしれません。

問題点が数多くあれば、それを「まとめ・表現」の過程で課題としてリストアップして、二周目の「課題の設定」に繋げることもあるでしょう。しかし、その場で対処可能な修正だけであれば、すぐに修正を施し、その修正版で「新しい試作機に対する評価=情報の収集」を繰り返して構いません。

螺旋がいつも型通りにまわる・繋がるとは限らないのです。

まとめ・表現

消費者テストにかけた試作品が事前に設定した条件を全て満たし、消費者から予想外の問題点を指摘されることもなく満足を得られたら、製品は完成したと考えてよいでしょう。「まとめ・表現」には、完成までの経緯が書かれることになりますが、螺旋の周回を何度か繰り返しているなら、それぞれの周回での「まとめ・表現」を合体させて最終版を作り上げることになります。もちろん、最終の「表現」は完成した製品自体です。一方、「まとめ」に書かれた内容は、完成までのストーリーと考えられます。企業の場合には、それを材料として、製品告知の広告作成に活かすこともあります。そんなことを意識してまとめを作成してみても面白いかもしれません。

残念ながら製品が完成しなかった場合は、この「まとめ・表現」は、これまでのストーリーに、次の周回のための「課題の設定」を加えて完成させることになります。

ところで、製品が完成しても、次にやりたいことが既に明確になっている場合もあるでしょう。その場合は、次の目標も「まとめ・表現」に加えたいものです。可能な限り児童・生徒全員が次の目標をもって、探究に一区切りがつけられることを目指します。

小学校での「探究の過程」の取り入れ

以上、企業の製品開発・改良を例に、「探究の過程」がどのようにまわっているかを見てみました。そこで行われていることを一言で表現するなら「実験の繰り返し」です。小学生もこれに倣って探究を実施すればよいと考えます。大切なことは、「やらされ感」を抱かせることなく取り入れることです。

「課題の設定」では、教科で既に実施することになっている栽培などを活用します。何を栽培するかを児童と相談しながら決められるなら、栽培学習の目的を子ども達に伝えた上で、どんな野菜を栽培してみたいか意向を聞いてみることにします。選んだ野菜が目的や条件に合わないなら、その理由を伝えて取り下げとし、代案を考えてもらいます。栽培の手間や美味しさ実現の難しさなどが、適切な挑戦要素を含んだ上で学年に応じたものかどうかが、目的や条件に合った題材選びの基準となります。

仮にスイカの栽培が選ばれたなら、「美味しいスイカ」とはどんなスイカかをまず考えてもらいます。甘い、水分としゃりしゃり感のバランス、色鮮やかさ等が挙がるでしょうか。次に、そんなスイカを育てるにはどのようなことに気をつければ良いと思うか、意見を聞きます。意見が出尽くしたところで調べ始めます。いきなり調べ始める前に意見を聞くのは、「予想して、その後に確認する」という中で、予想が当たった・外れた理由にしっかり目を向け、やり過ごさずに学んでほしいからです。「仮説・検証」の習慣付けにもなります。

スイカの場合の調べ学習では、インターネット検索でも様々な情報・条件が出てきそうです。水やりや肥料、水捌け、日照等が条件として出てくるでしょうか。もし、異なる畑で栽培できるとなれば、条件を変えた栽培を計画してみても面白いでしょう。種を複数種用意してみるのもいいでしょう。「比較実験」の可能性を探りましょう。

これに続く「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」は先の企業の例で示したことに準じますが、野菜栽培の場合、「試作品」の作成が年に一度しかできないことが大きな違いとなります。何か改善したいことがあった場合、翌年ももう一度同じ児童に挑戦させるのか1学年下の後輩に任せるのか。どちらのやり方にもそれぞれ良さがあります。

10歳からわかる「まとめ」

・企業における新製品開発の過程は「探究の過程」とみることができる

・企業の新製品開発は、試作品を試して改良を図る「実験の繰り返し」で成り立っている

・小学校では、教科で行うことになっている栽培などの「実践学習」に実験の要素を組み入れることで、児童は「探究の過程」を体験できる

・「仮説・検証」の習慣付けや「比較実験」の取り入れ等で、探究の精度を更に高めることができる

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