食育と地域探究
前々回は「ふるさと教育と地域探究」ということで書きました。ふるさと教育は「心の教育」(徳育)と関係が深いことにも触れています。
知育・徳育・体育で子ども達の生きる力を養うとする日本では、それに加え現在は、食育を「生きる上での基本であって生きる力の基礎となるべきもの」と位置付けています。農林水産省が食育推進基本政策を作成し、食品安全委員会、消費者庁、こども家庭庁、文部科学省、厚生労働省等の関係各府省庁等との連携を図りながら、政府として一体的に食育を推進しています。
様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てようとする食育は地域との関連も深く、自分が暮らす土地の特産食材や食の伝統に目を向けることも、当然、食育に含まれます。食育が目指す範囲は広く、食育を一言で表せる言葉は外国語にはないのではないかと思われるほどです。
食育ピクトグラム
農水省は食育普及のため「食育ピクトグラム」を用意しています。ピクトグラムには12の項目が並んでいます。1 みんなで楽しく食べよう、2 朝ごはんを食べよう、3 バランスよく食べよう、4 太りすぎないやせすぎない、5 よくかんで食べよう、6 手を洗おう、7 災害にそなえよう、8 食べ残しをなくそう、9 産地を応援しよう、10 食・農の体験をしよう、11 和食文化を伝えよう、12 食育を推進しよう、の中には、就学前の子ども達でも理解でき、取り組める項目があります。
この中で、より広がりを持つ「9 産地を応援しよう」を例に、小学校の中・高学年での活動・学習で、地域探究を絡めた食育にどのように取り組んでいけそうかを考えてみます。
産地としての地元
まず、子ども達には、農林水産品の産地としてみた場合、自分達が暮らす土地にはどのような食材産品があるかを調べて知ってもらいます。「地元」を市や県の単位でやや広めに捉えるなら、様々な産品の存在を知ることでしょう。いわゆる「珍しい作物」や「特産品」だけに限らず、「指定野菜」等の日頃慣れ親しんだものも含めて調べます。この時、作物の種類毎に作付面積や生産量・出荷量など、可能なものについては、数量的な把握にも努めます。市の単位で考えるなら、その出荷量(t)を市の人口で割ってみて一人当たりのグラム数を出したり、それを年間日数で割って、一日あたりに換算したりしてみます。平均的な作物一個・一本あたりの重さを手元で計り、それで割って、作物毎に一人あたり年間何個・何本とわかれば、より実感しやすくなります。さらに、人参・玉ねぎ・じゃがいも等であれば、例えばカレーライスの一般的なレシピを参考に何皿分に相当するかを計算してみて、実感の手助けとするのもよいでしょう。
また、自分が好きな野菜・果物・魚・肉などがあれば、それが地元で作られているか獲られているか育てられているかを調べてみるのもよいでしょう。
応援について
「産地」についての調べ学習が一通り済んだところで、次は「応援」について考えてみます。スポーツ選手や芸能人、あるいは家族や友達等、ヒトを応援することには経験のある子ども達も、何かモノを応援するというとどうすればいいのか簡単にはイメージできないでしょう。何かアイデアが出ても、考えれば考えるほど、様々な広がりや深まりに発展しそうなテーマでもあります。ここは、ディスカッションの場面です。応援とはどういうことか、どうすることが応援になるのか、それを実際に実施するにはどんな準備が必要か、というようなことを話し合います。行ったり来たりしながらで構いません。ブレーンストーミング方式で、誰かの意見を否定することなく、むしろ、それに乗っかって案を広げる感じで進めてみましょう。友達の意見を聞いた後、「だったら、こんなのもいいかも?」と話を続けていくように進めます。
ここで、もし、子ども達の中に「恥ずかしがり」が多そうな教室であれば、まずは個別に黙って書くブレーンライティングを試してみるのもいいかもしれません。
数多くの案が出てきたら、今度は、それらを整理する段階に入ります。その際は、誰・何に対して、どんなシーン(時と場所)で行われる応援かということで分類を試みます。野菜等の食材や、それを育てる土や肥料や水の身になって考えてみるのも面白いでしょう。また、食材が畑などで育てられるところから家で料理となって自分の口に入るところまでを場面・工程毎に分解してみて、生産者、流通関係者、家族など、各段階で関わってくれているそれぞれの人達を「応援」するなら、どんなことがありそうかを考えてみましょう。
自分に出来る応援
応援策を考える場合は、自分達で日頃から出来そうなことに注目して考えることが大切です。どんなことが応援になり、どんなことは応援にならないのかを意識しながら、自分の食習慣を見直すようなことにもつなげてもらいたいものです。
食べて消費することが応援につながる状況を見つけたなら、美味しく食べられる調理方法などを工夫してみるのもいいでしょう。その、美味しい食べ方、新しい食べ方を誰かに伝えて消費仲間を増やすことは応援です。
一方、その土地ではもうあまり生産されなくなっている食材があることを知ったなら、なんとかその栽培を復活させようと思うかもしれません。それも立派な応援でしょう。
10歳からわかる「まとめ」
・食育は生きる上での基本であって生きる力の基礎となるべきものと位置付けられている
・12の食育ピクトグラムの中には、就学前の子ども達でも取り組めるものがある
・「産地を応援しよう」は、小学校の中学年あたりから取り組み始められるテーマだろう
・地元が何の産地かを知ったら、応援について、応援とはどういうことか、どうすることが応援になるのか、それを実際に実施するにはどんな準備が必要か、と話し合ってみよう
・自分にできる応援が見つかったら、それに取り組んでみよう
ジャートム株式会社 代表取締役
学校・企業・自治体、あらゆる人と組織の探究実践をサポート。
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